上 下
815 / 877

ーせんこうー107

しおりを挟む
 そして奥の部屋に行くと、一人の人物が俺に向かって笑顔で手を上げ、

「よっ! 久しぶりだなぁっ!」

 と言ってきた。

 本当にその言葉遣いと笑顔が久しぶりすぎて、思わず俺も笑みがこぼれたように思える。だが、普段ならこの人物にこんな笑顔を向けることはしないはずなのに。

「え? でも、どうしてここに?」

 さすがに俺も、その人物に抱きつくことはできない。むしろ、そういう性格ではないからだ。

「だってさ、望には来なくていいって言われたけど、やっぱり親友がこんな状態じゃ、来ないわけにはいかなかったからなぁ……」 
「そういうことー!」

 その人物に続いて話しかけてきたのは、俺の兄弟だった。

 ということは、今回、四人で春坂に来たのだろうか。

「望さん、お久しぶりです」

 そう言って、最初の人物の後ろからひょっこりと顔を出して、俺に話しかけてきた。

「ああ、久しぶりだな」

 相変わらずの丁寧な挨拶に、俺は再び笑顔になる。

「望兄さんたち、大丈夫だったのー?」

 今度はさっきの兄弟の弟が声を掛けてきた。

 何だか急に、この人物たちの登場で、俺の体から力が抜けてしまったように感じた。

 雄介が記憶喪失になってからというもの、俺は一人で雄介をなんとかしようとしていたので、勝手に体に力が入ってしまっていた。でも、みんなが俺を支えてくれるおかげで、ほっとしてしまったのかもしれない。

 俺は、こんなにもたくさんの人に支えられているんだと、今更ながら気付く。

「とりあえず、ご飯でも食べましょうか?」

 そう言ってくれたのは美里だ。

 今日も美里が料理を作ってくれたのだろう。

「今日は美里さんが作ってくれた家庭的な料理が食べられるなんて……僕、幸せですよー」

 そう言ったのは、今回俺の家に来た人物の一人だ。同時にその人物は美里について行き、手伝うようだ。それもまた彼らしい行動なのかもしれない。

 このメンバーの中で、女性にこんなに紳士的な態度を取るのは朔望だ。

 その様子に少し呆れながらも、二人の会話は続いているようだった。

「あらぁ、ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわぁ……」

 朔望と美里は、すでに仲が良いように思える。

 しかし、一体朔望や和也、裕実、歩夢はいつ頃春坂に来たのだろうか。

 そう思いながら、俺はソファに座り、和也の方を見上げる。

 今、和也はソファの後ろに立っていた。ちょうど、俺が話しかけやすい位置に立っていたのだが、やはり俺が一番話しやすい人物といえば和也だろう。

「今日は何時くらいにここに着いたんだ? それに、なんで俺たちがここに住んでることを知ってたんだ?」 
「……って、いきなり質問多すぎねぇ? まぁ、確かにサプライズ的な感じで来た俺らも悪いけどさ……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...