11 / 25
十
しおりを挟む
「では、行きましょうか。」
そう言い、スタスタと柊さんは歩き始める。
2人はあまり仲が良くないのだろうか。
「できるなら迷い人を式神に乗せて出口まで安全に運びたいのですが、2人が限界でして。人を喰わないとは言え、鬼灯は鬼なので空中で2人きりは怖いでしょうし、難しいところなのです。」
確かに柊さんがいれば大丈夫だったけど、2人っきりは怖いというより、気まずい。
それは、人間も初対面同士だと何を話せばいいのか戸惑うのと同じだと思う。
柊さんの口ぶり的に、2人はいつも一緒に行動しているということなのだろうか。
「柊さんと鬼灯さんとはどういう関係なんですか。」
僕の何気ない質問に柊さんはしばし黙って言葉を探していた。
そして、「殺し、殺される関係ですかね」と答えた。
「え。」
そんな物騒な発言が出るとは思っておらず、腐れ縁とかかなとほのぼのと想定していた僕は聞き間違えたのかと思った。
「柊家の本来の役目は鬼灯の首を斬り、鬼の世界を完全に閉じること、ですので。」
どうして鬼灯さんの首を斬ると鬼の世界が閉じることになるのだろう。
「一体いつになったらその役目を達するんだかな。お前らが勝手にころころ死んでゆくばかりで俺はぴんぴん生きてるぞ。」
いつの間にか僕の隣に鬼灯さんが歩いていた。
また、式神から降りたのか。
僕は空を見上げてみたが、式神の影は無い。
どれくらい高く飛んでいるのだろう。
そこから音もなく降りてくる鬼灯さんは鬼だからまだしも、柊さんも同じように降りてきているのなら、身体能力の高さがすごすぎやしないか。
柊さんは鬼灯さんの声にちらりと振り向いたが、足は止めない。
「式神に乗らないのなら私たちが使うけど。」
「そしたら俺が乗れなくなるだろう。」
「そうだね。」
当たり前というように柊さんは頷く。
鬼灯さんはジャンプして柊さんの隣へと移動する。
「式神を低く飛ばせろ。そしたら楽だ。」
「勝手に降りたのはそっちでしょう。たまには歩いたら?」
「お前の式神が俺の言うことを聞かんのが悪い。」
「私の式神だから当然でしょう。」
僕は言い合う2人の後ろを歩いている。
あの大きな式神も紙からできているのだろうか。
人が乗れるくらい丈夫なんだから特殊なものなのか、はたまた別の、紙ではないものなのか。
僕にもできたらいいけど、できないんだろうな。
まだ言い合っている2人を僕はぼんやりと風景と共に眺める。
柊さんははっきりとは言っていないけれど、鬼灯さんは確かに現実と言った。
鬼がいることが現実だとしたら、夢も現実もさして変わりはなく、むしろ現実の方がありえないことだらけなのかもしれない。
「出口に着きました。今回はこの木とこの木の間となります。」
昨日と同じく僕にはただの木にしか見えない。
「あの、一つお願いがあるんですけど。」
「なんでしょうか。」
「僕が今から名前を書いた紙を柊さんに渡すので、明日学校でそれを見せて欲しいんです。」
「分かりました。現実の証明と言ったところでしょうか。」
「はい。」
僕はリュックからメモ帳とボールペンを出して佐藤唯人と書く。
「小僧、俺が現実と言ったのに疑い深いんだな。」
「いえ、鬼灯さんが現実と言ってくれたから確かめたいと思ったんです。」
僕は、ピッと名前を書いた一枚をちぎり、柊さんに渡す。
「お願いします。」
「確かに受け取りました。では、お昼休みに今日と同じ場所でお待ちしております。」
「ありがとうございます。それじゃあ、また、明日。」
「振り返らないよう、お気を付けて。」
そうして僕はまた鬼の世界を背に、後にした。
そう言い、スタスタと柊さんは歩き始める。
2人はあまり仲が良くないのだろうか。
「できるなら迷い人を式神に乗せて出口まで安全に運びたいのですが、2人が限界でして。人を喰わないとは言え、鬼灯は鬼なので空中で2人きりは怖いでしょうし、難しいところなのです。」
確かに柊さんがいれば大丈夫だったけど、2人っきりは怖いというより、気まずい。
それは、人間も初対面同士だと何を話せばいいのか戸惑うのと同じだと思う。
