「第2章開始」エレ レジストル〜生き残り少女の冒険録〜

望月かれん

文字の大きさ
上 下
21 / 41
第1部 逃避行編 第1章

第21録 同業者

しおりを挟む
 エリスとベルゼブブは呆然とアザゼルが去った方向を
眺めていた。

 「あっという間だった……」
  
 「部下1号は人混み苦手だからな。
とっとと離れたかったんだろうよ」

 「そうなの?」

 先程までのアザゼルの様子を思い出したのか、エリスは
意外そうに呟く。ベルゼブブも同調するように頷いた。

 「ああ。そのくせ素材探すのによく地上に出てるんだぜ?
本当変わってる。
 それはそうとお前、性別は偽んのか?」

 「え?」

 急に話題を自分のことに変えられてエリスは目を
丸くする。

 「え、じゃねぇよ。アレキサンドルもうろついてるんだろ?
バッタリ顔合わせたらどうすんだ?」

 「通り過ぎる……」

 「ムリだろ。感知はできないとはいえ、見たら魔力が
平均以上なのはわかるんだよな?」

 言いながらベルゼブブは何かを閃いたようで、ニヤリと口角を上げるとエリスに顔を近づける。

 「感知できないのでお願いします魔王様って言うんなら、
オレ様が先導してやってもいいぜ?」

 「絶対に言わない」
 
 「オレ様の貴重な親切心をムダにすんなよ⁉」

 即答したエリスにベルゼブブがかみつく。エリスは顔を
そむけるとボソリと呟いた。

 「なんか負けた気がするから」

 「フン、そもそもオレ様は魔王、お前は魔力が高いだけの
人間だ。最初から負けてるだろ」
 
 「じゃあ、どうして言うこと聞いてくれてるの?」

 予想外の返答だったらしくベルゼブブが言葉に詰まる。
しかしすぐに目をつり上げると口を開く。

 「そりゃ「契約」結んでるからだ!オレ様の方が立場が
上とはいえ、ある程度は聞いてやらなきゃな!
 どうせ今から何するのかも決めてねぇんだろ?」

 「とりあえず町の中を見て回ろうとは思ってた。
全く知らない所だから。あと性別は極力偽る」
  
 「アレキサンドルとバッタリ会っても知らねぇからな。
あと町中では口利かねぇ。他のヤツに目をつけられたら
めんどくせぇ」 

 「わかった。それにそっちの方が助かる」

 「……チッ」

 ベルゼブブは言い返そうとしたが、道の先の人通りが
多くなってきているのを見て渋々諦めた。
 シーポルトとは違って露天よりも店舗が目立つ。海が近い
ことと、モンスターの侵入が多いためだ。
 ときどき周囲を警戒しながら町の中を散策していたエリスはある店舗の前で足を止める。
看板には薬屋と書かれていた。エリスはベルゼブブに目配せして入る意志を伝えてから、木製のドアを押して中に入る。
すると店員の男が声をかけた。

 「いらっしゃい!何がご入用かな?」

 「品物を見に来ただけで、買うかは、わからない」

 「え、そうなの?」

 男はエリスに興味を持ったようでカウンターから
出てきた。エリスの話し方には疑問を持っていないらしく、気さくに話を続ける。

 「ヘー、じゃあ君、魔法使い?」

 「一応は……。薬を売り歩いているから戦闘はあまり
しない」

 「そうなんだ。ああ、だから使い魔を喚んでるんだね。
ずいぶん強そうだけど何族?」

 男がベルゼブブを見ながら言う。しかしベルゼブブは
めんどくさそうに鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

 「ありゃ?警戒されてる?」

 「馴れ合いは得意じゃないみたいで」

 「そのようだね。使い魔連れてる人を久しぶりに見たから、つい気になっちゃって」

 「気にしないで。……これは?」

 エリスはそう言って棚に陳列されたビンの1つを指差す。
中には紫色の液体が入っていた。

 「ああ、それは解毒薬だよ」

 「解毒薬⁉あ、いや、緑色のしか作ったことがなくて」

 「緑色⁉……もしかして君、アンスタン大陸から来たの?」

 解毒薬の人色だけで別大陸から来たと判断した男をすごいと思いながらもエリスは戸惑っていた。
大陸の名前には疎い。

 「ああ……。ここの大陸の名前は?」

 「リヤン大陸だよ」

 「な、なるほど……」

 「ここはいろんな種族が共存してるからね。
まだ会ったことない?」

 男は笑顔で言いながらビンを1つ手に取ると説明を始める。

 「この解毒薬はパープルワームというモンスターの体液を
原料にして作ったんだ。なぜか毒の抗体を持っていてね。
よく効くよ」

 そう言ってエリスに手渡した。受け取ったエリスはそれを
まじまじと見つめる。薬の知識は多少あるとはいえ、初めて
見る物には目を輝かせている。すると男がソワソワしながら
声をかけた。

