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元の世界へ
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凄まじい轟音と雪埃があちこちで巻き上がる。
私はというと不謹慎だが、興奮していた。
「や、やっぱりアヤカシ達の戦いってすごい!」
「……嬉しいのはわかるけど注意をそらさないでちょうだい」
味方だけではなく相手もアヤカシ。
遠くに見える敵が全てではない。地中や空から襲ってくる
場合もある。
「ひひひひっ!人間、見ーつけた!」
頭上から、いかにも敵らしい声がした。見るとのような猫のような2足歩行の生物が私達を見下ろしている。
火車。死者を地獄に連れて行くとされている。妖怪だ
火車が現れると亡者は生前悪人とされるため、遺族は葬儀の時に火車が現れないことを願っていたと図鑑に載っていた。
「私まだ生きてます!」
「生きている人間も美味そうだ。ひひひひ!」
そう叫ぶと同時に赤々とした炎を放ってきた。
氷の防壁が少しずつ溶かされていく。
「まずいわね。私とあいつは相性が悪い」
ヒョウカさんが追加で壁を造るものの溶かされる方が早く、
層が薄くなってきている。
私達だけならまだしも、周りには儀式中のダイ君達もいる。
目を閉じて必死に祝詞を唱えているためか、火車が来たことに気づいていない。
(な、何とかしないと……そうだ!)
死者を好むのならそれに関係したワードに
反応するはずだ。
「あ!何かが腐敗したニオイがする!」
「……は?」
火車は眉をひそめてはいるものの、明らかに興味を示している。
するとヒョウカさんがフォローに入ってくれた。
「……確かにするわね……」
「ですよね⁉肉が腐ったような……」
「えっ⁉」
ソワソワしだした。意識がそれて火の勢いが
弱くなってきている。
(よし、あともうひと押し!)
「でもニオイが少ししかしないから、
場所がどの辺かわからないです。
私嗅覚自信ないし……」
「……あの辺りかしら?」
そう言ってヒョウカさんが遥か左を指差した。
あの付近で儀式をしてるアヤカシは誰も居なかったはずだ。
火車は挙動不審になっていて、ヒョウカさんが指さした場所と私達を交互に見ている。
「…………」
「……急がないと掘り起こすの大変よ?」
「猛吹雪ですもんね」
「……ち、ちょっと待ってろ!」
我慢できなかったらしく、火車が私達に背を向ける。
「あ……」
「……助かったわ、ユウカ。
氷雨!」
ヒョウカさんの妖術で大量の氷柱があらわれ、
火車を刻んだ。
「があぁっ⁉貴様ら騙しやがったなっ‼」
「……まさか反応するなんて思ってなかったもの。
そもそも、ここアヤカシ界よ?
人間が簡単に来れる場所じゃないわ」
「うるせぇ‼全部炭にしてやる‼」
せっかく弱まっていた火の勢いが強くなった。
怒りも込められているようで、黒く変色している。
(やっぱり上手くはいかないか。
でも、このままじゃ……)
その時、私達の後ろで強い風が吹いた。
「わぁッ⁉」
「ユウカ!」
吹き飛ばされそうになった私の腕をヒョウカさんが掴む。
彼女は素早く自分の足を凍らせて動かないように
地面と密着させていた。
「ぐっ⁉なんだこの強風――あああああーー」
風の勢いはさらに強くなり、火車は遥か彼方に飛ばされていった。
風下だったようで火の勢いも弱くなっているように見えた。
戸惑っているとすぐに風が止み、烏天狗が声をかけてくる。
今の強風は彼等の術だったようだ。
「間に合ったか。『門』を開いたぞ!
ユウカ殿、急げ!」
「行きなさい!」
「はい!」
本当は全員にお礼を言って回りたかったが、『あちら』側のアヤカシ達を懸命に止めてくれている彼等に
そんな事をしては迷惑になる。
2人の言葉に従って後ろを見ずに紫色の光を放っている『門』に飛び込んだ。
それと同時に視界が真っ白になり頭が揺れる。
(あ、頭痛い……)
アヤカシ界に迷い込んだ時にはなかった感覚だ。
耐えられなくなり私はそのまま意識を失った。
「はっ⁉」
気がつくと公園のすべり台に座っていた。
空は綺麗な夕焼けで私がワープした時から
そこまで時間は経っていないようだ。
「夢……?……いや違う」
肩にかけているカバンにスエちゃんから貰った
お守りがついていた。
これを見れば今までの出来事も全てリアルだったと
信じる事ができる。
「時間軸、一緒じゃないんだ……」
アヤカシ界では2日ほど過ごしたので、こっちの世界でも同じ時間が経っているのかと思っていたが違うようだ。
それとも『門』を喚び出した時に時間も動かしておいてくれたのだろうか。
「ヒョウカさん達は大丈夫かな……」
幸い、牛鬼はいなかったようだが、だんだん向こうの数が増えていて、
私が『門』に飛び込む直前はヒョウカさん達が押されているように見えた。
「いや、きっと大丈夫。ゴウさんだって烏天狗さん達だっているんだし」
無事であることを祈るしかない。
このままここに座っていても仕方がないので立ち上がる。
「ん?」
違和感を覚えた。カバンが軽い気がする。
嫌な予感がして中をあさってみる。
「な、ない⁉」
見違いかと思い何度も中を確認する。
しかしやっぱり目的の物は見つからない。
「図鑑置いてきたーーー‼」
アヤカシ達は一緒に見た後、私が寝てしまったので邪魔にならないように別の場所に置いておいたのだろうか。
私の叫び声など全く気にしない様子で
2羽の烏が交互に鳴きながら空高く飛んでいった。
私はというと不謹慎だが、興奮していた。
「や、やっぱりアヤカシ達の戦いってすごい!」
「……嬉しいのはわかるけど注意をそらさないでちょうだい」
味方だけではなく相手もアヤカシ。
遠くに見える敵が全てではない。地中や空から襲ってくる
場合もある。
「ひひひひっ!人間、見ーつけた!」
頭上から、いかにも敵らしい声がした。見るとのような猫のような2足歩行の生物が私達を見下ろしている。
火車。死者を地獄に連れて行くとされている。妖怪だ
火車が現れると亡者は生前悪人とされるため、遺族は葬儀の時に火車が現れないことを願っていたと図鑑に載っていた。
「私まだ生きてます!」
「生きている人間も美味そうだ。ひひひひ!」
そう叫ぶと同時に赤々とした炎を放ってきた。
氷の防壁が少しずつ溶かされていく。
「まずいわね。私とあいつは相性が悪い」
ヒョウカさんが追加で壁を造るものの溶かされる方が早く、
層が薄くなってきている。
私達だけならまだしも、周りには儀式中のダイ君達もいる。
目を閉じて必死に祝詞を唱えているためか、火車が来たことに気づいていない。
(な、何とかしないと……そうだ!)
