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「え、ええ……そこのところは大丈夫ですよ」
「それなら、良かったかな? でも、どうして、この仕事を選んだの?」

 とやはり、この人物は社長という雰囲気は醸し出していない。 寧ろ場を和ませようとしているようだ。

「あー……それですか? えっと……俺はその……男性同士の方が好きというのか……初恋は男の子で、高校生の時には付き合った奴とかもいて……その、今は大学生でして、お金に困ってるというのか……」

 そう諒馬は申し訳なさそうに素直に話をする。

「あ! そういうことねぇ! 普通にバイトしたんじゃ稼げる訳じゃないしね。 バイト位じゃ生活費がやっとだし、遊ぶお金も欲しい! ってことだよね?」
「あ、はい……全くその通りです」

 諒馬が思っていることをそこまでストレートに当てられ申し訳なさそうに顔を俯けてしまう。

「君がそういう気なら、本当にウチの会社では大歓迎だよ! で、君はタチ? ネコ?」
「た、タチの方です」
「タチね。 ネコの子も可愛い子いるから大丈夫だよ。 言っておくけど、流石に可愛い子しか探さないからね……ま、人にもよるんだろうけど、一応、こういう会社だから、可愛い子を出していかないとライバル会社に負けてしまうしね。 って、今日はこれ位だけど、今日はどうする?」
「ど、どうする? って!?」

 その社長の言葉に今まで頭を俯けていた諒馬だが顔を上げ目を見開いたまま社長のことを見上げる。

「確かにこの事務所は狭いけど、毎日何処かで男優さん達が仕事はしてるんだよね。 暇なら見てみるかい? その仕事をさ」
「……へ?」
「あ、でも、男の子だから、そんなの見たら若いし勃っちゃうかな? ま、そうなったら、最悪混じってみてもいいしね」
「……へ? あ、はい……?」

 そう言われてしまうと、どう返事をしたらいいのであろうか迷う所だ。

「ほら、少しでも早く現場に慣れてもらわないと、いつも緊張したままでは、この仕事は務まらない訳だしね」

 その社長の言葉の意味が分かったのか、諒馬は顔を上げると、

「あ、はい! 分かりました! やってみます!」

 さっきまでの緊張感はどこに行ったのであろうか。 それとも、この仕事に対してやる気が出たのであろうか。 諒馬はいつもの自分を出すと社長に笑顔を向ける。

「確か、今日はこの近くのホテルっていうのか、ウチが今日貸し切りにしてるホテルがあるから、そこに行こうか?」
「……へ? 貸し切りですか?」
「そうそう……ウチはホテルを数時間貸しきって、一気に何本も撮っちゃうんだよね。 違う部屋でも同じ会社の人がいるってこと、その方が他のお客さんにも迷惑掛けないし、ウチ的にも安上がりだしね」

 その言葉に諒馬は納得したような表情を浮かべる。

 その社長はそのホテルに向かう気なのか自分の鞄を持ち、

「じゃ、行こうか?」
「あ、はい!」

 そう答えると諒馬も立ち上がるのだ。
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