「第2章開始」エレ レジストル〜生き残り少女の冒険録〜

望月かれん

文字の大きさ
上 下
18 / 41
第1部 逃避行編 第1章

第18録 ベルゼブブの憂鬱

しおりを挟む
 「だからなんでお前がいるんだよ」

 魔界に戻されたベルゼブブは当然のように隣にいるアザゼルを睨んでいた。破壊されたはずの魔法陣は再生しており、
ガッチリとベルゼブブの動きを封じている。
 アザゼルは表情を変えずに口を開いた。

 「今回はちゃんと理由がある。強行突破して地上に出たんだから、
すり傷だけじゃなくて他にも悪いトコあるッスよね?」

 「あったんだが……ここに戻されたら治っちまった」

 地上に出ていたときにできていたすり傷やローブの破れは嘘のようになくなっていた。
 ベルゼブブの言葉を聞いたアザゼルはつまらなそうにため息をつく。

 「ちっ、戻り損ッス。せっかく世話させてもらえるかと思ったのに。
 それはそうと、エリスの父親何者なんスか。受肉云々も
そうだが、魔界でも制限かけられるなんて聞いたことがない」
 
 「「契約」結ぶときに介入されて、都合のいいこと書き込まれたんだよ。2つともそれだ」

 「断ればよかったじゃないスか」

 「そうしようとしたんだけどな。そしたらアイツ何て言ったと思う?「悪魔の1、2を争う君が
たったこれぐらいのことで怒って「契約」を諦めるのか?」だとよ!
思い出したら腹立ってきたぜ」

 「あー、挑発にのったんスね」

 目を吊り上げて言うベルゼブブをアザゼルはどこか哀れみの表情で眺めた。

 「そりゃのるだろ!オレ様にもプライドがあるからな!」 

 「プライド……ないよりはある方がいいんでしょーねぇ。
 それにしてもタイチョーが素直に言うこと聞くなんて珍しいじゃないスか。無理言って暴れてるかと思った」

 「「契約」を守りきれば報酬が増えるからだ。
 オレ様は喚ばれることが滅多にないからな。それにお前みたいに簡単に地上に出れねぇし」

 アザゼルは意外そうに首を傾げる。

 「そーなんスか?タイチョーなら簡単に許可もらえるでしょーよ。まあ、どーでもいいか。
 んで、話を戻すと、すでにもらってる報酬はエリスの両親のタマシイ。
追加報酬がエリスのタマシイってことスか」

 「ああ。父親は「足りなかったら「契約」終了後に持って
いっていい」と言っていたが、足りても足りなくても持ってくに決まってんだろ」

 「強欲ッスねぇ」

 「お前に言われたくねぇよ!
 そういや1つ気になってたんだが、お前、村でどうやって
アイツにコントロール魔法かけた?確か相手の目を見ないと
かけれなかったはずだろ?」

 ベルゼブブの言うことは最もで、アザゼルはその時ずっと空中にいた。つまり、エリスとは1度も目を合わせていない。
 するとアザゼルは右手で自分の目を覆った。少しして外すと手の中央に小さめの模様がフワフワと浮かんでいるが、
右目の模様が消えたわけではなく、しっかりと中心に浮かんでいる。
 ひと通り見ていたベルゼブブは怪訝そうに首を傾げた。

 「何だそれ?まさかそのちっさい方を相手に投げて操るとか言わねぇよな?」

 「いや?その通りッスよ?流石ッス」

 「マジかよ……」

 「だが、これはフツーにコントロールするよりも倍、魔力を使うんスよ。
それに外したら最低でも半月はこの魔法を使えなくなるデメリットがある。
オレにとっちゃ痛手ッス」

 淡々と解説するアザゼルをベルゼブブは理解できないという表情で耳を傾けている。

 「そこまでして操りたかったのか?」

 「操りたかったわけじゃないッスよ。ただ、あの人間2人があれぐらいの罰で済むのなら甘過ぎると判断したまで。
実際やって正解だったッスよ。
 まぁ、エリスを使うつもりはなかったんで、ちゃんと謝ってはおいたが、敵視されかけたッス」

