薬草王子に恋するメイド。

霙アルカ。

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二。

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ルウは怒っていた。

目の前にいる好きな男に「本当に女か?」と何とも酷い事を言われたのである。

一瞬何を言われたのかわからずにポカンとした後、言葉を理解し自分でも考える前にポタポタと涙がこぼれていた。

確かに、ルウは年頃の女の子よりは化粧等も薄く、おしゃれだって余り得意ではないが、れっきとした女である。

他の男に言われるならきっと何も思わなくても、好きな人にそんな事を言われれば、流石のルウでも悲しかった。

「あーっと、、、ルウ泣くな。」

困ってるのか綺麗な顔は少し焦ってる。

いい気味である。

もっと困ればいいと思い更に涙を流すと、眉を八の字にさせ、ノアが大層困っている事がわかった。

薬草を混ぜ合わせている時以外に見せない表情を自分に向けてくれて、ルウはそれだけで嬉しいと思った。

本当に女か?と言われた事は既に許してしまいそうではあるが、ルウは目にたっぷり涙を浮かべ「ルウだって、女の子なのに。酷いです。。」と泣きながら言ってやった。

軽く嘘泣きである。

だが、そんな事に気づかないノアは、オロオロと困っている。

薬草としか向き合ってこなかったノアにとって、こう言った時の対処法はよくわからない。

「ルウ。どうしたら泣き止んでくれる?」

いつも少し冷たい口調は優しく、顔を掴んでいた手を離し、そっと頬を撫でてくれる。

「ひっ、うっ。」と嗚咽を漏らしながら、興奮で鼻あたりに手を持っていき、泣いてみる。

因みにこれは、いきなり優しくされ、鼻血が出そうになったのを抑えているだけである。

「ノア様がぎゅって抱きしめてくれて、キスしてくれたら許します。」

欲望に忠実なルウはこんな時にしか頼めないであろう願いを、望み半分願ってみた。

99%くらいは却下されるってわかってるのだけれど、、、1%でもチャンスがあるのなら、願わずにはいられない。

そんな薄い望みだったのだが、気づけばフワリと薬草の香りに包まれていた。

ルウよりは大きいが、男の人にしては小さめな体をしているノアの抱擁はとても優しい。

「のっノア様??」

本当にしてくれるとは思っていなかったものだから、泣くのも忘れノアをみる。

「ルウ。」

先程までの手の動きとは違い、自分の頬を撫でるその手はどこかいやらしさすら感じる。

自分を見るノアの目には熱が宿り、自分の名前を呼ぶその声はどこか艶っぽい。

ルウはこんなノアを見るのが初めてだった。

「ノア様???」

どこかおかしいのが見ていてわかる。

部屋中に先程まで自分が擦っていた薬草等の香りが充満しており、その香りのキツさに鼻がツンと痛む。

鼻を押さえたいが鼻に持っていきかけた手を掴まれ、それすらできない。

「ルウ。こっちを向いて。」

熱のこもった声で呼ばれれば、たまらずそちらを見てしまう。

綺麗な青い瞳が自分を見ている。

コツンと額と額がぶつかるほど近くまで、その綺麗な顔が近づいてきた。

栗色のサラサラとした綺麗な髪が自分の頬に当たり、何だかくすぐったい。

自分からキスだってできるのに、何だかとても恥ずかしい。

「ノア様。」

恥ずかしさを隠すように、そっと目を瞑れば、前回とは違い、ずっと想像してた柔らかい唇が自分の唇を塞いだ。

離れたかと思いそっと目を開ければ、「ルウ。」と名前を呼ばれまた塞がれる。

「あっ、ノア様、、待って。」

その声は聞こえてないのか、何度も何度も唇を塞がれ息をするのもやっとである。

「ルウ。ルウ。」と何度も自分を呼んで、自分を見てくれて、沢山キスしてくれて、、ずっと願ってた事なのに、ルウは全く嬉しくなかった。

それどころか、悲しく怖かった。

自分にキスを落とすノアは、心ここに在らずといった表情になっており、どこか怖い。

「ノア様、んっ、、やめっ、、。」

ポタポタとまた涙が溢れた。

その涙は恐怖と悲しみと、、息苦しさから。

でも、その行為は長い間続き、息苦しさで意識が朦朧とする中、何度も何度も名前を呼ばれながら、ルウが意識を失うまで、ずっと続いたのだった。
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