「第2章開始」エレ レジストル〜生き残り少女の冒険録〜

望月かれん

文字の大きさ
上 下
39 / 41
第2章

第39録 決意

しおりを挟む
 自分の両手を見つめたまま黙り込んでしまったエリスにベルゼブブは呆れきった表情で口を開く。

 「お人好しめ。なら聞き方を変える。お前は戦争を終わらせたいか?」

 「終わらせたい……けど……」

 「何だよ!?まだ不安なことがあんのか!?」

 「両親との約束を破ることになるから……」

 「約束?そういや前にチラッと言ってたな。詳しく聞かせろ」

 掴みかかりそうになったベルゼブブだが、イカナ村での一新後のエリスとアザゼルの会話を思い出して踏み止まった。 
てっきり怒鳴られると思っていたエリスは安心して息を吐くとポツリポツリと話し始める。

 「両親と離れることが決まってからいろいろ教えてもらったんだけど、その時に約束をしたの。『困っている人がいたらできるだけ助ける、
騒ぎを起こさない、争いに魔法を使わない』って」

 「そういうことかよ。だからお前、やたらと優柔不断だったのか」

 「うん……。言ってなくてごめん」

 申し訳無さそうに言うエリスをベルゼブブは鼻で笑った。

 「ケッ、今更だろ。
  で、約束とやらを守るんなら、お前は必然的に戦争に参加できねぇわけだ」

 「そうなるけど……勝敗が決まるまで私は追われ続けることになるし」

 「破っちまえよ」

 「私が破ると思う?」

 「お前、本当にめんどくせぇな。約束を破るのは嫌だ。
で、どうせ追われ続けるのも嫌だって言い出すんだろ?」

 再び黙り込んでしまったエリスを見て、ベルゼブブは腕を組む。

 「図星かよ。他の答えを言えねぇんなら、約束を破るしかねぇだろ。
破っちまえ!」

 「………………」

 反論すら思い浮かばない様子でエリスはさらに俯く。
するとベルゼブブが追いうちをかけるように顔を近づけた。

 「お前にとって生きることと約束を守ること、どっちが大事だ?」

 「生きること」 

 「すぐに答えられるんなら破っちまえ。それに破ったからって怒られるわけじゃねぇんだろ?」

 「あ、確かに……」

 エリスは知らず知らずのうちに自分の行動に制限をかけてしまっていたことに気づき、ゆっくり顔を上げる。
その目に迷いはなかった。

 「エベロスに行く」

 「フン、世話の焼ける。
オレ様に何度もため息つかせやがって」

 「ごめん……」 

 「今更だろ」

 ベルゼブブはそっけなく言うと、気まずそうに目をそらすエリスを見下ろす。しかしすぐに思い出したように声を漏らすとわずかに目尻を緩めた。

 「以前、薬屋が封印魔法かけるとか言ってたが、もしそうするんならオレ様がかけてやる」

 「え?」

 予想外の提案にエリスは言葉を失うが、ベルゼブブは気にせずに話を続ける。

 「薬屋は自分に封印魔法をかけている。お前に同じ魔法をかけるなら1回自分のを解かなきゃかけられねぇはずだ。
今のアイツの魔力は並だからな」

 「それとあなたがかけるのと、どう関係があるの?」

 「オレ様がかけてやればいつでも解除できる」

 エリスはベルゼブブがロイトを気遣っているのではと考えたが、口に出すと怒りを増幅させそうなのて触れないでおくことにした。

 「ロイトさんがかけても、あなたが解けるんじゃないの?」

 「お前な……」

 間髪入れずに尋ねられてベルゼブブがワナワナと肩を震わせる。

 「いいか!?他のヤツがかけた魔法を解くにはちょっとしたテクニックが必要なんだ!自分の魔法を解除するようにやってもまず解けねぇ!」

 「そうなんだ……」

 エリスは自分の魔法は解除したことはあるが、他人のはやったことがなかった。以前、ジョルジュから拘束魔法をかけられたことを思い出して尋ねる。

 「じゃあ拘束魔法を解いた時は?」

