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僕だけの思い出
五
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最後の日。それは僕が元の世界に戻る日だ。
みんなの記憶から僕の存在が消える。これは決まりだから仕方がない。どうしようもないことだ。
でも消えてしまうからこそ、最後に太一と渚にだけは本当のことを言っておきたかった。
──明日から春休み。
太一と渚は3人でどこかに遊びに行こうと計画を立てている。そんな未来は来ないのに僕は楽しそうに話す2人をもっと見ていたくて、この世界から帰りたくなくて、中々話を切り出せずにいた。
「慧、どうかしたのか?」
「大丈夫?体調悪い?」
2人はさっきまで楽しそうに話していたのに打って変わって心配そうな顔をする。
僕は「大丈夫」と言って、今しかないと覚悟を決める。
「2人に聞いてもらいたいことがあるんだけど、いいかな?」
2人は顔を見合せてから「うん」と頷いた。
何から話そうか。僕は目の前に広がる広い広い海を見ながら順番に話し出した。
本当は魔法使いで、この世界の住人じゃないこと。
この世界に来たのは魔法のない人間の世界を体験するための社会勉強だったこと。
明日、元の世界に戻らなくてはいけないこと。
僕がこの世界からいなくなると、この世界の人間の記憶から僕の存在が消え去ること。
「友達になってくれてありがとう。本当に嬉しかった」
僕はそうして話を終えた。分かりやすく話そうとして結局ぐちゃぐちゃになってしまったけれど、2人はずっと黙って聞いてくれていた。
「それは、本当のことなの?」
渚は掠れた小さな声で言った。
僕は見せた方が早いと思って、箒を出してそれに乗ってふわりと空を飛んでみせた。前に渚から見せてもらった本に魔法使いは箒で空を飛ぶというのが書いてあったからイメージ的に分かりやすいだろうと思ってそうした。僕は箒から降りて元の位置に座る。
「なんで、今までずっと黙ってたんだよ」
太一の言葉は震えていた。怒っているんだろう。
「ごめん。僕が魔法使いだって言ったら、友達じゃいられないと思ったから言えなかった」
人魚を信じている渚ならまだしも、太一に自分が魔法使いだと言っても信じてもらえないだろうし、きっと離れて行ってしまうと思った。不安で仕方がなかった。
「お前が何者だとかはどうでもいいんだよ。俺が言ってんのは明日お前がいなくなるってことだ馬鹿」
「え……」
「太一が言いたいのは、明日慧くんがいなくなるのが寂しいってことだよ。私も、寂しい」
2人の顔をちゃんと見ると、太一の目には涙が溜まっていて、渚の頬には涙が流れ落ちていた。
「慧。お前が魔法使いだろうとなんだろうと俺たちの友達であることに変わりはないんだよ。そんなことで友達じゃなくなるなんてこと絶対にありえねーんだよ」
「太一……」
太一は僕のこの世界で初めて出来た友達だ。だからこそ嫌われたくなかったし失いたくなかった。でも、心配は何もなかったみたいだ。
僕は出会いに恵まれた。失いたくないと思える友達が出来た。幸せ者だ。
「記憶からなくなるってことは慧くんも私たちのことを忘れちゃうってことなの?」
「ううん。僕の記憶からは無くならない。ずっと2人を覚えてるから」
それにと続けそうになって飲み込んだ。まだこれは分からないから。期待を持たせても意味が無い。それに2人は忘れてしまう。
「なら、慧。俺と渚のことしっかり覚えてろ。絶対忘れんじゃねーぞ」
太一はグイッと手で涙を拭いた。そして、「渚も。もう泣くな」と渚の頭をくしゃっと撫でる。
渚は「泣いてない」と太一の手を振り払い、その態度にキレた太一がいつもの流れで喧嘩が始まる。太一の「なんでいつもお前はこうなんだ」から始まり、話はなぜか人魚の話へ。
「魔法使いがいるってことは人魚もサンタもいることになるよ?馬鹿らしいって言ってたけどそこのところどうなんですか、太一さん?」
「あ?それとこれとは別だろ。俺は慧だから信じただけで他は信じてねーよ」
「うわぁ慧くんを盾に使うとはずるい男」
「盾にしてねーから」
「えー?してるよね、慧くん?」
「してねーよな、慧?」
