1 / 7
一
しおりを挟む
「私が死んだら私を忘れてね」
「それは無理だよ。そもそも死ぬなんて言わないで」
ソファに座って2人でのんびりテレビを見ていた。チャンネルはバラエティ番組で死からは遠い内容だった。
「人は必ず死ぬんだよ。早かれ遅かれ」
「それは、そうだけど……。なんで忘れろなんて言うの?」
テレビの音量を下げる。消さなかったのは静かな空間で死の話をすると重くなりそうだったから。
普通の世間話のように。なんでもない話のように。
テレビから聞こえる会話を邪魔しない程度の笑い声がちょうどいい。
「死んだら生きてる人間には二度と関われない。私は君には幸せに生きて欲しいんだ。死んだ私のことなんか忘れて自分の人生を楽しんで生きて欲しいと思う。君はどう?」
「僕も死ぬ側なら君と同じ考えだよ。僕の死に囚われず自分を大切にして幸せに生きて欲しい。でも、残される側なら君のことは忘れたくないし忘れられないよ。君は僕のことをさっぱり忘れられるのかもしれないけど」
顔を見ては話さない。視線はテレビを見ている。
だけど多分2人とも笑っていなくて泣きそうな顔をしているんだ。
「私は君より先に死ぬ予定だから大丈夫だよ。君を忘れたくないから君は私より長生きしてね」
「わがままだなぁ」
「似た者同士なんだよ」
ふっと2人の力が抜けて泣きそうな顔が緩んだからか、お昼ご飯を食べた後のゆったりした空気が戻ってきた。
「……やっぱり、忘れないとダメ?」
「愛した者に化けて出てくるんだって」
「なにが?」
「魔物が。死んでしまった愛する者をずっと忘れられずにいると魔物が寄ってきてその愛した者そっくりに化けて騙して魂を食べるの。魂が食べられると生まれ変わることが出来ずに来世で会うことができなくなる」
「それは、嫌だね」
「うん。だから君は私のことを忘れるんだよ。それでももし私が死んでから君の元に私が訪れたらそれは魔物だから。魔物が君の名を呼んだら君は誰だっけ?って答えるの。絶対に私の名前を呼んじゃダメ。分かった?」
「……分かったよ。頑張って長生きする。だから君もおばあちゃんになるまで生きるんだよ」
──もしかしたら君が死ぬ前に認知症になって全てを忘れているかもしれないけどそれは許してね。
──私が死ぬまでは、君が私を忘れちゃっても私が君を覚えてるから大丈夫だよ。
「それは無理だよ。そもそも死ぬなんて言わないで」
ソファに座って2人でのんびりテレビを見ていた。チャンネルはバラエティ番組で死からは遠い内容だった。
「人は必ず死ぬんだよ。早かれ遅かれ」
「それは、そうだけど……。なんで忘れろなんて言うの?」
テレビの音量を下げる。消さなかったのは静かな空間で死の話をすると重くなりそうだったから。
普通の世間話のように。なんでもない話のように。
テレビから聞こえる会話を邪魔しない程度の笑い声がちょうどいい。
「死んだら生きてる人間には二度と関われない。私は君には幸せに生きて欲しいんだ。死んだ私のことなんか忘れて自分の人生を楽しんで生きて欲しいと思う。君はどう?」
「僕も死ぬ側なら君と同じ考えだよ。僕の死に囚われず自分を大切にして幸せに生きて欲しい。でも、残される側なら君のことは忘れたくないし忘れられないよ。君は僕のことをさっぱり忘れられるのかもしれないけど」
顔を見ては話さない。視線はテレビを見ている。
だけど多分2人とも笑っていなくて泣きそうな顔をしているんだ。
「私は君より先に死ぬ予定だから大丈夫だよ。君を忘れたくないから君は私より長生きしてね」
「わがままだなぁ」
「似た者同士なんだよ」
ふっと2人の力が抜けて泣きそうな顔が緩んだからか、お昼ご飯を食べた後のゆったりした空気が戻ってきた。
「……やっぱり、忘れないとダメ?」
「愛した者に化けて出てくるんだって」
「なにが?」
「魔物が。死んでしまった愛する者をずっと忘れられずにいると魔物が寄ってきてその愛した者そっくりに化けて騙して魂を食べるの。魂が食べられると生まれ変わることが出来ずに来世で会うことができなくなる」
「それは、嫌だね」
「うん。だから君は私のことを忘れるんだよ。それでももし私が死んでから君の元に私が訪れたらそれは魔物だから。魔物が君の名を呼んだら君は誰だっけ?って答えるの。絶対に私の名前を呼んじゃダメ。分かった?」
「……分かったよ。頑張って長生きする。だから君もおばあちゃんになるまで生きるんだよ」
──もしかしたら君が死ぬ前に認知症になって全てを忘れているかもしれないけどそれは許してね。
──私が死ぬまでは、君が私を忘れちゃっても私が君を覚えてるから大丈夫だよ。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。


優等生の裏の顔クラスの優等生がヤンデレオタク女子だった件
石原唯人
ライト文芸
「秘密にしてくれるならいい思い、させてあげるよ?」
隣の席の優等生・出宮紗英が“オタク女子”だと偶然知ってしまった岡田康平は、彼女に口封じをされる形で推し活に付き合うことになる。
紗英と過ごす秘密の放課後。初めは推し活に付き合うだけだったのに、気づけば二人は一緒に帰るようになり、休日も一緒に出掛けるようになっていた。
「ねえ、もっと凄いことしようよ」
そうして積み重ねた時間が徐々に紗英の裏側を知るきっかけとなり、不純な秘密を守るための関係が、いつしか淡く甘い恋へと発展する。
表と裏。二つのカオを持つ彼女との刺激的な秘密のラブコメディ。
形而上の愛
羽衣石ゐお
ライト文芸
『高専共通システムに登録されているパスワードの有効期限が近づいています。パスワードを変更してください。』
そんなメールを無視し続けていたある日、高専生の東雲秀一は結瀬山を散歩していると驟雨に遭い、通りかかった四阿で雨止みを待っていると、ひとりの女性に出会う。
「私を……見たことはありませんか」
そんな奇怪なことを言い出した女性の美貌に、東雲は心を確かに惹かれてゆく。しかしそれが原因で、彼が持ち前の虚言癖によって遁走してきたものたちと、再び向かい合うことになるのだった。
ある梅雨を境に始まった物語は、無事エンドロールに向かうのだろうか。心苦しい、ひと夏の青春文学。


愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる