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第二章

(16)聞きたいこと

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「私の思考が無防備なままだとして、もしかして他の人にも私の思考が丸聞こえだったりします?」
「相手によるだろうな。普通の魔力程度なら、特別に集中して魔力を練って、じっくり思考を読もうとしなければ読めないだろう。読みたくないのに読めてしまうのは、私くらいのものだろう。全てが頭に入ってくるわけではないがな」
「……つまり、お兄さんは普通じゃないってことですね。自慢ですか?」
「自慢するほどでもない。ただの事実だ」

 全く謙遜していない。でも誇っているようでもない。冬は寒いとか、夏は暑くなるとか、その程度のことを話しているようだ。
 このお兄さん、ものすごい自信家だ。
 でも、きっとその自信が大袈裟でない人なのだろう。それに桁外れに金持ちそうなのはいいことだ。目は怖いけど。

 私の日焼けに気を遣ってくれたし、超上質そうなマントを敷物にしてくれたし、相談にも真面目に応じてくれた。表情以外は悪い人じゃなさそうだ。
 私はふうっと大きく深呼吸をした。すぐにきりりと目を開くと、すぐ横に座っているお兄さんへと身を乗り出した。

「実は、お兄さんにお聞きしたいことがあります」
「……思考防護の方法なら、初歩的なことを教え慣れている人間に聞け。私はそんな低レベルなことはしたことがない。やり方など知らんし、教えるほどの知識もないぞ」
「あ、いや、それも聞きたかったですが、もちろん他の人に頼みます。それよりもっと重要なことを聞きたいんです」

 私の言葉を聞き、お兄さんは僅かに眉を動かして表情を改めた。今から言おうとしていることは、まだ聴こえていないらしい。
 ……ううっ、緊張してきた。でも、これはぜひ聞かねばならないことだ。
 もう一度深呼吸をして、私はさらにぐいと身を乗り出した。

「お兄さんは貴族ですよね?」
「そうだ。お前は田舎から出てきたばかりだから知らないようだが、これでもそれなりの……」
「魔力がとても強いってことは、そう言うことですよね! と言うことで、お兄さんは独身ですかっ?」
「…………何だと?」

 真剣に聞いたのに、お兄さんは一瞬動きを止め、何度か瞬きをしてから顔をしかめてしまう。
 私はさらに質問を重ねた。

「その表情ということは、もしかして、もう結婚してしまってるんですか?」
「……していない」

 お兄さんの目が真冬並みに冷たいけど、私も引く気はないし、負けるつもりもない。
 だってこれは、極めて重要なことだから!

「では、婚約者はっ?!」
「……おい、お前はいったい何の話を始めたんだ? 私は他人の思考をわざわざ覗く趣味はないんだ。もう少しわかりやすく話をしろ」
「つまりですね。もし婚約者がまだ未定なら、私の姉はいかがでしょうか! 美人で優しくて将来的には爵位もちで、とにかく美人で完璧ですよっ!」

 勢いをつけて身を乗り出したら、お兄さんにものすごく嫌な顔をされてしまった。さらに頭痛を堪えるように額に手を当てている。なぜ?

「……待て。なぜお前の姉が出てくる?」
「お兄さんはかなりの、いやものすごいお金持ちでしょう? それに自信満々なほどの魔力持ちで、かなりの貴族なんですよね? 目つきは悪いけどよく見たら顔立ちはいいし、背は無駄に高いし。別に変なことは言ってませんよね? 姉は私と違って魔力もかなり強いです。いかがですかっ?」

 勢い余ってお兄さんの服を掴んで熱弁を奮う。
 でも、無情にも手は振り払われた。

「お兄さん?」
「お前のその情熱は全く理解できないが、私は誰とも結婚する気はない」
「……そうですか。残念です。でも気が変わったら、売り切れる前に美人で有能な姉をどうぞよろしくっ!」

 めげることなく言い切ると、お兄さんは呆れたようにため息をついた。
 目を逸らしながら「子供の思考は理解不能だ」とかつぶやいているのは、聞かないふりをしてあげよう。
 それに、ぶつぶつ言っているけど、私の言動を怒っているわけではないようだ。その証拠に頭に小鳥が戻ってきて、ちょこんととまった。

 ちょっと頭を傾げる小鳥さんは、とても可愛い。野生の小鳥がここまで懐くなんて普通の人ではない。魔力のせいなら、本当にとんでもない人ですよ!
 これは超絶に優良物件だ。
 お姉様の好みはよくわからないけど、少なくともクズ男よりずっと圧倒的にいい人と思う。

「お兄さん、もっと姉の話を聞いてください! また会ってくれますか!」
「……運がよかったら、会えるかもしれないな」

 小鳥さんがどんどん集まってきているというのに、お兄さんはそっけない。でも最初の時ほど怖くはない。それに、さっきから目を逸らしているけど、口元がちょっと笑っている。
 ふふふ。
 これは全くの脈なしではないかもしれませんね!

 とニヤニヤしていたら、ギロリと睨まれた。怖い……と硬直していたら、お兄さんは徐に腕にとまっていた小鳥を片手で包み込んだ。
 そのまま、私の頭にポンと乗せた。頭に小鳥の脚があたり、ちょっとチクチクする。
 おお……野生の小鳥に頭に乗ってもらったのは初めてだっ!
 思わず歓声を上げると、小鳥はちょっとパタパタと翼を動かした。……大きな声を出してごめんなさい。
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