どうしてこうなるんだと僕は呆れて、でも、それがどうしようもなく大切に思えて、「どうかなー」といつものように否定も肯定もせず笑って答えた。
みんなの記憶から僕の存在が消える。これは決まりだから仕方がない。どうしようもないことだ。
でも消えてしまうからこそ、最後に太一と渚にだけは本当のことを言っておきたかった。
──明日から春休み。
太一と渚は3人でどこかに遊びに行こうと計画を立てている。そんな未来は来ないのに僕は楽しそうに話す2人をもっと見ていたくて、この世界から帰りたくなくて、中々話を切り出せずにいた。
「慧、どうかしたのか?」
「大丈夫?体調悪い?」
2人はさっきまで楽しそうに話していたのに打って変わって心配そうな顔をする。
僕は「大丈夫」と言って、今しかないと覚悟を決める。
「2人に聞いてもらいたいことがあるんだけど、いいかな?」
2人は顔を見合せてから「うん」と頷いた。
何から話そうか。僕は目の前に広がる広い広い海を見ながら順番に話し出した。
本当は魔法使いで、この世界の住人じゃないこと。
この世界に来たのは魔法のない人間の世界を体験するための社会勉強だったこと。
明日、元の世界に戻らなくてはいけないこと。
僕がこの世界からいなくなると、この世界の人間の記憶から僕の存在が消え去ること。
「友達になってくれてありがとう。本当に嬉しかった」
僕はそうして話を終えた。分かりやすく話そうとして結局ぐちゃぐちゃになってしまったけれど、2人はずっと黙って聞いてくれていた。
「それは、本当のことなの?」
渚は掠れた小さな声で言った。
僕は見せた方が早いと思って、箒を出してそれに乗ってふわりと空を飛んでみせた。前に渚から見せてもらった本に魔法使いは箒で空を飛ぶというのが書いてあったからイメージ的に分かりやすいだろうと思ってそうした。僕は箒から降りて元の位置に座る。
「なんで、今までずっと黙ってたんだよ」
太一の言葉は震えていた。怒っているんだろう。
「ごめん。僕が魔法使いだって言ったら、友達じゃいられないと思ったから言えなかった」
人魚を信じている渚ならまだしも、太一に自分が魔法使いだと言っても信じてもらえないだろうし、きっと離れて行ってしまうと思った。不安で仕方がなかった。
「お前が何者だとかはどうでもいいんだよ。俺が言ってんのは明日お前がいなくなるってことだ馬鹿」
「え……」
「太一が言いたいのは、明日慧くんがいなくなるのが寂しいってことだよ。私も、寂しい」
2人の顔をちゃんと見ると、太一の目には涙が溜まっていて、渚の頬には涙が流れ落ちていた。
「慧。お前が魔法使いだろうとなんだろうと俺たちの友達であることに変わりはないんだよ。そんなことで友達じゃなくなるなんてこと絶対にありえねーんだよ」
「太一……」
太一は僕のこの世界で初めて出来た友達だ。だからこそ嫌われたくなかったし失いたくなかった。でも、心配は何もなかったみたいだ。
僕は出会いに恵まれた。失いたくないと思える友達が出来た。幸せ者だ。
「記憶からなくなるってことは慧くんも私たちのことを忘れちゃうってことなの?」
「ううん。僕の記憶からは無くならない。ずっと2人を覚えてるから」
それにと続けそうになって飲み込んだ。まだこれは分からないから。期待を持たせても意味が無い。それに2人は忘れてしまう。
「なら、慧。俺と渚のことしっかり覚えてろ。絶対忘れんじゃねーぞ」
太一はグイッと手で涙を拭いた。そして、「渚も。もう泣くな」と渚の頭をくしゃっと撫でる。
渚は「泣いてない」と太一の手を振り払い、その態度にキレた太一がいつもの流れで喧嘩が始まる。太一の「なんでいつもお前はこうなんだ」から始まり、話はなぜか人魚の話へ。
「魔法使いがいるってことは人魚もサンタもいることになるよ?馬鹿らしいって言ってたけどそこのところどうなんですか、太一さん?」
「あ?それとこれとは別だろ。俺は慧だから信じただけで他は信じてねーよ」
「うわぁ慧くんを盾に使うとはずるい男」
「盾にしてねーから」
「えー?してるよね、慧くん?」
「してねーよな、慧?」
どうしてこうなるんだと僕は呆れて、でも、それがどうしようもなく大切に思えて、「どうかなー」といつものように否定も肯定もせず笑って答えた。
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