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七。
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その日、普段人の声など聞こえない離宮からは、女の甲高い声が外まで響いていた。
「貴方!!私を誰だと思っていますの!?」
目を吊り上げながら、鼻息を荒くし、まるで般若のような顔をしている女性が、ルゥの前に立っていた。
「、、、わからないのですぅ。」
こういう態度をとってくる相手へのメイドとして正しい対応も心得てはいるが、ルゥは口元に手を当て、相手を馬鹿にしたように言い返す。
だが、その対応を間違っているとはルゥは思わない。
今、ルゥの目の前にいる女性は、今日ノアがお見合いするはずの相手である。
真っ白に塗りたくった顔に真っ赤な唇、離れていても香ってくるきつい香水の香りをした女性は自分は伯爵令嬢なんだから、ノアに合わせろ!と喚き出したのだ。
ノア様は準備中なため、こちらでお待ちくださいと応接間の客椅子に座るよう正しても、聞く耳を持たず、冒頭へと戻るのだ。
最初こそ、メイドとしての対応をしていたが、余りにも言葉が通じず、ルゥは限界であった。
「貴方!!!何よその言い方は!?私を馬鹿にしているのね!私を誰だと思っているの!?貴族よ、伯爵令嬢よ?私を敬いなさい!」
声を更に荒げ、怒るさまは何とも醜いものである。
淑女とは、どんな時でも品よくいろと、言われなかったのか?とルゥは思いながらも、ニッコリとその顔に笑顔を貼り付け、言い返した。
「ここでお待ちくださいと言った私に対し、声を荒げ出したのは、貴方様の方ではないですかぁ。言葉が通じない人とはルゥも話せないのですぅ。」
ルゥの話し方は、時に他人を不快にさせることは重々承知している。
知った上で、この話し方を決して変えなかった。
「あんたねぇ!?下僕のくせに、生意気なのよ!」
般若のように顔を歪ませた令嬢は、自分の手を大きく振り上げた。
そして、あっ、叩かれるとルゥが思ったと同時に、『パシンッ!』と鈍い音が部屋に響く。
痛みと共に頬を抑えると、だんだんと頬が熱くなってくる。
とても、痛い。が、ルゥはこの時を待っていた。
「あっ、、あんたが悪いのよ!!!」
自分でも叩く気まではなかったのだろう、令嬢はバツの悪そうな顔をしながら、自分の手とルゥを交互に見て、焦っているのがわかる。
そんな令嬢を見ながら、ルゥは口角を吊り上げニコリと笑った。
「、、、なに、あんた気持ち悪い。。」
叩かれても尚笑顔を見せるルゥを見て、令嬢が顔を引き攣らせる。
暫くすると、バタバタといくつかの応接間の方へと向かってくる足音が聞こえる。
足音が聞こえ始めると、今だと言わんばかりにルゥは眉を八の字にし、ポロリとその目から涙をこぼす。
「何があった!!?」
勢いよくドアが開かれたかと思えば、ノアが部屋に入ってきた。
急いできたのであろう、息を切らしたノアはルゥと令嬢を交互に見た。
その様子からは、女性の言い合いの声が聞こえ、すぐにここまで駆けつけてきたのが見てとれる。
「ノア様~、ルゥは何もしてないのに、ただ座って待っててくださいって言っただけなのに、、、」
真っ赤に染まった頬を押さえながら、ルゥは目から涙をこぼした。
「ルゥ、、、。」
真っ赤に腫れた頬をノアが抑えてあげれば、とても強く叩かれたのであろう、その頬は腫れ上がり熱を帯びている。
「違うんです!!ノア様!私はただ、、ただノア様に会いたいという一心をお伝えしていたら、そこの下僕が!!」
令嬢はひたすら自分は悪くないと言い続けるが、ノアは聞く耳も持たず、側らにいた護衛に「連れてけ」と一言命じ、応接間のドアを閉じた。
その後も、女が抵抗しているのであろう、叫び声が聞こえるが、ノアは気にする素振りも見せず、頬を赤く染めたルゥを抱きしめた。
「ルゥ、、今痛みが消える薬を作ってあげるから。」
痛々しい程に腫れ上がった頬を優しく撫で、自分の事のように悲しそうな顔をするノアを見て、ルゥはまた涙をこぼした。
「ルゥは、全然大丈夫なんです。ノア様が直ぐにきてくれたから、大丈夫なのです!ノア様!好き!」
その涙の意味を、ルゥは悟られぬよう、無理矢理笑みを作ってみせる。
「無理するな。今、痛みをなくしてやるから。」
ノアはルゥを横抱きし、自室へと足をすすめた。
きっとルゥに薬を作ってくれるのだ。
ルゥはそれがわかってるゆえ、悲しくなった。
自分は、ノアの痛みを消してあげる事ができないのに。
何もできない自分に、ルゥはただただ腹立たしさを覚える。
暫くすれば、ノアが出来上がった薬をルゥの赤くなった頬に塗る。
「痛くないか?」とルゥを気遣いながら、とても優しく薬を塗ってくてくれる。
薬を塗ってもらった頬は、薬が効いているのか、スースーとした。
「ノア様。」
「なんだ。」
ぶっきらぼうな返事だが、その声はとても優しい。
「好きですよぅ。」
「あぁ、、。」
薬を頬に塗りながら、ノアはまたぶっきらぼうに返事をする。
「ノア様が痛い思いをした時は、ルゥがとってあげますから!」
