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第2章
第34録 集落の探索
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「おい、まだ見て回んのか?」
「うん。またって言われたし」
「そうかよ……はぁ……」
どこか嬉しそうなエリスとは対照的にベルゼブブは飽きてしまったようで、しかめっ面でダルそうについて回っている。
2人は中央の作業場の近くに来ていた。近づかない方がいいと言われていたが気になってしまったようだ。
ドーム状の建物からは相変わらず金属を打つ音が響いている。屋外には乾燥させている工芸品を置くスペースがあり、
少しし厚めの布の上にいくつかのガラス製品がきれいに並べられている。エリスは興味深そうに顔を近づけた。
「あ、これはガラスのマグカップ?」
「おお、よくわかったな!」
エリスに気づいたドワーフが近寄ってくる。最初のドワーフとは違って髭は短く、
頭がエリスの腹にくるぐらいの背丈だ。
「熱を冷ましてたんだ。あともうひと押しだな。
《アイス・ウィンド》!!」
ドワーフの手のひらから冷風が吹き出し、ガラスの熱を冷ましてゆく。
突然の出来事にエリスどころかベルゼブブまで目を見張った。
「よし、もう退いても大丈夫だな。
って何だ?俺が魔法を使ったのがそんなに珍しいのか?」
「てっきり扱えないものとばかり……」
「まぁ、そう思うのも無理ねぇよ。ドワーフは魔法得意じゃないからな。
だが、俺みたいに魔力が微量あるのもいるんだぜ。
といっても1日に2・3回が限度だけどな!それに基本のものしか扱えない」
「な、なるほど……」
「さーて、回収回収」
驚いているエリス達をよそにドワーフは手際よく製品を集め始めた。
よく見ると大きさはバラバラで大人用から子供用まである。
「武器だけじゃないんだな」
「ああ。俺達は争い事が嫌いだからな。こんな感じでいろいろ作ってるんだ。武器は基本アンスタン大陸に送っている。
時々こっちの冒険者達からも依頼があるがな」
エリスは適当に相槌を打ったあと、別のスペースに置かれている複数の赤い物体に目を止めて近づく。
これらも開口が細いものから口から底まで同じ太さのもの等様々な種類があり、物体の放つ熱気に目を庇いながらドワーフに尋ねた。
「これはビン?」
「そうだ。欲しいのか?」
「ああ……」
エリスが使っていた商売道具はグラドとの戦いでなくなっており、小さなビンを3つしか持っていなかった。
ドワーフはエリスの返事を聞くと困ったように眉を下げる。
「こっちとしちゃビンを作ることぐらい構わないんだが、物々交換なんだ。
アンタは何をくれる?」
「物々交換……」
「ああ。参考にだが、戦い得意な奴らは食材とか持ってきてくれるぜ。
けっこう助かってる」
エリスは数回頭を捻った後、何かを閃いたようで小さく声を上げる。
「薬は、どうだろうか?」
「薬か……いいな。ん?ってことはアンタ調合できるのか?」
「ああ」
エリスが即答したのを見てドワーフは大げさにのけぞった。
「うへぇ、この辺りじゃマーレ港のロイト兄ちゃんしかいないからなぁ。
よし、薬で手を打とう!」
「ありがとう。具体的にはどんな薬がいい?」
「そうだな……1番はヤケドに効くものだな。1日中、火と一緒だからよ。
あとは切り傷と痛み止めと……」
「けっこうあるな……。あ、でも」
声のトーンを下げたエリスを見ながらドワーフが不思議そうに首を傾げる。
「ここに来るのは初めてだから、薬ができるまで時間がかかると思う」
「ちゃんと作ってくれるんなら時間は気にしないさ。
初めてってことはアンタ、アンスタン大陸から来たんだな。
イレーネちゃんと同郷か?」
「そうなる……」
「そうか。よかったらイレーネちゃんと話してやってくれねぇか?ここは見ての通りドワーフしか居なくてよ。
観光で人間はたくさん来るんだが、集団が多くてイレーネちゃんは
なかなか声をかけられないんだ。俺達にもだいぶ慣れてくれたんだが、人間相手の方が嬉しいと思うし」
ドワーフの話を聞きながらエリスは顔を引きつらせた。
親しくない自分が話し相手に抜擢されたことに対して不服があるようだ。
「先ほど少し話してきたけど忙しそうで……」
「ああ、ちょうど水を運ぶ時間だったからな。そう見えたんだろう。今は手が空いてると思うぜ。
イレーネちゃん、俺達がハンマー振るってるのを目をキラキラさせながら見てるんだ。戦いに関することからは逃げようとするのに。
