「第2章開始」エレ レジストル〜生き残り少女の冒険録〜

望月かれん

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第1部 逃避行編 第1章

第17録 筋金入りのカワリモノ

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 「ヨッ、少しぶりッスね」

 街道から離れた場所を歩いているエリスの前にボサボサ男が降り立った。
それからエリスの全身をまじまじと眺める。

 「あ」

 「髪色だけじゃなくローブも変えたか。
いいと思うッスよ」

 「それはどうも……」

 エリスはフードを脱ぎながら少し不安を帯びた目で
ボサボサ男を見た。視線に気づいたボサボサ男は不思議そうに首を傾げる。

 「ん?なんかおかしいッスか?」

 「どうして私だってわかったの?大部分が変わってるのに」

 「ああ、魔力を辿ったんスよ。前回会ったときに魔力量を
覚えたんでね。そうじゃなくてもテオドールだけあって
1発でわかるけどな」

 「魔力感知できるの?」

 珍しく食いついて近づいてきたエリスを面白そうに眺めながらボサボサ男が話を続けた。

 「オレたち悪魔は誰でもできるッスよ。
人間はできない?」

 「できない。普通と違うのは見たらわかるときもあるけど、魔力感知の道具を使ってやっと……」

 「フーン、そうスか。ちょっと意外ッスね。魔力が溢れ出てるのぐらい感知できると思ってたんだが」

 ニヤニヤと笑うボサボサ男を見ながら、エリスは自分が
近づきすぎていることに気づいて少し距離を取ると口を開く。

 「それより、1つ聞いてもいい?」

 「ん?」

 「イカナ村で私にコントロール魔法かけた?」

 するとボサボサ男は目を細めて口角を上げた。
やっと気づいたかとでも言いたげな表情だ。

 「どっちなの?」

 「かけてないならソッコーで否定するッスよ」

 「何のつもり⁉怖がらせてしまったじゃない!」

 声を荒くしたエリスを見ても全く動じずにボサボサ男は
軽く頰をかく。

 「コントロール魔法かけたのは悪かった。それにお嬢さんを利用するつもりなんてなかったからな。
 だが、ああいうヤツらは1度イタイ目に遭っとかないと
わからないんスよ。自分がどれだけやらかしたのかをな」

 「だからって……」

 「反省はしていたようだがフェイクだったらどうする?
また日を空けずに同じことするかもしれないんスよ?」

 「騎士たちの調査から3日間過ごしたけど、何も起こらなかった。
最終的には密告した人たちも世話を焼いてくれたし……」

 「お嬢さんが出ていってから密告する可能性もある。
それに密告したヤツらは今のお嬢さんの姿を知ってるんスよね?」

 「そう、だと思う……」

 見た目を変えてからすぐに村を出たためエリスはデールたちに会ってはいなかったが、
声をかけられなかっただけで見られている可能性はある。
 不安からかエリスの顔から血の気が引いていき、それを
見たボサボサ男はまた口角を上げると、煽るように身を少し屈めて目線を合わせた。

 「だったらまだ安全とは言えないッスね?」

 「あ、あの人たちはもうそんなことしないっ」

 「どうだか。欲ってモノはそう簡単になくならないっスよ。
表に出してないだけで密かに持ってるかもしれない」

 返す言葉が出てこないエリスは気まずそうに
ボサボサ男から顔をそらす。

 「まぁ、お嬢さんが大丈夫だと思うんならそれで
いいんじゃないスか」

 「………………私はあまり他人を巻き込みたくなくて」

 どうにか絞り出して言ったエリスをボサボサ男は鼻で
笑った。

 「ハ、甘いッスねぇ。他人を巻き込まないもなにも、
お嬢さんに関わった時点で巻き込んでるッスよ」

 ボサボサ男の言葉を聞いたエリスは息をのむ。彼の言うことが正しければ
イカナ村の住人はもちろん、エリスから薬を買った人たちも巻き込んだことになるからだ。

 「で、でも私は両親との「約束」で……」

 「目立ちたくはないが、他人も巻き込みたくない?」

 「………………」

 「両立は難しいッスねぇ。というか実質不可能。
どちらかならイケるだろうが」

 「それはわかってるけど――う⁉」
 
 急に頭を抑えて膝をついたエリスを見てボサボサ男は真剣な顔つきになる。

 「急に周囲の魔力が高まり始めた?まさか……」

 「ま、た、頭痛!」

 辺りに赤黒いモヤが広がり、ところどころすり傷を負った
ベルゼブブが姿を現した。そして素早くエリスからボサボサ男を引き離して睨みつける。

 「不必要に近づくなっつってんだろうが!部下1号‼」

 「自力⁉マジスか⁉」

 「しかも……受肉してる……」

 痛みに顔を歪めているエリスを横目で見るとベルゼブブは
ボサボサ男に向き直った。唖然としていたボサボサ男はふと
我に返ると目を細めて口を開く。

 「タイチョー、自力で出てきたのはスゴイッスけど、
お嬢さんが――」

 「誰のせいでこうなったと思ってんだ!」

 ベルゼブブの怒号にボサボサ男が押し黙った。正論かつ間髪入れずに言われて口を曲げている。
 エリスはベルゼブブの強制現界により頭痛から解放され、
ゆっくり立ち上がると遠慮がちに声をかけた。

