「第2章開始」エレ レジストル〜生き残り少女の冒険録〜

望月かれん

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第2章

第38録 揺れ動く気持ち

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 空がオレンジ色に染まった頃、ロイトの元に戻ったエリスはさっそく報告をしていた。

 「お使い、終わりました。ドワーフさん達喜んでいましたよ」

 「ご苦労さま!ありがとう!助かったよ」

 「あと、これを渡しておいてくれと頼まれました」

 エリスがドワーフから預かった袋を差し出す。
不思議そうに受け取ったロイトは中を確認すると子どものように目を輝かせた。

 「ヒエヒエ草だ!これ、なかなか手に入らないから助かるんだよ!
ガドーさんもわかってるなぁ!」

 ガドーとは袋を渡してくれたドワーフのことだろう。イレーネの側についていたし、リーダー的存在なのかもしれない。
しかしそれよりもエリスは初めて聞いた植物の方が気になっていた。
  
 「ヒエヒエ草?」

 「うん。ガトーさん達が行く鉱山にしか生えていなくてね。ヤケドによく効くんだ」

 「そういえば、そのように仰ってました。
  でも、その……」

 気まずそうに口ごもるエリスを見て、ロイトは短く声を漏らす。エリスが何を言おうとしているのか察したようだ。

 「ああ、ヒエヒエ草だけでも十分そうなのに何でわざわざ薬を作ってるのかって?彼等に調合表渡してあるから作れるんだけどね。
やっぱり鍛冶が本業だから時間を取られたくないんだって」

 「な、なるほど」

 聞こうとしていたことを言い当てられてエリスは困惑するしかなく、
侮れない人物だと痛感した。

 「そういえば、危険な目には合わなかった?」

 「は、はい。大丈夫でした」

 「なら、よかった。
  って、使い魔君またいないの?」

 ロイトは今頃ベルゼブブがいないことに気づいて驚きの声を上げた。
 ベルゼブブはマーレ港に入ってから姿を消していた。理由を言わずに消えたため、エリスは不機嫌だからだと勝手に解釈している。

 「あまり機嫌がよくないみたいで」

 「そうなんだ。やっぱり僕、よく思われてないのかな……」

 「も、もともとから他人を信用しないタイプなので気にしないでください!」

 慌てて言ったエリスを見てロイトはキョトンとした後、頬を緩ませた。

 「はははっ、大丈夫だよ。僕も疑ってもらってて構わないって言ったからね。
  そろそろご飯にしようか。今日は薬草のスープだよ。昨日たくさん採れたからね。栄養豊富なんだ」

 「あ、ありがとうございます。いただきますね」





 
 夕食を終えて部屋に戻ったエリスは、窓際に置いてあるイスに腰掛けて大きく息を吐いた。
 イレーネとの会話を思い返してポツリと呟く。

 「私はどうしたらいいの……?」

 アレキサンドルだけが追ってくるのなら逃げ続ければよいだろう。
 ところがエベロスも自分を探していることがわかり、困惑していた。

アレキサンドルに捕まれば魔法で洗脳され、奪わなくて良い命まで奪うことになる。
エベロスに加担すれば正気のまま、かつ少ない犠牲で戦争を終わらせることができる可能性が高い。

 「お前の好きにすりゃいいんじゃねえのか。
そもそもアレキサンドルとエベロスが勝手に始めたんだろ?」

 いきなり部屋に現れたベルゼブブに驚きながらもエリスが尋ねる。

 「ど、どこに行ってたの?」

 「なんだ、気になるか?」

 「気になる」

 エリスの答えを聞くとベルゼブブはニヤリと口角を上げる。そして先程と同じように両手を広げると呪文を唱えた。
すぐさまエリスが彼を睨みつける。

 「警戒すんなよ。確かにさっき張ったバリアと同じだが、部屋の外で薬屋が聞き耳を立てているとも限らねぇからな。
念の為だ」

 「ロイトさんを疑ってるのね」

 「ああ、オレ様は信用してねぇ。
まさか信用しろとか言わねぇだろうな?」

 「言わないけど……」

 「フン、なら、怒りが籠もった目でオレ様を見るんじゃねぇよ。
 それにお前は信用、オレ様は不信用でバランス取れてるんだからいいだろ?」

 ベルゼブブの言い分にエリスは納得していなかったが、反論が思い浮かばないようで渋々頷いた。 
 
 「さて、オレ様がどこに行ってたかだが、地下だ。お前達の間じゃ「魔界」と呼ばれているだろうがな。
「契約」を結んだ使い魔や悪魔はいつでも地上と行き来できるようになるんだよ」

 「じゃあ「契約」を結んでいない者達は?」

 「許可がないと出れねぇ」

 「誰の?」

 「そりゃあ統治者のに決まってるだろ」

 自信満々に言うベルゼブブをエリスは首を傾げながら不安そうに口を開く。

 「サタン……?」

 「ソイツ以外に誰がいるんだよ。実力はオレ様と互角だが、
オレ様にリーダーシップなんてねぇからな。アイツの方が適任だ」

 「そ、そう……」

 「なんだよ、不満か?」

 「ここ最近、変」

 「あ?」

 言われた途端、ベルゼブブは金色の目をギラつかせてエリスの真正面に立った。

 「オレ様のどこが変なんだよ!?至って普通だろ!?」

 「その、やたら気遣ってくれたり、今みたいに素直に教えてくれたり。
前に同じことを聞いたけど教えてくれなかったじゃない」

 訝しげに言うエリスを見てベルゼブブは腕を組んで鼻を鳴らす。

 「そりゃあお前に死なれたら困るからだ」

 「それでも、変」

 「ケッ、何とでも言え。
  で、話が随分逸れたが、お前はどうしたいんだ?」

 急に話題を戻されて、エリスは表情を曇らせた。
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