婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ

文字の大きさ
25 / 54
本編

(26)郊外のリンドール公園

しおりを挟む

 昼食の入ったバスケットを持って馬車に乗った私は、まずアルチーナ姉様のお友人のお屋敷に向かいました。
 どうでも良さそうというか、本当は嫌っているかのような口調でしたが、皆様とは十年来のお付き合いですからね。
 きちんとお詫びするべきでしょう。

 もしかしたら、本当にお姉様とは険悪になっているのかもしれないと緊張しましたが、すでに集まっていたご友人の皆様はとても残念そうでした。
 お姉様と長年友人として付き合えるだけあって、皆様、ほんわかとしたお嬢様ばかり。
 ただのお使いでしかない私でしたが、一緒にお茶を楽しみましょうと誘われました。
 一瞬、心が揺れましたが、お姉様の「お願い」が待っています。
 涙を飲んでお断りしました。



「さて、次はどちらへ向かいますか? 川辺も気持ち良さそうですよ?」
「それも素敵ね。でも……お姉様に四つ葉探しを頼まれているのよ」
「川辺にもクローバーはありますよ?」
「そうね。でもお姉様はリンドール公園とおっしゃったわ。だから、そこに向かってちょうだい」

 どこで採っても、クローバーはクローバーですのに。
 ネイラはそんなことをこぼしながら、でもすぐに御者に行き先を伝えてくれました。


 馬車はゆったりと走ります。
 本当にいいお天気で、窓からは気持ちの良い風が入ってきます。
 のんびりと外を眺めていて、そういえばここ一ヶ月ほど、屋敷の外に出ていなかったことを思い出しました。
 郊外に行くことも、もう半年ぶりくらいでしょうか。

 突然、いろいろな代理を押し付けられてしまったのですが、なんだか悪くない気がしてきます。広々とした郊外の公園でお昼ご飯を食べるのも、とても楽しいかもしれません。

「……お姉様も、一緒に来ればよかったのに」
「お天気が良すぎるのが嫌だ、とおっしゃっていましたよ?」
「そうだったわね。でも、来たら来たで、きっと楽しんでいたと思うわ」

 そう言うと、ネイラはちょっと考えてからそうかもしれませんねと頷いていました。

 でも、本当に無理を承知でお誘いしてもよかったかもしれません。
 最近のお姉さまは、イライラしている時が多いようですから。


「あ、見えてきましたよ!」

 御者の合図に窓から外を見て、ネイラが指さします。
 同じ方向を見ると、農地が広がっている中に、ぽっかりと背の高い木々が生えている場所がありました。
 目的地のリンドール公園です。

 この公園は元々は王家の直轄地で、何代か前の国王が別荘を作って周囲の田園風景を楽しんだ場所だそうです。
 リンドールとは古い伝承にある土の精霊の名前だそうで、別荘の名前でもありました。
 農家風の作りをしていたそうですが、この別荘を愛した国王の死によって無人の屋敷となっていました。

 その古い屋敷は、雷が落ちたために焼失したと聞いています。かつての別荘の名残は、敷地を囲む背の高い木々と、美しい庭園と、その中にある四阿だけ。建物は何も残っていません。
 今では広く開放されていて、貴族はもちろん、花付きの庶民にも人気の場所で、平たくひらけた空間が兵士の訓練にも利用されています。


 私たちの馬車がついた時間も、すでに何台かの馬車が止めてありました。
 この様子では、四阿はすでに使用中かもしれません。

 残念です。お花を見ながらのお食事に憧れていたのですが。
 ネイラも残念そうに、でもすぐに目を輝かせて私を振り返りました。

「いいお天気ですから、人が多いですね。でも敷物も用意していますから、ご安心ください!」
「頼もしいわ。さすがネイラね」


 御者に馬車に残ってもらって、私とネイラが二人でバスケットをもち、若い従者に敷物を持ってもらって、公園の奥へと向かいます。

 ここに来るのは、実は久しぶりです。
 一番最近で、一年前くらいでしょうか。
 その時はお母様とお姉様だけでなく、ロエルのご家族も一緒でしたから、四阿の周辺を軽く散策しただけでした。
 私はもっとゆっくりしたかったのに、次に観劇の予定が入っていたためにすぐに離れなければなりませんでした。


 さらに、その前というと……あの大変だった四つ葉探しの時まで遡りそうですね。
 探しても探しても、普通のクローバーすら見つからなかった、あの悪夢のような日のことです。

 そう言えば、あの時クローバーがあったのは、この辺りだったかもしれません。
 四阿のある庭園とは反対側で、花壇がないから人も少なくて、背の高い木が並んでいて、まっすぐな道がずっと向こうまで続いていて……。


「……あ、クローバー!」

 やはりありました。
 薄れかけていた記憶は、だいたいあっていたようです。
 思わずそちらに向かいかけましたが、ネイラがため息をついたので足を止めました。

しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。

橘ハルシ
恋愛
 ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!  リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。  怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。  しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。 全21話(本編20話+番外編1話)です。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

本物の『神託の花嫁』は妹ではなく私なんですが、興味はないのでバックレさせていただいてもよろしいでしょうか?王太子殿下?