 「ど、どうしてそんなに……」

 「オレの趣味が原因なんスよ。
あーあ、まさかこんなに早く言うことになるとは」

 答えようとしたベルゼブブを手で制止しながらボサボサ男は一息つくと再び口を開く。
 
 「オレの趣味は実験ッス。っても生物は絶対に殺さない。
だから血液や体液、体毛で何かできないか考えてるんスよ。
薬とかね」

 「で、部下1号はお前の血を狙ってんだよ。
不必要に近づくなって言っといてコレだぜ全く……」

 「衝動は抑えられないッス」

 エリスは目を丸くして、呆れて腕を組んでいるベルゼブブを見る。

 「心配してくれたの?」

 「心配じゃねぇ!それに部下1号は相手の表情を歪ませるのが好きなんだよ。お前はまだ耐性がないだろ?
それで落ち込んでるところに言葉浴びせられて自暴自棄になって死なれても困る!」

 「心配してるじゃないスか」

 「だから心配じゃねぇって言ってるだろ!
さっきも言ったがオレ様が困るからだよ!」

 怒り気味に言うベルゼブブを複雑な表情で見てからエリスはボサボサ男の方を向いた。 

 「言うの遅くなったけど、私はエリス。
 あな――だッ⁉」

 すかさずベルゼブブがエリスの口を手で覆った。しかし
遅かったようでボサボサ男は眉間にシワを寄せて不快感を示している。

 「お前……言いやがったな」

 「ム?」

 「言ってしまったッスねぇ。チッ、今日はツイてないな」

 まだ状況が理解出来ていないエリスは2人を交互に見ることしかできない。
するとベルゼブブがエリスの口から手を離しながら深いため息をついた。

 「部下1号は自分の名前を言うのが嫌なんだよ。
ところが、不公平を嫌っててな。お前が名乗ったことで
言わなきゃならなくなった」

 「む、無理して言わなくても……」

 「お気遣いどーも。だが、オレのプライドが許さない
んで」

 ボサボサ男も大きなため息をついてエリスを軽く睨む。

 「最初で最後だからよく聞いとけ。
オレはアザゼル。聞いたことあるよな?」

 「うん……」

 「なら、話は早い。オレは位が高くないから期待はしない方がいいッスよ。
 ああもう、胸クソ悪ぃ。タイチョー、そのままお嬢さん抑えててもらっていいスか?
1本分もらわないと気が済まない」

 「……だとよ」

 アザゼルは懐から注射器を取り出すとブキミな笑みを浮かべてエリスに近づいてゆく。ベルゼブブは逃げようとする
エリスを涼しい顔で羽交い締めにした。

 「え!?ちょ、離して!」

 「やなこった。そして諦めな!先に言っとくが今のうちに
採られといた方がいいぜ。逃げると後で倍採られるぞ」

 「な、何を採る気⁉」
 
 「ククク、大人しくしときゃすぐ終わるッス!」




 普段通りの表情に戻ったアザゼルはエリスの血液を入れた
ビンをうっとりと眺める。

 「はー、落ち着いたッス。にしても、テオドールのなんて
ねぇ。おかげで捗りそうだ」

 「……血液のことだったのね。捗るのならよかったけど、
そうとう変わってるわ……」

 採血された部分を渡された止血草で軽く抑えながら今度は
エリスがアザゼルを睨む。
アザゼルは気にせずにビンを懐にしまうと口角を上げた。

 「そりゃオレは筋金入りのカワリモノッスからねぇ。
まぁオレ以外にも変わった趣味持ってるヤツなんてごまんといるけど」

 「前に言ってたちょくちょく会うことになるって
こういうことだったの?」

 「そうッス。趣味言わなきゃいけないのは覚悟してたんス
けど、まさか名前まで言うハメになるとは」

 「ごめんなさい……」

 「別にいいッスよ。終わったことなんで。ただし、名前
呼んだらその度に1本分もらうからな?」

 怪しい笑みを浮かべるアザゼルをエリスは怯えたような目で見る。
しかし、思い出したように声を出すとベルゼブブに向き直った。

 「あの、私なりに考えてそろそろあなたを常に喚んで
おこうと思ってるんだけど」

 少しの沈黙の後ベルゼブブは盛大に笑い出した。それに
驚いたエリスはビクリと体を震わせる。

 「ハハハハハハッ!よぉやくオレ様を出す気になったか!
遅ぇんだよ!」

 「でも変なことしたら受肉させない。それに大陸を移動するまでは待機ね」

 「は?まだオレ様に我慢しろってのか?」

 「喧嘩売りそうな気がするもの」

 眉を下げながらエリスはベルゼブブに手のひらを向けた。

 「クソッ!大陸移動したら覚えとけよ!」

 エリスが呪文を唱えると白いモヤがベルゼブブを包んで跡形もなく消えた。
 今までベルゼブブがいた場所を一瞬横目で見るとアザゼルはエリスに視線を向ける。

 「タイチョー相手になかなかやるッスね。てっきり振り
回されてるのかと」

 「強気でいかないとナメられそうで……」

 「いい心がけだと思うッスよ。
 さて、そろそろ行くか。じゃーな、エリス。また近いうちに会うことにはなるッスけど」

 アザゼルはエリスを見てほくそ笑むと空を蹴って去っていった。
エリスは困惑しながらその後ろ姿を見送る。 

 「一方的に決められた気がする……。考えが読めないけど
とりあえず名前は呼ばないようにしなきゃ」

 呟くとエリスはフードを被って歩き始めた。
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