まぁ性格だから仕方がないんだろうけど」
「………………」
「ああ、話が逸れたな。イレーネちゃんなら今頃散歩してると思うぜ。
適当に歩いてたら会えるだろうよ」
「ありがとうございます」
エリスは丁寧にお礼をいうと気さくなドワーフと別れた。
再び集落内を歩き回っているとベルゼブブがポツリと呟く。
「しかし、剣術に長けた家柄に生まれながら本人はそれを望んでいない、か。もったいねぇな。それにどっかの誰かさんと似てるしよ」
「そうね……」
「まぁ、オレ様の知ったこっちゃねぇけど」
「町中じゃ口利かないんじゃなかったの?」
急にツッコまれてベルゼブブは素早くエリスの前に立ちはだかると眉をつり上げながら詰め寄る。
「あれはお前が他のヤツと話してる間だけって意味だ!」
「てっきり町にいる間ずっとかと……」
「薬屋の所でも話しただろうが!そのときに聞けよ!」
「あのときは疑問に思わなかった」
「そうかよ……」
ベルゼブブは呆れたようにため息をつくとエリスの背後に戻った。これ以上話しても無駄だと思ったようだ。
エリスは少しだけ首を後ろに向けて様子を伺ったが、そっぽを向いている彼を見て眉を下げると歩き出した。
イレーネとは工房よりも少し高い位置にある家通りで再会した。彼女もエリスに気づいて軽い笑顔を浮かべる。
「あ、え、えっと……」
「エスと言う」
「エ、エスさん。な、何かご用ですか?」
「少し話でもしようかと思って」
「な、何のお話でしょうかっ?
ハッ!?もしかして身の上を話さなければ殺さ――」
「違う……」
エリスは呆れて目を伏せながら顔を青くしているイレーネをなだめた。
「純粋に話したいだけ」
「ご、ごめんなさい!思い込みが激しくって。
あっ!それなら私の家でお話しませんか?立っているのもどうかと思いますし……」
思いもしなかった提案にエリスとベルゼブブは顔を見合わせる。
2人の表情を見たイレーネは慌ててつけ足した。
「い、嫌ならそれで構いませんのでっ!」
「せっかくだからお邪魔させてもらう」
「本当ですか⁉よかったぁ~。で、では案内しますね!」
イレーネが軽く跳ねながら先導する。ドワーフの言っていた通り、同じ種族と話ができるのが嬉しいようだ。
エリスはいつかの時と同じようにベルゼブブを見上げる。
「……行っていいのよね?」
「行けよ。邪魔するって言ったじゃねぇか」
ぶっきらぼうに答えたベルゼブブにエリスは肩をすぼめるとイレーネの後に続いた。
「うん。またって言われたし」
「そうかよ……はぁ……」
どこか嬉しそうなエリスとは対照的にベルゼブブは飽きてしまったようで、しかめっ面でダルそうについて回っている。
2人は中央の作業場の近くに来ていた。近づかない方がいいと言われていたが気になってしまったようだ。
ドーム状の建物からは相変わらず金属を打つ音が響いている。屋外には乾燥させている工芸品を置くスペースがあり、
少しし厚めの布の上にいくつかのガラス製品がきれいに並べられている。エリスは興味深そうに顔を近づけた。
「あ、これはガラスのマグカップ?」
「おお、よくわかったな!」
エリスに気づいたドワーフが近寄ってくる。最初のドワーフとは違って髭は短く、
頭がエリスの腹にくるぐらいの背丈だ。
「熱を冷ましてたんだ。あともうひと押しだな。
《アイス・ウィンド》!!」
ドワーフの手のひらから冷風が吹き出し、ガラスの熱を冷ましてゆく。
突然の出来事にエリスどころかベルゼブブまで目を見張った。
「よし、もう退いても大丈夫だな。
って何だ?俺が魔法を使ったのがそんなに珍しいのか?」
「てっきり扱えないものとばかり……」
「まぁ、そう思うのも無理ねぇよ。ドワーフは魔法得意じゃないからな。
だが、俺みたいに魔力が微量あるのもいるんだぜ。
といっても1日に2・3回が限度だけどな!それに基本のものしか扱えない」
「な、なるほど……」
「さーて、回収回収」
驚いているエリス達をよそにドワーフは手際よく製品を集め始めた。
よく見ると大きさはバラバラで大人用から子供用まである。
「武器だけじゃないんだな」
「ああ。俺達は争い事が嫌いだからな。こんな感じでいろいろ作ってるんだ。武器は基本アンスタン大陸に送っている。
時々こっちの冒険者達からも依頼があるがな」
エリスは適当に相槌を打ったあと、別のスペースに置かれている複数の赤い物体に目を止めて近づく。
これらも開口が細いものから口から底まで同じ太さのもの等様々な種類があり、物体の放つ熱気に目を庇いながらドワーフに尋ねた。
「これはビン?」
「そうだ。欲しいのか?」
「ああ……」
