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 諒馬はその社長に付いて歩いて行くと近くの駐車場へと向かう。

「君は助手席に乗っていいよ」
「あ、はい! 分かりました」

 諒馬はそう返事をすると助手席へと座った。

 やはり社長というのだけある。 車は本当に高級車で一般の社会人がそう簡単に買えるような車ではない。

 逆に言えば社長が高級車を乗れるということはこういう会社は儲かるのであろう。

 車に乗って約十五分。

 さっきまで、あれだけの人で賑わっていた街だったのに急に人気がなくなり人が疎らになった。

 よく見ると看板がホテルの名前ばかりだ。 要はここはホテル街なんであろう。

「え? へぇーすげぇー」

 そう諒馬は思わず口にしてしまう程、周りにはホテルしかない所だ。

 その独り言みたいな言葉に隣に居る社長は気付いたようで、

「知らなかった? ここはこういうホテルしかない場所なんだよ」
「知らないも何も、最近、東京に来たばっかりで、家も都心ではなく郊外の方なので、まさか、こんな所にホテル街みたいな所があるとは思いませんでしたよー。 って、こんなにあるんですか?」
「あ、まぁ、確かに……俺は昔からこの辺に住んでるから、ここら辺にホテル街があるのは知ってたけど、都心部以外の東京にはないの?」
「あ、いや、それはまだ分からないんですけど……ま、とりあえずホテルはあるみたいですけどね。 ま、まばらにって所でしょうか?」
「そうなんだね」

 そう二人は会話をしているとどうやら撮影をしているというホテルに着いたようだ。

 車はそのホテルの駐車場へと止まる。

「ここだよ」

 そう言うとその社長は車から降りその後に続くように諒馬も降りるのだ。

「もう先にスタッフには君が来ることを伝えてあるから一緒に入って大丈夫だからね」
「分かりました」
「但し、撮影はしてるから、なるべくなら音は立てないように」

 その社長は唇の前で人差し指を立てウィンクで諒馬に何かサインを送ると諒馬はその社長からのサインを受け取ったのか、

「あ、はい!」

 と返事をする。

 ここの社長は本当に気を使ってくれているのかそれとも素なのかは分からないのだが本当にお茶目な所がある。 だからなのか徐々に緊張がほぐれていく感じだ。

「後、携帯はマナーモードで!」

 先を歩いていた社長だったのだが急に後ろにいる諒馬の方に振り向き優しい声でそう言う。

 それを言われ諒馬は慌ててポケットにしまっておいた携帯を見るのだがどうやら携帯はマナーモードになっていた事に安堵したようだ。

 確か面接する前にマナーモードにしておいた記憶はあったのだが、その社長の言葉で念のため確かめてみたというのが正解なのかもしれない。

 正面玄関を通って直ぐにエレベーターの最上階のボタンが押される。 きっと撮影をしているのは最上階フロアなのであろう。 流石に全フロア貸しきる程の人員はいないようだ。

 エレベーターを上がってドアが開くとそのフロアにはいくつも部屋がある。

 こういうホテルは防音設備もしっかりしている為か廊下を歩いているだけでは全然音は漏れて来ない。 本当にこのフロア全部の部屋で撮影が行われているのかって思う位静かだ。

 すると社長はある部屋の前に立つとゆっくりとドアを開ける。 
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