柊さんの口ぶり的に、2人はいつも一緒に行動しているということなのだろうか。
「柊さんと鬼灯さんとはどういう関係なんですか。」
僕の何気ない質問に柊さんはしばし黙って言葉を探していた。
そして、「殺し、殺される関係ですかね」と答えた。
「え。」
そんな物騒な発言が出るとは思っておらず、腐れ縁とかかなとほのぼのと想定していた僕は聞き間違えたのかと思った。
「柊家の本来の役目は鬼灯の首を斬り、鬼の世界を完全に閉じること、ですので。」
どうして鬼灯さんの首を斬ると鬼の世界が閉じることになるのだろう。
「一体いつになったらその役目を達するんだかな。お前らが勝手にころころ死んでゆくばかりで俺はぴんぴん生きてるぞ。」
いつの間にか僕の隣に鬼灯さんが歩いていた。
また、式神から降りたのか。
僕は空を見上げてみたが、式神の影は無い。
どれくらい高く飛んでいるのだろう。
そこから音もなく降りてくる鬼灯さんは鬼だからまだしも、柊さんも同じように降りてきているのなら、身体能力の高さがすごすぎやしないか。
柊さんは鬼灯さんの声にちらりと振り向いたが、足は止めない。
「式神に乗らないのなら私たちが使うけど。」
「そしたら俺が乗れなくなるだろう。」
「そうだね。」
当たり前というように柊さんは頷く。
鬼灯さんはジャンプして柊さんの隣へと移動する。
「式神を低く飛ばせろ。そしたら楽だ。」
「勝手に降りたのはそっちでしょう。たまには歩いたら?」
「お前の式神が俺の言うことを聞かんのが悪い。」
「私の式神だから当然でしょう。」
僕は言い合う2人の後ろを歩いている。
あの大きな式神も紙からできているのだろうか。
人が乗れるくらい丈夫なんだから特殊なものなのか、はたまた別の、紙ではないものなのか。
僕にもできたらいいけど、できないんだろうな。
まだ言い合っている2人を僕はぼんやりと風景と共に眺める。
柊さんははっきりとは言っていないけれど、鬼灯さんは確かに現実と言った。
鬼がいることが現実だとしたら、夢も現実もさして変わりはなく、むしろ現実の方がありえないことだらけなのかもしれない。
「出口に着きました。今回はこの木とこの木の間となります。」
昨日と同じく僕にはただの木にしか見えない。
「あの、一つお願いがあるんですけど。」
「なんでしょうか。」
「僕が今から名前を書いた紙を柊さんに渡すので、明日学校でそれを見せて欲しいんです。」
「分かりました。現実の証明と言ったところでしょうか。」
「はい。」
僕はリュックからメモ帳とボールペンを出して佐藤唯人と書く。
「小僧、俺が現実と言ったのに疑い深いんだな。」
「いえ、鬼灯さんが現実と言ってくれたから確かめたいと思ったんです。」
僕は、ピッと名前を書いた一枚をちぎり、柊さんに渡す。
「お願いします。」
「確かに受け取りました。では、お昼休みに今日と同じ場所でお待ちしております。」
「ありがとうございます。それじゃあ、また、明日。」
「振り返らないよう、お気を付けて。」
そうして僕はまた鬼の世界を背に、後にした。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説


どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
女難の男、アメリカを行く
灰色 猫
ライト文芸
本人の気持ちとは裏腹に「女にモテる男」Amato Kashiragiの青春を描く。
幼なじみの佐倉舞美を日本に残して、アメリカに留学した海人は周りの女性に振り回されながら成長していきます。
過激な性表現を含みますので、不快に思われる方は退出下さい。
背景のほとんどをアメリカの大学で描いていますが、留学生から聞いた話がベースとなっています。
取材に基づいておりますが、ご都合主義はご容赦ください。
実際の大学資料を参考にした部分はありますが、描かれている大学は作者の想像物になっております。
大学名に特別な意図は、ございません。
扉絵はAI画像サイトで作成したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる