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ー波乱ー119

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 望は部屋着に着替えて下へと行くと相変わらずテーブルの上には雄介が作った料理が並べられていた。

「相変わらず凄いよな? お前が作る料理っていうのは栄養がありそうだ」
「そりゃまぁ……愛情も籠っておるしな」

 その雄介の言葉に望は一瞬間を空けたのだが、

「あ、ああ! まぁ、そうだよな……」

 そう慌てたように答える。

 やはり、まだちゃんと仲直りした状態ではない会話は上手く弾む訳もない。 こうギクシャクした感じがある。

 それからの二人の間には会話がなかった。

 きっと、どちらも一昨日の喧嘩に通じるワードを言ってしまいそうで言えないでいたのであろう。

 望は食事を終えると、

「俺、仕事まだあるからさ……書斎の方に行ってるな」
「……書斎?」
「あ、雄介は知らなかったんだっけ? 一階の奥の部屋に書斎があるんだよ……そこにはさ……世界中の医学書がある部屋なんだ」
「そんなのがあったんやな」
「ああ、まぁ……だから、お前は好きにしてていいぞ」
「あ、ああ、おう……」

 確かに望と一緒に住み始めてからは望の家で自由にしてきた雄介なのだが改めてそんな風に言われると何となく変な感じがしているようだ。

「じゃあ、後はよろしく……」

 望はそれだけ言って部屋を出て行ってしまう。

 いつもと違う行動をしている望。

 いつもなら帰宅してきてご飯を食べたならお風呂にでも入っている時間なのに今日は書斎の方に用事があるらしく、そっちの方に行ってしまったようだ。

 一昨日の喧嘩はまだ響いているのか分からないのだが自然であって不自然な行動を取ってる所が引っかかる。

 確かに望の性格からすると、そういう話というのを望からはしないのだから、まぁ、そこは自然と言えば自然なのだが。

 雄介は食事を終えると、さっき望が言っていた書斎の方に足を運んでみる。 さっき望は自由にしていていいと言ったのだから別に雄介がどう行動しようと自由という事だ。

 雄介が書斎へと通じるドアをゆっくりと開けると仕事をすると言っていたわりには、そこには電気さえも点いていなかった。

 雄介は自分が入れる位までドアを開けると望が何処にいるのかを探す。

 雄介はこの部屋には本当に一回も入ったことがなかった。 だから望が今何処にいるのかさえも見当がつかない。

 だが望は直ぐに見つける事が出来た。 ドアから入って目の前には大きな窓がある。 窓からは月がまん丸に見えて今日は満月だという事がわかる。 その月の逆光で写し出されている人影。
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