婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ

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番外編

一週間後の話(1)

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 アルチーナ姉様の婚儀が終わって、もう一週間が経ちました。
 慌ただしく準備に追われていた日々が終わり、やっとほっと息がつける……と思っていたのですが。
 この一週間、以前にも増して忙しく感じています。


 原因は、結婚祝いに頂いた多数のお手紙です。
 アルチーナ姉様宛のもの、メリオス伯爵家宛のもの、それにロエル宛のものも含めると、びっくりするほど届いてしまいました。
 メリオス伯爵宛のものだけは、お父様が引き受けてくれましたが、それ以外の手紙は全部アルチーナ姉様夫婦の手元に集められ、婚儀の後はずっとお礼状の準備に追われています。
 本来は私は関係ないはずなのですが……例によって、お姉さまに仕分けやお礼状書きの手伝いを「お願い」をされました。

 最近はつわりは治っているとはいえ、アルチーナ姉様は身重です。
 無理をしてはいけませんから、私としても望んで仕事を請け負ったようなところもありました。

 でも、お手紙のピークが過ぎて仕分けが終わり、やっと簡単なお手伝いだけになった……と思ったら。
 アルチーナ姉様は、さも当然のように未処理の手紙の山を押し付けてきました。


「エレナ。あなた、今は暇でしょう? お礼状を書くのを手伝ってよ」
「え? あの、お姉様宛のお手紙の返事を私が書くのは、お相手に失礼ではありませんか?」
「大丈夫よ。私宛になっていても、たぶん実質的にはあなたか、あなたの夫に対してのものだから」

 そう言って、アルチーナ姉様は何通かを抜き出します。
 仕方なく受け取って、目を通してみました。
 ……家の名前は貴族名簿などで拝見したことがありますが、私には全く覚えのない方々からです。
 つい首を傾げてしまいました。
 それを見たアルチーナ姉様は、呆れた顔をしました。

「察しが悪いわね。お父様もロエルも、この方々とは交流がほとんどないのよ。もちろん私の隠れ崇拝者と言う感じでもないし、そうなるとあなたたちの関連しかないでしょう?」
「……そう、なのでしょうか」
「私やロエルが書くより、あなたがグロイン侯爵夫人の署名をつけてお礼状を書く方が、先方も喜ぶと思うのよね」

 それはそうかもしれません。
 でも、本当に侯爵様……オズウェル様の関係者なのでしょうか。

 首を傾げていると、アルチーナ姉様は形の良い眉を動かして手紙の山を指でトントンと叩きました。

「確信が持てないなら、成り上がりに聞きに行きなさいよ。あなたのことだから、そろそろ王宮に行く口実を探し始めていたんじゃないの?」

 ……図星です。
 思わず、びくりと体が震えてしまいました。

 アルチーナ姉様はため息をつき、それから最近ほんの少し膨らみ始めた下腹部に手を当てながら言葉を続けました。

「明日は会議が入っているらしいけれど、外に出る予定はないそうよ。明日、王宮に行ったらどう?」
「……前から気になっていたのですが、お姉さまはどうしてオズウェル様のご予定を知っているのですか?」
「いろいろ情報の入手ルートはあるでしょう? そんなことより、明日行くのなら名簿の整理を先にした方がいいんじゃないの?」

 ……確かにそうかもしれません。
 私は手紙の山を見て、小さく頷きました。

「では、後で準備を……」
「今からしてきなさいよ。私の手伝いは、今日はロエルがしてくれるから」

 アルチーナ姉さまはそう言うと、メイドに山のような手紙を持たせて、私を部屋から押し出してしまいました。




 扉が目の前で閉まりました。
 呆然と扉を見ていると、ロエルが廊下を歩いてきました。

「エレナ。そんなところでどうしたの?」
「……お姉様に、追い出されてしまいました」

 素直にそう言うと、ロエルはきれいな目をわずかに大きく見開きました。
 でも、そばに控えているメイドの手元を見てすぐに悟ったようで、手に持っていた紙挟みから何枚かの紙を取り出しました。

「お礼状のことだろう? 昨日、アルチーナと話していたから、僕の方でも少しまとめてみたんだ。これを使ってよ」

 紙には、ロエルの美しい字で家名と個人名がずらりと並んでいます。
 私はメイドが持っている手紙を見ました。
 ロエルは少しと言いましたが、半分近くまとめてくれているのではないでしょうか。

 ……本当に、ロエルは優しい人です。
 この人を兄と呼べることを、しみじみと嬉しく思いました。


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