 「ちょっとしたテクニック使ったんだよ!第一、自分の魔力が魔法をかけたヤツより高くないと解けないからな!」

 「もし封印魔法かけることになった時はよろしくお願いします……」

 また不機嫌になっているベルゼブブを見上げながらエリスは丁寧に頼んだ。
それで少しだけ気を良くしたベルゼブブは大きく鼻で息を吐いてから口を開く。

 「あと、1つ引っかかってることがあるんだが」

 「何?」

 「何でエベロスがお前の手配書を持ってるんだ」

 「スパイから渡されたとか?」

 エリスの意見を聞いてもベルゼブブは眉をひそめたまま表情を変えない。

 「爽やかヤロウとクソガキしか知らねぇはずだ。アイツラがわざわざ敵対しているエベロスに教えるはずもねぇし」

 「じゃあ誰が……」 

 「部下1号だろうな」

 「え?裏切ったの?」

 アザゼルの名前が出ると思っていなかったエリスは少し顔を青くしてベルゼブブに詰め寄った。だが、ベルゼブブは取り乱すことなく話を続ける。

 「それはねぇよ。
  前にアイツ言ってただろ?不公平は嫌いだって。だからエベロスにも知らせたんだ。
  それに悪いことじゃなかっただろ。アイツが手配書
渡してたおかげでお前はエベロスに行くって決意したんだからよ」

 「そうね……」

 「後で部下1号に会ったら聞いといてやる。
まぁ、お前が聞いてもいいけどな」

 「考えておく。もう休むわ」

 エリスは安堵して大きく息を吐くと、明日に備えていつも
よりも早めに眠りについた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

初めて入ったダンジョンに閉じ込められました。死にたくないので死ぬ気で修行したら常識外れの縮地とすべてを砕く正拳突きを覚えました

陽好
ファンタジー
 ダンジョンの発生から50年、今ではダンジョンの難易度は9段階に設定されていて、最も難易度の低いダンジョンは「ノーマーク」と呼ばれ、簡単な試験に合格すれば誰でも入ることが出来るようになっていた。  東京に住む19才の男子学生『熾 火天(おき あぐに)』は大学の授業はそれほどなく、友人もほとんどおらず、趣味と呼べるような物もなく、自分の意思さえほとんどなかった。そんな青年は高校時代の友人からダンジョン探索に誘われ、遺跡探索許可を取得して探索に出ることになった。  青年の探索しに行ったダンジョンは「ノーマーク」の簡単なダンジョンだったが、それでもそこで採取できる鉱物や発掘物は仲介業者にそこそこの値段で買い取ってもらえた。  彼らが順調に探索を進めていると、ほとんどの生物が駆逐されたはずのその遺跡の奥から青年の2倍はあろうかという大きさの真っ白な動物が現れた。  彼を誘った高校時代の友人達は火天をおいて一目散に逃げてしまったが、彼は一足遅れてしまった。火天が扉にたどり着くと、ちょうど火天をおいていった奴らが扉を閉めるところだった。  無情にも扉は火天の目の前で閉じられてしまった。しかしこの時初めて、常に周りに流され、何も持っていなかった男が「生きたい!死にたくない!」と強く自身の意思を持ち、必死に生き延びようと戦いはじめる。白いバケモノから必死に逃げ、隠れては見つかり隠れては見つかるということをひたすら繰り返した。  火天は粘り強く隠れ続けることでなんとか白いバケモノを蒔くことに成功した。  そして火天はダンジョンの中で生き残るため、暇を潰すため、体を鍛え、精神を鍛えた。  瞬発力を鍛え、膂力を鍛え、何事にも動じないような精神力を鍛えた。気づくと火天は一歩で何メートルも進めるようになり、拳で岩を砕けるようになっていた。  力を手にした火天はそのまま外の世界へと飛び出し、いろいろと巻き込まれながら遺跡の謎を解明していく。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

処理中です...