最弱会社員の異世界サバイバル 特殊スキルで生き残る

塩爺

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第 3 章  王都 防衛  編

旅路

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俺とリュオは剣を持ってトルン村を訪れた。

まさか再びこの村に来ることになろうとは、俺は断られる事を承知で村長に会いに行く。

カイトが同席するなか俺は村長に剣を見せる。

凄い剣だと驚きつつも俺の意図を察したカイトがテーブルを叩く!

「ライス!まだ、そんなことを考えているのか‼︎」

俺はトルン村を出てからいままでの出来事を2人に話す。

王都で戦った『竜徒』の事、リュカクの事、このままでは俺は何も守れない。

俺は死にかけて竜族の血で生きながられた事まで2人に話した。

すべてを話すことが2人を説得することに繋がると信じたからだ。

カイトは『ふぅ~』とため息を吐くと俺を見て、不完全で作るよりマシかと席を立った。

村長とカイトは工匠達を説得するからと俺とリュオを村長宅に留めたまま家を出て工房に向かう。

説得に時間がかかったのか村長とカイトが帰ってきたのは次の日の昼。

それでもカイトは苦労したのだろう、声が枯れていた。

カイトは俺に剣を持って工房に行くように告げると、余程疲れていたのだろう、その場に大の字になって寝てしまった。

工房に行くとそこは前に来た工房とは別の工房かと思えるほどに雰囲気が違っている。

あれほど大勢の工匠が働いていたのに広い工房の中に1人だけ、工房の長が待っていた。

「若い者に間違えは起こさせたくない」

工房の長はそう言うと、1人で作業すると言って俺の剣を奪い取る。

加工の手順はブレイドの部分には手を加えずヒルト(柄)の中のガードの部分に穴を空けて、その部分に強いモンスターの素材を埋め込んだ後、結晶で覆う。

作業自体は簡単なものだが俺の剣は竜素材の竜剣、なかなか穴が開かない。

そうなると工匠としてのプライドが許さない。

長は意地になって格闘する、工房の外から窓ごしにその光景を見ていた工匠達も居ても立っても居られないと長が止めるのもきかず手を貸す。

結局、穴を空けるのに数人がかりで1日かかった。

次は強いモンスターの素材を埋め込む作業だ、俺はそこで素材について提案した。

「これを使ってくれ!」

俺が皮のバックから出したのは小さな角、長はそれを手に取ると余りの力の強さに腰を抜かす。

そう、この角はリュカクに折られたリュオの角!

最初、リュオの角を剣に使うというリュオの提案に俺は反対だった。

強い力の素材を使えばそれだけ大きな効果を得られるとはいえ、少女のリュオの体の一部を使うなど考えられない。

しかし、リュオはどうしてもライスの役に立つんだと言って聞かなかった。

リュオはリュカクに片角を折られて以降元気がない、力も出せないようで以前のようには戦えないと落ち込んでいた。

それが今回は自分の角がライスの役に立つと俺に食い下がった。

長が腰を抜かしたのも俺にはわかる、人間には竜族の素材など触るどころか見た事もなかっただろう。

長は震える手で角を拾うと剣の隣に置く。

本来ならここでモンスターの素材のカットという作業工程が入る、モンスター避けの腕輪の話しになるが、腕輪の窪みの大きさは腕輪のサイズの大小に関わらずほぼ決まっている。

それに対してモンスターの素材の大きさはさまざまで、その素材を腕輪の窪みに合わせて加工する作業だ。

しかし、今回の素材は竜族の角、竜剣以上の硬度を誇る、工房に今有る工具では傷がつく程度、それは時間をかけても同じこと。
加工することを諦めた長は角をそのまま使用することにした、慎重に素材をセットすると長は額の汗を拭った。

作業の最後は結晶で覆う、穴の大きさは約5センチ、こんな大きな結晶は普通無い。

しかし、幸か不幸か俺は持っていた、モンスター避けの腕輪を作った際に余った結晶が手元にある。

この呪われた剣が俺の為に有るように運命づけられたかのように。

睡眠から目が覚めてその様子を見ていたカイトが俺に告げる。

「本当にいいのか?」

「結晶をつければモンスターを引き寄せる、そんなお前たちを受け入れる村はこの世界の何処にもなくなるぞ」

「受け入れられないだけならまだマシだ、もしかしたらお前を脅威と感じる国が討伐依頼をだすことだってあり得る」


モンスターを引き寄せる効果は一種の呪いでその効果は装備者が死ぬまで解けることはない。

たとえ装備を捨てても効果は持続するのだ、一旦装備すると昼夜を問わずモンスターを引き寄せ戦いが続く。

もうまともに眠れる夜は訪れなくなるだろう。

覚悟はしていた筈だ、それでも気持ちが揺らぐ。

そんな気持ちが顔に表れたのか、リュオが心配そうに穏やかな笑顔で見ている。


・・・・・まったく俺は!

自分の頬を軽く殴ると俺は自ら結晶をはめ込んだ。



       ☆




幾日の眠れない夜を迎えただろう、人の食べ物を食べなくなって何日たつのだ。

水溜りの泥水をすすり乾きを癒す。

自分が人間だったことを忘れるような戦いの日々。

リュオの角の力が強すぎるのか強力なモンスターは昼夜を問わず襲ってくる。

この異世界の大地は次々にモンスターを産み出す。

狩っても狩っても尽きることがない戦いが日々続く。


休むことの許されない状況が否応なく俺を追い詰める。

それでも自分で選んだ道、逃げる事は許されない、俺は少しの時間休憩をとる。

休息といってもただ座るだけ、剣を握ったまま焚き火を囲む。


せめて食事だけでもと焚き火で焼いたモンスターの肉を口に運ぶが喉を通らず吐いてしまう。

「ライス~・・・」

リュオが背中越しに覗き込む。

その表情は明らかに不安に落ち込んでいる。

そんなリュオを俺は振り払って、『ハッ』と我に帰る。

「俺を心配してくれる少女(リュオ)にあたるなんて、なにが、エリート会社員だ‼︎」

俺は闇に映った自分の姿に吐き捨てるように言う。

社会と言うルールに守られていなければ俺なんてただの最弱な男だ。

それを異世界と言うジャングルで嫌と言うほど思い晒される。

もうダメかもしれない、そう思い始めた時、闇に動く何かの気配を感じた。

モンスターか?

俺はとっさに立ち上がろうとするが足に力が入らない、剣を構える手にも力が入らない!

それでもリュオの前に出て片膝立ちで剣を構えた。




「大見え切って村を出たくせに、何だそのざまは?」

人間の言葉⁉︎

人⁉︎

人なのか?

それも聞き覚えのある声。

焚き火の光に照らされたその顔は『カイト』!

トルン村のカイトである。

カイトは俺のやつれた姿を見て、『そんな事だと思っていたぜ』と皮袋を投げてよこす。

袋の中身は人の食べ物、俺は手掴みで貪るようにそれを食べる。

食べながら泣く、26年生きてきてこれほど泣いたことはないほど声を上げて泣いた。



そんな俺をリュオは優しく見守ってくれている。



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