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第 13話 降霊儀式

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彼女の俺に対する降霊の儀式は丸2日続いた。

丸2日と言っても俺は魔法陣の真ん中でただ座っているだけ、時折り彼女が振りかける得体の知れない液体に耐えるだけの退屈な時間が過ぎる。

俺には彼女が何をやっているのかまったくわからなかった、何も無い空間を見つめては呪文を唱えている。

この2日で俺の体に変化は無い、俺が気付いていないだけかも知らないが、それでも彼女を信じるしか今の俺には残っていない。

「そんな事じゃいつまでたっても終わらないよ」

この2日で初めて彼女が言葉を話す。

「お前さんだって、今の人生、ムダに過ごしてきたわけじゃないんだろ。」

そう言われて俺はハッとする、俺は何の為に此処にいる、何の為に命を賭ける。

リフリーやキャロ、そしてこの世界に住む皆んなの為じゃないのか?

数度の転生で育んできた世界、それを守るために此処いる!

「やっと来たね。」

「彼女は部屋の一点を見つめ視線を外さない」

視線を外さないまま俺に話しかける。

「今、そこにいるのはお前さんの魂の残心、転生の度に失くしてきた魂のカケラ」

「今から、それをお前さんの中に入れる、返事は聞かないよ」

そう言って少女の体から放たれたとは思えない大声で呪文を唱えた。

その瞬間、別の誰かに心と体を乗っ取られるかの様な衝撃が駆け巡る。

体に電気が走り、幾つもの感情が頭を巡る、だが乗っ取られるわけにはいかない。

転生前の人生が軽いものではないが今の人生だって軽くはない、なにより俺は今を生きている。

どのくらいの時間がたったのだろう、俺の意識は薄暗い空間の内にあった。

その空間の広さで元いた部屋ではないのは明らかだ。

ずっと佇んでいるのか、歩いているのか、不思議な感覚のまま俺は空間を散策する。

その時、白い靄(もや)のような影が俺の行くてを遮る、俺はそれがかつての俺であると直感で理解した。

「力で屈服させろと言うつもりか?」

かつての俺らしい、力の無い今の俺だが、カケラに負ける訳には行かない。

俺は身構える、否、そう思っただけかもしれないがカケラは反応した。

白い靄は揺らいだかと思ったら一瞬で此方に移動した。

【切られる】!剣を持っているのが見えた訳ではない、しかし、この技はかつての俺が得意としていた技、無刃剣だ。

今の俺にこの技を防ぐ術は無い、だが致命傷を避ける事は出来る。

しかも、俺はこの技の弱点を知っている、一撃必殺の剣技故に2撃が無い。

(肉を切らして骨を断つ)作戦だ、俺の一撃が靄に効くかわからないがやるしかない。

俺は靄の一撃を左腕で受け、右手の一撃を喰らわせた。

俺の肉体の一部が靄に触れた瞬間、靄の意識が俺の中に流れ込む。

明らかに過去の俺の意識とわかるソレは俺に問いかける。

「チカラ オ エテ ナニオ ノゾム」

考える必要などなかった、俺は即座に答える。

「そんな事は決まっている!」

「かつての俺がそうだったように、皆の幸せだ!」

何の形もなさない靄が一瞬、笑ったように俺には見えた。

靄は霧散したかと思うと俺の体に纏わりつく、不思議と嫌な感じはしない。

それどころか力が湧き上がってくる。

これは冒険者時代の俺の魂、記憶ではなく、確かな技が俺の体の中で形を成す。

しかし、まだ足りない。

また、しばらく空間を彷徨った先に俺の前に現れたのは先程の靄よりもはっきりした白き影。

影は右手に槍を持って馬とおぼしき物に跨っている。

そして、影を中心にたくさんの靄が影を取り巻いている、靄は影が右手を上げる度に震えるように揺らいだ。

あの中心にある影は騎士団時代の俺の魂か?

俺はこれから影との戦いがあるかもしれない時になんだかホッとしてしまった。

皆を無謀とも思える作戦に就かせ、挙げ句、騎士団は全滅。

皆、騎士団長の俺を恨んでいる事だろうと思っていた、それが今でも俺の魂を支える様に存在している。

その魂に力を貸して貰うとしたら、この場に集う全員の魂に納得して貰うしかない。

それには騎士団長と俺の一騎打ちしかない。

騎士団時代には揉め事の解決方法といえば、ほぼこれだった、騎士団結成当初は団員も少なく皆、荒くれ者ばかりで喧嘩も絶えず、殺し合いに成らず解決する唯一の方法が模造刀を使っての一騎打ちだったのだ。

俺が右手に剣をイメージした瞬間、剣は形を成して現れる。

俺は剣を高々と掲げる。

相手もそれに応えた、槍を掲げ馬にて突進してくる、俺はその突進を難なくかわす。

冒険者時代にモンスターの突進を散々かわしてきた回避スキルが発動する。

そして避けざま左手による逆手切りを放った、冒険者時代のスキルや技は騎士団時代の俺は知らない筈だ。

しかし、流石、俺?、槍にて難なく受けられ、剣を弾かれた挙げ上段から打ち下ろされた。

俺は剣を右手に持ち直して槍を受ける動作に入るが、途中でやめて馬の下から向こう側に逃げる。

剣で受ければそのまま潰されていた、それほどの一撃だ。

冗談じゃない、こちらは2人分の魂を持っているんだぞ、魂のカケラの力でこれほどとは、いかに騎士団時代の俺が強かったか予想がつかない。

俺は避けられるのを承知で多段突きを繰り出す、案の定、騎士団長の影は後ろに飛び退いてかわす、だが、それでいい馬の上では勝負にならない。

周りを取り囲んでいる靄たちが大きく揺らめく。

これからが本当の勝負だと俺が思った時、騎士団長の影は無造作で無防備に俺に近寄ってきた。

俺の前まで近寄ると槍を置き、俺の剣を持った手を取ると、自分の胸に押し当てた。

その瞬間、騎士団長の影は消え、俺の体は馬上に有った。

俺はありがとうと一言、礼を言うと槍を高く上げた。



融合した魂は2つ、残る魂はひとつ、その機会は直ぐ訪れる。

どこまでも続く様に敷き詰められた深紅の絨毯、俺はその上を馬で歩く。

その先には玉座に座る彼の姿があった。

影ではなくはっきりとした王の姿、しかし、王の姿は戦いに疲れた老人の姿。

俺は王の前で馬を降りて進み出ると片膝をつき、深く首を垂れた。

王は何も言わずにずっとこちらを見ている。

俺は立ち上がるともう一度、一礼して後ろを向いて歩き出す。

戦い続けて国を作り民を守るためにまた戦ったこの老人にこれ以上何を求める。

もう十分だろう、俺は馬に跨り歩き出す、その時、絨毯の両側を大勢の靄が囲む。

「王様時代の俺も民に慕われていたんだな」

俺は自分のように嬉しくなる。

転生する度にハードになる、罰ゲームのようなこの人生も満更でもなかったのか?

そんな事を考えていると俺の意識は再び飛んでいく。



「どうやら、成功のようだね」

ビューネイの声で目を覚ます。

目を覚ますとそこは魔法陣の有る部屋だった。

部屋の灯りの蝋燭の減り方が空間での出来事が一瞬の出来事だった事を物語る。

俺は「世話になったな」とビューネイに礼を言うと、庵を後にした。

あれほど吹雪いていた雪は止み、青空が広がる。

俺はその中を駆け出し帰路に着いた。























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