 「他のヤツに対して1歩引いてるところはあるが、
関係が悪い方向に進むのは嫌なんだな、アイツ」

 「見に覚えのないことで悪くなるんなら誰だってそうだと思うッスよ。
 でもよかったじゃないスか、タイチョー。
大陸移動したら常に出してもらえるんスから」

 「ああ。やっとこの拘束ともおさらばできる!」

 「タイチョーの振る舞いによってはまたここに戻る可能性もあるでしょーけどね。
でも最低限のモラルは守ってほしいっス」

 こっそりガッツポーズをとっていたベルゼブブはすかさず
アザゼルにかみついた。

 「それぐらい守るぞ⁉誰これ構わず喧嘩売り買いしてるわけじゃねぇし⁉
それに今のところアイツがオレ様を喚び出すのは困ったときぐらいだからな⁉」

 「なんでエリスは常に喚んでおかないんスか?」

 「……………………………」

 実はベルゼブブは受肉していない姿でも移動中にすれ違う人々の靴や服の裾をワザと踏んで転ばせていた。
ベルゼブブの仕業だと周りから感づかれることはなかったが、困り果てたエリスはある時を境に困ったときにしか
喚び出さなくなっていたのだ。

 「べ、別にアイツなりの理由があるんだろ。まあ
もしオレ様が何かやったのが原因だったとしても、やらなければいいだけの話だ」

 「そうスか……。あ、タイチョー。ちょっと失礼」

 「は?イデッ⁉」

 アザゼルはベルゼブブの腕を取ると注射針を突き刺した。

 「何すんだよ!痛ぇだろうが!」

 「アレキサンドルからエリスを助けた分もらうの
忘れてたッス」

 「ノーカウントじゃないのかよ⁉確かに助けるたびに1本分とは言ってたがその後からだろ?」
 
 「どっちからでもいいじゃないスか。
まぁ、タイチョーは少し休んでてくださいよ」

 止血草を渡すとアザゼルはグッと身を屈めて地上に出る準備に入る。
ベルゼブブが止血の若干の痛みに顔を歪めながら声をかけた。

 「どこ行くんだ?走り廻る素材集めのか?」

 「どこって、エリスのところッス。なんか胸騒ぎがする
んでね。それにタイチョーも言ってたじゃないスか。
動けないときは頼むって」

 「……採るなよ」

 「貰ったばかりッスからねぇ。ダイジョーブ」

 疑いの目で見てくるベルゼブブに対してアザゼルは薄ら笑いを浮かべて応えると
地上に飛び上がっていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

初めて入ったダンジョンに閉じ込められました。死にたくないので死ぬ気で修行したら常識外れの縮地とすべてを砕く正拳突きを覚えました

陽好
ファンタジー
 ダンジョンの発生から50年、今ではダンジョンの難易度は9段階に設定されていて、最も難易度の低いダンジョンは「ノーマーク」と呼ばれ、簡単な試験に合格すれば誰でも入ることが出来るようになっていた。  東京に住む19才の男子学生『熾 火天(おき あぐに)』は大学の授業はそれほどなく、友人もほとんどおらず、趣味と呼べるような物もなく、自分の意思さえほとんどなかった。そんな青年は高校時代の友人からダンジョン探索に誘われ、遺跡探索許可を取得して探索に出ることになった。  青年の探索しに行ったダンジョンは「ノーマーク」の簡単なダンジョンだったが、それでもそこで採取できる鉱物や発掘物は仲介業者にそこそこの値段で買い取ってもらえた。  彼らが順調に探索を進めていると、ほとんどの生物が駆逐されたはずのその遺跡の奥から青年の2倍はあろうかという大きさの真っ白な動物が現れた。  彼を誘った高校時代の友人達は火天をおいて一目散に逃げてしまったが、彼は一足遅れてしまった。火天が扉にたどり着くと、ちょうど火天をおいていった奴らが扉を閉めるところだった。  無情にも扉は火天の目の前で閉じられてしまった。しかしこの時初めて、常に周りに流され、何も持っていなかった男が「生きたい!死にたくない!」と強く自身の意思を持ち、必死に生き延びようと戦いはじめる。白いバケモノから必死に逃げ、隠れては見つかり隠れては見つかるということをひたすら繰り返した。  火天は粘り強く隠れ続けることでなんとか白いバケモノを蒔くことに成功した。  そして火天はダンジョンの中で生き残るため、暇を潰すため、体を鍛え、精神を鍛えた。  瞬発力を鍛え、膂力を鍛え、何事にも動じないような精神力を鍛えた。気づくと火天は一歩で何メートルも進めるようになり、拳で岩を砕けるようになっていた。  力を手にした火天はそのまま外の世界へと飛び出し、いろいろと巻き込まれながら遺跡の謎を解明していく。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

処理中です...