死者を好むのならそれに関係したワードに
反応するはずだ。
「あ!何かが腐敗したニオイがする!」
「……は?」
火車は眉をひそめてはいるものの、明らかに興味を示している。
するとヒョウカさんがフォローに入ってくれた。
「……確かにするわね……」
「ですよね⁉肉が腐ったような……」
「えっ⁉」
ソワソワしだした。意識がそれて火の勢いが
弱くなってきている。
(よし、あともうひと押し!)
「でもニオイが少ししかしないから、
場所がどの辺かわからないです。
私嗅覚自信ないし……」
「……あの辺りかしら?」
そう言ってヒョウカさんが遥か左を指差した。
あの付近で儀式をしてるアヤカシは誰も居なかったはずだ。
火車は挙動不審になっていて、ヒョウカさんが指さした場所と私達を交互に見ている。
「…………」
「……急がないと掘り起こすの大変よ?」
「猛吹雪ですもんね」
「……ち、ちょっと待ってろ!」
我慢できなかったらしく、火車が私達に背を向ける。
「あ……」
「……助かったわ、ユウカ。
氷雨!」
ヒョウカさんの妖術で大量の氷柱があらわれ、
火車を刻んだ。
「があぁっ⁉貴様ら騙しやがったなっ‼」
「……まさか反応するなんて思ってなかったもの。
そもそも、ここアヤカシ界よ?
人間が簡単に来れる場所じゃないわ」
「うるせぇ‼全部炭にしてやる‼」
せっかく弱まっていた火の勢いが強くなった。
怒りも込められているようで、黒く変色している。
(やっぱり上手くはいかないか。
でも、このままじゃ……)
その時、私達の後ろで強い風が吹いた。
「わぁッ⁉」
「ユウカ!」
吹き飛ばされそうになった私の腕をヒョウカさんが掴む。
彼女は素早く自分の足を凍らせて動かないように
地面と密着させていた。
「ぐっ⁉なんだこの強風――あああああーー」
風の勢いはさらに強くなり、火車は遥か彼方に飛ばされていった。
風下だったようで火の勢いも弱くなっているように見えた。
戸惑っているとすぐに風が止み、烏天狗が声をかけてくる。
今の強風は彼等の術だったようだ。
「間に合ったか。『門』を開いたぞ!
ユウカ殿、急げ!」
「行きなさい!」
「はい!」
本当は全員にお礼を言って回りたかったが、『あちら』側のアヤカシ達を懸命に止めてくれている彼等に
そんな事をしては迷惑になる。
2人の言葉に従って後ろを見ずに紫色の光を放っている『門』に飛び込んだ。
それと同時に視界が真っ白になり頭が揺れる。
(あ、頭痛い……)
アヤカシ界に迷い込んだ時にはなかった感覚だ。
耐えられなくなり私はそのまま意識を失った。
「はっ⁉」
気がつくと公園のすべり台に座っていた。
空は綺麗な夕焼けで私がワープした時から
そこまで時間は経っていないようだ。
「夢……?……いや違う」
肩にかけているカバンにスエちゃんから貰った
お守りがついていた。
これを見れば今までの出来事も全てリアルだったと
信じる事ができる。
「時間軸、一緒じゃないんだ……」
アヤカシ界では2日ほど過ごしたので、こっちの世界でも同じ時間が経っているのかと思っていたが違うようだ。
それとも『門』を喚び出した時に時間も動かしておいてくれたのだろうか。
「ヒョウカさん達は大丈夫かな……」
幸い、牛鬼はいなかったようだが、だんだん向こうの数が増えていて、
私が『門』に飛び込む直前はヒョウカさん達が押されているように見えた。
「いや、きっと大丈夫。ゴウさんだって烏天狗さん達だっているんだし」
無事であることを祈るしかない。
このままここに座っていても仕方がないので立ち上がる。
「ん?」
違和感を覚えた。カバンが軽い気がする。
嫌な予感がして中をあさってみる。
「な、ない⁉」
見違いかと思い何度も中を確認する。
しかしやっぱり目的の物は見つからない。
「図鑑置いてきたーーー‼」
アヤカシ達は一緒に見た後、私が寝てしまったので邪魔にならないように別の場所に置いておいたのだろうか。
私の叫び声など全く気にしない様子で
2羽の烏が交互に鳴きながら空高く飛んでいった。
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