エリスが使っていた商売道具はグラドとの戦いでなくなっており、小さなビンを3つしか持っていなかった。
ドワーフはエリスの返事を聞くと困ったように眉を下げる。
「こっちとしちゃビンを作ることぐらい構わないんだが、物々交換なんだ。
アンタは何をくれる?」
「物々交換……」
「ああ。参考にだが、戦い得意な奴らは食材とか持ってきてくれるぜ。
けっこう助かってる」
エリスは数回頭を捻った後、何かを閃いたようで小さく声を上げる。
「薬は、どうだろうか?」
「薬か……いいな。ん?ってことはアンタ調合できるのか?」
「ああ」
エリスが即答したのを見てドワーフは大げさにのけぞった。
「うへぇ、この辺りじゃマーレ港のロイト兄ちゃんしかいないからなぁ。
よし、薬で手を打とう!」
「ありがとう。具体的にはどんな薬がいい?」
「そうだな……1番はヤケドに効くものだな。1日中、火と一緒だからよ。
あとは切り傷と痛み止めと……」
「けっこうあるな……。あ、でも」
声のトーンを下げたエリスを見ながらドワーフが不思議そうに首を傾げる。
「ここに来るのは初めてだから、薬ができるまで時間がかかると思う」
「ちゃんと作ってくれるんなら時間は気にしないさ。
初めてってことはアンタ、アンスタン大陸から来たんだな。
イレーネちゃんと同郷か?」
「そうなる……」
「そうか。よかったらイレーネちゃんと話してやってくれねぇか?ここは見ての通りドワーフしか居なくてよ。
観光で人間はたくさん来るんだが、集団が多くてイレーネちゃんは
なかなか声をかけられないんだ。俺達にもだいぶ慣れてくれたんだが、人間相手の方が嬉しいと思うし」
ドワーフの話を聞きながらエリスは顔を引きつらせた。
親しくない自分が話し相手に抜擢されたことに対して不服があるようだ。
「先ほど少し話してきたけど忙しそうで……」
「ああ、ちょうど水を運ぶ時間だったからな。そう見えたんだろう。今は手が空いてると思うぜ。
イレーネちゃん、俺達がハンマー振るってるのを目をキラキラさせながら見てるんだ。戦いに関することからは逃げようとするのに。
まぁ性格だから仕方がないんだろうけど」
「………………」
「ああ、話が逸れたな。イレーネちゃんなら今頃散歩してると思うぜ。
適当に歩いてたら会えるだろうよ」
「ありがとうございます」
エリスは丁寧にお礼をいうと気さくなドワーフと別れた。
再び集落内を歩き回っているとベルゼブブがポツリと呟く。
「しかし、剣術に長けた家柄に生まれながら本人はそれを望んでいない、か。もったいねぇな。それにどっかの誰かさんと似てるしよ」
「そうね……」
「まぁ、オレ様の知ったこっちゃねぇけど」
「町中じゃ口利かないんじゃなかったの?」
急にツッコまれてベルゼブブは素早くエリスの前に立ちはだかると眉をつり上げながら詰め寄る。
「あれはお前が他のヤツと話してる間だけって意味だ!」
「てっきり町にいる間ずっとかと……」
「薬屋の所でも話しただろうが!そのときに聞けよ!」
「あのときは疑問に思わなかった」
「そうかよ……」
ベルゼブブは呆れたようにため息をつくとエリスの背後に戻った。これ以上話しても無駄だと思ったようだ。
エリスは少しだけ首を後ろに向けて様子を伺ったが、そっぽを向いている彼を見て眉を下げると歩き出した。
イレーネとは工房よりも少し高い位置にある家通りで再会した。彼女もエリスに気づいて軽い笑顔を浮かべる。
「あ、え、えっと……」
「エスと言う」
「エ、エスさん。な、何かご用ですか?」
「少し話でもしようかと思って」
「な、何のお話でしょうかっ?
ハッ!?もしかして身の上を話さなければ殺さ――」
「違う……」
エリスは呆れて目を伏せながら顔を青くしているイレーネをなだめた。
「純粋に話したいだけ」
「ご、ごめんなさい!思い込みが激しくって。
あっ!それなら私の家でお話しませんか?立っているのもどうかと思いますし……」
思いもしなかった提案にエリスとベルゼブブは顔を見合わせる。
2人の表情を見たイレーネは慌ててつけ足した。
「い、嫌ならそれで構いませんのでっ!」
「せっかくだからお邪魔させてもらう」
「本当ですか⁉よかったぁ~。で、では案内しますね!」
イレーネが軽く跳ねながら先導する。ドワーフの言っていた通り、同じ種族と話ができるのが嬉しいようだ。
エリスはいつかの時と同じようにベルゼブブを見上げる。
「……行っていいのよね?」
「行けよ。邪魔するって言ったじゃねぇか」
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