といえば、ノアは「何だそれ。」と頬を緩め、ルゥに笑いかけたのだった。
「貴方!!私を誰だと思っていますの!?」
目を吊り上げながら、鼻息を荒くし、まるで般若のような顔をしている女性が、ルゥの前に立っていた。
「、、、わからないのですぅ。」
こういう態度をとってくる相手へのメイドとして正しい対応も心得てはいるが、ルゥは口元に手を当て、相手を馬鹿にしたように言い返す。
だが、その対応を間違っているとはルゥは思わない。
今、ルゥの目の前にいる女性は、今日ノアがお見合いするはずの相手である。
真っ白に塗りたくった顔に真っ赤な唇、離れていても香ってくるきつい香水の香りをした女性は自分は伯爵令嬢なんだから、ノアに合わせろ!と喚き出したのだ。
ノア様は準備中なため、こちらでお待ちくださいと応接間の客椅子に座るよう正しても、聞く耳を持たず、冒頭へと戻るのだ。
最初こそ、メイドとしての対応をしていたが、余りにも言葉が通じず、ルゥは限界であった。
「貴方!!!何よその言い方は!?私を馬鹿にしているのね!私を誰だと思っているの!?貴族よ、伯爵令嬢よ?私を敬いなさい!」
声を更に荒げ、怒るさまは何とも醜いものである。
淑女とは、どんな時でも品よくいろと、言われなかったのか?とルゥは思いながらも、ニッコリとその顔に笑顔を貼り付け、言い返した。
「ここでお待ちくださいと言った私に対し、声を荒げ出したのは、貴方様の方ではないですかぁ。言葉が通じない人とはルゥも話せないのですぅ。」
ルゥの話し方は、時に他人を不快にさせることは重々承知している。
知った上で、この話し方を決して変えなかった。
「あんたねぇ!?下僕のくせに、生意気なのよ!」
般若のように顔を歪ませた令嬢は、自分の手を大きく振り上げた。
そして、あっ、叩かれるとルゥが思ったと同時に、『パシンッ!』と鈍い音が部屋に響く。
痛みと共に頬を抑えると、だんだんと頬が熱くなってくる。
とても、痛い。が、ルゥはこの時を待っていた。
「あっ、、あんたが悪いのよ!!!」
自分でも叩く気まではなかったのだろう、令嬢はバツの悪そうな顔をしながら、自分の手とルゥを交互に見て、焦っているのがわかる。
そんな令嬢を見ながら、ルゥは口角を吊り上げニコリと笑った。
「、、、なに、あんた気持ち悪い。。」
叩かれても尚笑顔を見せるルゥを見て、令嬢が顔を引き攣らせる。
暫くすると、バタバタといくつかの応接間の方へと向かってくる足音が聞こえる。
足音が聞こえ始めると、今だと言わんばかりにルゥは眉を八の字にし、ポロリとその目から涙をこぼす。
「何があった!!?」
勢いよくドアが開かれたかと思えば、ノアが部屋に入ってきた。
急いできたのであろう、息を切らしたノアはルゥと令嬢を交互に見た。
その様子からは、女性の言い合いの声が聞こえ、すぐにここまで駆けつけてきたのが見てとれる。
「ノア様~、ルゥは何もしてないのに、ただ座って待っててくださいって言っただけなのに、、、」
真っ赤に染まった頬を押さえながら、ルゥは目から涙をこぼした。
「ルゥ、、、。」
真っ赤に腫れた頬をノアが抑えてあげれば、とても強く叩かれたのであろう、その頬は腫れ上がり熱を帯びている。
「違うんです!!ノア様!私はただ、、ただノア様に会いたいという一心をお伝えしていたら、そこの下僕が!!」
令嬢はひたすら自分は悪くないと言い続けるが、ノアは聞く耳も持たず、側らにいた護衛に「連れてけ」と一言命じ、応接間のドアを閉じた。
その後も、女が抵抗しているのであろう、叫び声が聞こえるが、ノアは気にする素振りも見せず、頬を赤く染めたルゥを抱きしめた。
「ルゥ、、今痛みが消える薬を作ってあげるから。」
痛々しい程に腫れ上がった頬を優しく撫で、自分の事のように悲しそうな顔をするノアを見て、ルゥはまた涙をこぼした。
「ルゥは、全然大丈夫なんです。ノア様が直ぐにきてくれたから、大丈夫なのです!ノア様!好き!」
その涙の意味を、ルゥは悟られぬよう、無理矢理笑みを作ってみせる。
「無理するな。今、痛みをなくしてやるから。」
ノアはルゥを横抱きし、自室へと足をすすめた。
きっとルゥに薬を作ってくれるのだ。
ルゥはそれがわかってるゆえ、悲しくなった。
自分は、ノアの痛みを消してあげる事ができないのに。
何もできない自分に、ルゥはただただ腹立たしさを覚える。
暫くすれば、ノアが出来上がった薬をルゥの赤くなった頬に塗る。
「痛くないか?」とルゥを気遣いながら、とても優しく薬を塗ってくてくれる。
薬を塗ってもらった頬は、薬が効いているのか、スースーとした。
「ノア様。」
「なんだ。」
ぶっきらぼうな返事だが、その声はとても優しい。
「好きですよぅ。」
「あぁ、、。」
薬を頬に塗りながら、ノアはまたぶっきらぼうに返事をする。
「ノア様が痛い思いをした時は、ルゥがとってあげますから!」
といえば、ノアは「何だそれ。」と頬を緩め、ルゥに笑いかけたのだった。
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