神崎 ルナ
恋愛
このシステバン王国では神託が降りて花嫁が決まることがある。カーラもその例の一人で王太子の神託の花嫁として選ばれたはずだった。「お姉様より私の方がふさわしいわ!!」妹――エリスのひと声がなければ。地味な茶色の髪の姉と輝く金髪と美貌の妹。傍から見ても一目瞭然、とばかりに男爵夫妻は妹エリスを『神託の花嫁のカーラ・マルボーロ男爵令嬢』として差し出すことにした。姉カーラは修道院へ厄介払いされることになる。修道院への馬車が盗賊の襲撃に遭うが、カーラは少しも動じず、盗賊に立ち向かった。カーラは何となく予感していた。いつか、自分がお払い箱にされる日が来るのではないか、と。キツい日課の合間に体も魔術も鍛えていたのだ。盗賊たちは魔術には不慣れなようで、カーラの力でも何とかなった。そこでカーラは木々の奥へ声を掛ける。「いい加減、出て来て下さらない?」その声に応じたのは一人の青年。ジェイドと名乗る彼は旅をしている吟遊詩人らしく、腕っぷしに自信がなかったから隠れていた、と謝罪した。が、カーラは不審に感じた。今使った魔術の範囲内にいたはずなのに、普通に話している? カーラが使ったのは『思っていることとは反対のことを言ってしまう魔術』だった。その魔術に掛かっているのならリュートを持った自分を『吟遊詩人』と正直に言えるはずがなかった。  カーラは思案する。このまま家に戻る訳にはいかない。かといって『神託の花嫁』になるのもごめんである。カーラは以前考えていた通り、この国を出ようと決心する。だが、「女性の一人旅は危ない」とジェイドに同行を申し出られる。   (※注 今回、いつもにもまして時代考証がゆるいですm(__)m ゆるふわでもOKだよ、という方のみお進み下さいm(__)m 

虐げられていた次期公爵の四歳児の契約母になります!~幼子を幸せにしたいのに、未来の旦那様である王太子が私を溺愛してきます~

八重
恋愛
伯爵令嬢フローラは、公爵令息ディーターの婚約者。 しかし、そんな日々の裏で心を痛めていることが一つあった。 それはディーターの異母弟、四歳のルイトが兄に虐げられていること。 幼い彼を救いたいと思った彼女は、「ある計画」の準備を進めることにする。 それは、ルイトを救い出すための唯一の方法──。 そんな時、フローラはディーターから突然婚約破棄される。 婚約破棄宣言を受けた彼女は「今しかない」と計画を実行した。 彼女の計画、それは自らが代理母となること。 だが、この代理母には国との間で結ばれた「ある契約」が存在して……。 こうして始まったフローラの代理母としての生活。 しかし、ルイトの無邪気な笑顔と可愛さが、フローラの苦労を温かい喜びに変えていく。 さらに、見目麗しいながら策士として有名な第一王子ヴィルが、フローラに興味を持ち始めて……。 ほのぼの心温まる、子育て溺愛ストーリーです。 ※ヒロインが序盤くじけがちな部分ありますが、それをバネに強くなります ※「小説家になろう」が先行公開です(第二章開始しました)

兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!

ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。 自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。 しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。 「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」 「は?」 母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。 「もう縁を切ろう」 「マリー」 家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。 義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。 対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。 「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」 都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。 「お兄様にお任せします」 実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。

【完結】私の婚約者は妹のおさがりです

葉桜鹿乃
恋愛
「もう要らないわ、お姉様にあげる」 サリバン辺境伯領の領主代行として領地に籠もりがちな私リリーに対し、王都の社交界で華々しく活動……悪く言えば男をとっかえひっかえ……していた妹ローズが、そう言って寄越したのは、それまで送ってきていたドレスでも宝飾品でもなく、私の初恋の方でした。 ローズのせいで広まっていたサリバン辺境伯家の悪評を止めるために、彼は敢えてローズに近付き一切身体を許さず私を待っていてくれていた。 そして彼の初恋も私で、私はクールな彼にいつのまにか溺愛されて……? 妹のおさがりばかりを貰っていた私は、初めて本でも家庭教師でも実権でもないものを、両親にねだる。 「お父様、お母様、私この方と婚約したいです」 リリーの大事なものを守る為に奮闘する侯爵家次男レイノルズと、領地を大事に思うリリー。そしてリリーと自分を比べ、態と奔放に振る舞い続けた妹ローズがハッピーエンドを目指す物語。 小説家になろう様でも別名義にて連載しています。 ※感想の取り扱いについては近況ボードを参照ください。(10/27追記)

【完結】愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を

川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」  とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。  これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。  だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。 新聞と涙 それでも恋をする  あなたの照らす道は祝福《コーデリア》 君のため道に灯りを点けておく 話したいことがある 会いたい《クローヴィス》  これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。 第22回書き出し祭り参加作品 2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます 2025.2.14 後日談を投稿しました

◆◆お別れなので「王位継承セット」をプレゼントしたら、妹カップルが玉座を手に入れました。きっと喜んでくれてますよね◆◆

ささい
恋愛
ん?おでかけ楽しみ? そうだね。うちの国は楽しいと思うよ。 君が練ってた棒はないけど。 魔術に棒は要らない。素手で十分? はは、さすがだね。 なのに棒を量産したいの? 棒を作るのは楽しいんだ。 そっか、いいよ。たくさん作って。飾ってもいいね。君の魔力は綺麗だし。 騎士団に渡して使わせるのも楽しそうだね。 使い方教えてくれるの? 向上心がある人が好き? うん、僕もがんばらないとね。 そういえば、王冠に『民の声ラジオ24h』みたいな機能つけてたよね。 ラジオ。遠く離れた場所にいる人の声を届けてくれる箱だよ。 そう、あれはなんで? 民の声を聞く素敵な王様になってほしいから? なるほど。素晴らしい機能だね。 僕? 僕には必要ないよ。心配してくれてありがとう。 君の祖国が素晴らしい国になるといいね。 ※他サイトにも掲載しております。

処理中です...