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本編
(14)侯爵夫妻の会話
しおりを挟む「えっと……騎士様たちの御用をお邪魔してしまったでしょうか?」
「構わない。あの連中はどうでもいい書類を持ってきただけだからな」
侯爵様は小さくため息をついたようでした。
「彼らは、非番の騎士隊長だ」
「先日の宴席でお見かけした方が、何人かいらっしゃいました」
「ああ、場慣れした高位貴族の出身者だけを呼んでいた。……気付いているかもしれないが、ハーシェルはレイマン侯爵の嫡子にあたる。俺が侯爵の地位をいただいたのは、彼の上官になるためのようなものだ」
淡々とした言葉を、私は頭を整理しながら聞きました。
失礼ながら、先ほどの方々の半分が高位貴族出身というのは驚きました。いろいろ……本当にいろいろな方がいるんですね。
そして、ハーシェル様はやはり大変な名門の方でした。
でも、軍部の中も複雑なようです。
思っていたより、侯爵様は不安定なお立場だったのかもしれません。
そんなことを考えていたら、侯爵様が真っ直ぐに私を見ていました。
「俺は没落男爵家の出身だ。庶民のような生活をしていたから高位貴族の慣習には疎いし、気も利かない。伯爵家でお育ちのエレナ殿には不満も多いだろう。だから、足りない点は遠慮なく指摘してもらえるとありがたい」
……えっと。
あ、もしかして、用件を言えとおっしゃっているのでしょうか。
侯爵様から水を向けていただくなんて、申し訳なくてあわあわとしてしまいます。
とりあえず落ち着くために深呼吸をしました。さらに、手のひらに四つ葉のクローバーの形を描いてみます。子供のころからしている、私だけのおまじないです。
おまじないのおかげか、落ち着いて侯爵様を見ることができました。
「侯爵様に、お聞きしたいことがあります」
「承ろう」
侯爵様は表情を変えずに頷きます。
また怖気付いてしまいそうなので、一度目を閉じました。
アルチーナ姉様の顔を思い出して奮起します。
……うん、頑張ろう!
「その、侯爵様に頂いた宝石箱のことですが」
「宝石箱?」
侯爵様はわずかに眉を動かしましたが、先を続けるように促しています。
冷ややかな金色の目から視線を逸らし、机を見つめながら言葉を続けました。
「豪華すぎない、少し気軽に付けられるような装飾品が入っていた宝石箱です。小さめのイヤリングとか、ブローチとか、ネックレスとか、そういう類の……」
「……ああ、あれか。ハーシェルに見繕ってもらったのだが、足りなかっただろうか?」
侯爵様は、あくまで真顔です。
しかもハーシェル様に助言をもらってたんですか? 先ほどもよくしていただきましたが、お二人は仲が良いのですね。
……じゃなくてっ!
違いますよ! 逆ですよ、逆っ!
「十分すぎるほどいただきました! でも、その……私よりアルチーナ姉様の方が似合いそうなものがありまして、使わないままでいるよりたくさん使ってくれる人にお贈りしたいな、と思っているのですが、一応、侯爵様に許可をいただくべきかと……」
「……なるほど」
ちらりと私を見て、侯爵様は納得したように頷きました。
金髪美女のアルチーナ姉様と、赤毛で貧相な私の比較をしたのでしょう。これだけ違えば、どれだけ上質の装飾品でも似合わないものがあるとわかっていただけたのかもしれません。
「あの部屋のものは、全てエレナ殿のものだ。どのように扱おうとエレナ殿の自由。姉君に差し上げたいのなら、好きなだけ差し上げていい」
「ありがとうございます!」
「いや、礼を言われるようなことでは……」
なぜか侯爵様が戸惑ったような顔をした時、バン!と扉が開きました。
ノックはありませんでした。
驚いて振り返ると、片手に大きな盆を持ったハーシェル様でした。その後ろに、やや硬い顔の従者がいます。
メイドのルーナも、すまし顔で盆を捧げ持っていました。
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