 「もしもの話なんだけど、緑色の解毒薬を持ってるなら
見せてほしいな」

 「少し待ってくだ……ほしい。えっと……」

 エリスは1度ビンを側のテーブルに置くと腰から
下げている袋をあさり始める。少しの間の後、手のひらより
少し大きいビンを取り出した。

 「あった」

 「おお、確かに緑色だ!これは何を原料にしているの?」

 「グリーンスライムというモンスター、だ」

 「え、スライムって薬の原料になるの?」

 驚き半分呆れ半分の表情で男がビンに顔を近づける。

 「あ、ああ。喉通りが良いから。それに解毒作用のある薬草等を混ぜて作る」

 「へー、ちょっとメモ取らせて!」

 男は慌てて店の奥に駆け込むと紙と羽根ペンを
持ってきた。今聞いた内容を素早く書き留める。

 「お礼といってはなんだけど、これをあげるよ」
   
 「あ、ありがとう……」

 「いいよいいよ!いやー、僕は嬉しいんだ。
薬屋という看板を掲げてる以上、買いに来る人がほとんどだからね。
 ましてやアンスタン大陸からの同業者なんだから、
もう願ったり叶ったり」

 「それはどうも……」

 少し困ったように眉を下げるエリスに男は微笑ましそうな
目を向ける。

 「本当はいろんな所に行きたいんだけどね。この辺りで
薬屋は僕しかやってないんだ。素材集めで店を閉めることは
あるけど、長くて2日なんだよ」

 「た、大変、だな」

 「でも買ってくれる人がいるから頑張れるんだ。
そうだ!よかったら君の名前知っておきたいな。僕はロイト」

 「……エス」

 「エスだね。よかったらまた寄ってね!」

 ロイトと名乗った男はエリスに握手を求める。
エリスはおそるおそる手を伸ばすと彼の手を取った。

 「また機会があれば。
あとその解毒薬はもらってくれると助か――」

 「本当かい⁉ありがとうありがとう!!」

 興奮したロイトはエリスの手を握ったまま何度も上下させていたが、ふと我に返ると少し顔を赤くして手を離す。
そして興奮していたことを謝った。
 ベルゼブブはその様子を見て呆れてため息をついたが、
ふと目を細めると店の入り口をジッと見つめる。

 「来やがったか……」

 しかしその呟きは、謝罪と否定を繰り返している
エリスたちの耳に届かなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

初めて入ったダンジョンに閉じ込められました。死にたくないので死ぬ気で修行したら常識外れの縮地とすべてを砕く正拳突きを覚えました

陽好
ファンタジー
 ダンジョンの発生から50年、今ではダンジョンの難易度は9段階に設定されていて、最も難易度の低いダンジョンは「ノーマーク」と呼ばれ、簡単な試験に合格すれば誰でも入ることが出来るようになっていた。  東京に住む19才の男子学生『熾 火天(おき あぐに)』は大学の授業はそれほどなく、友人もほとんどおらず、趣味と呼べるような物もなく、自分の意思さえほとんどなかった。そんな青年は高校時代の友人からダンジョン探索に誘われ、遺跡探索許可を取得して探索に出ることになった。  青年の探索しに行ったダンジョンは「ノーマーク」の簡単なダンジョンだったが、それでもそこで採取できる鉱物や発掘物は仲介業者にそこそこの値段で買い取ってもらえた。  彼らが順調に探索を進めていると、ほとんどの生物が駆逐されたはずのその遺跡の奥から青年の2倍はあろうかという大きさの真っ白な動物が現れた。  彼を誘った高校時代の友人達は火天をおいて一目散に逃げてしまったが、彼は一足遅れてしまった。火天が扉にたどり着くと、ちょうど火天をおいていった奴らが扉を閉めるところだった。  無情にも扉は火天の目の前で閉じられてしまった。しかしこの時初めて、常に周りに流され、何も持っていなかった男が「生きたい!死にたくない!」と強く自身の意思を持ち、必死に生き延びようと戦いはじめる。白いバケモノから必死に逃げ、隠れては見つかり隠れては見つかるということをひたすら繰り返した。  火天は粘り強く隠れ続けることでなんとか白いバケモノを蒔くことに成功した。  そして火天はダンジョンの中で生き残るため、暇を潰すため、体を鍛え、精神を鍛えた。  瞬発力を鍛え、膂力を鍛え、何事にも動じないような精神力を鍛えた。気づくと火天は一歩で何メートルも進めるようになり、拳で岩を砕けるようになっていた。  力を手にした火天はそのまま外の世界へと飛び出し、いろいろと巻き込まれながら遺跡の謎を解明していく。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

処理中です...