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ー波乱ー51

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 あのギャラリーの輪の中から和也は裕実の悲鳴らしき声を聞いたような気がしたのだが、それ以降、まったくもって裕実の声が聴こえて来ないような気がする。

 寧ろ、この付近には患者さんはおろか誰の気配もしないのは気のせいであろうか。

 多分、さっきの和也と女性のやりとりにみんな野次馬をしていたからなのであろうが流石に未だに動けない患者さん達は病室に残っているのだから、この辺りの患者さん達は静かというのか気配等を感じる事が出来ないだけなのかもしれない。

 和也は廊下の真ん中で一人ポツンと立ち尽くしている。

 そして辺りを見渡してみるのだが、やはり何度見てもこの辺りには人がいる気配を感じる事が出来ない。 ただただ風が窓を揺らす音が聞こえてくるくらいだ。

 和也は思い出したかのように高校の時に親にもらった腕時計に視線を向ける。

 その時計の表示を見ると時刻は十三時を差していた。

 今日、裕実はお昼食堂にいなかった事を思い出す。

「今日の今時間の裕実の仕事って?」

 和也は今日の裕実の仕事を腕を組んで思い出しているようだ。

「今日は……確か……裕実の仕事は? 検温か? って事は、この時間はこの辺りを回っていると思うのだけど? 話声一つも聴こえて来ないってどういう事だ?」

 和也はフッとこの辺りにある入院患者さんの名札を見上げる。 すると、どうやらこの一体は個人病室が並んでいる病室だ。

「あ! だから、向こうの病棟より静かなのか!?」

 そこで変に納得する和也。

 確かにエレベーター前より右側の病棟は今の時間をいうのは賑やかな感じがするのだが、そこは六人部屋とかがあるからなのかもしれない。 入院していると大人数の部屋では話し相手はお隣さんのベッドの人だったりするのだから仲が良くなると喋るだろう。 だけど個人部屋というのは完全に一人だけの部屋なのだから見舞客が来ない限りは静かな部屋なのかもしれない。

 そして和也はさっきあった事を再び思い出し何か推理みたいなのを始めたようだ。

「個人部屋に……裕実の悲鳴……?」

 そう和也は廊下で一人呟くと嫌な予感が和也の頭には過ぎっているらしい。

 それに裕実だって、もうこの病院で働いてから半年位は経っていて裕実だって和也並に仕事が出来るのだから一人の患者さんに対して、そう何分も掛からない筈だ。

 和也がこの場所に来てから五分以上経つのだが今のところ裕実がこの辺の病室から出てくる気配がない。

 和也はそこでひと息すると額に流れて来ている汗を拭う。

「ここに居ても埒が明かねぇんなら、ひと部屋ずつ回っていくしかねぇか……」

 そう独り言を漏らすと、さっき言っていた独り言を実行へと移すのだ。

 その和也の行動を見ていた人物が二人いた。

 そうそれは望と雄介だ。
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