10 / 41
第1部 逃避行編 第1章
第10録 戸惑いと疑い
しおりを挟む
一方、アレキサンドル城。都市の端にある丘に位置しており、さらに強固なバリアで全体を包んでいる。
2階の東側にある1室で騎士隊長を筆頭に
彼の後ろにいる数名の騎士が頭を下げていた。
「ジョルジュ様!この度は大変申し訳ございませんでした!」
「大変申し訳ございませんでした!」
彼らの目の前にはジョルジュと呼ばれた白いとんがり帽子をかぶった青年が立っていた。
パッカツでエリスに声をかけた
人物だ。
ジョルジュ・アレキサンドル。現国王ラング・アレキサンドルの長子で、
横暴な父とは正反対のとても穏やかな性格の持ち主である。
ジョルジュは少し困ったように唸ると口を開く。
「君達の失敗を責めるつもりはないよ。
まさか攫われるなんて考えもしなかったからね」
「も、もったいないお言葉でッ……」
「負傷者はいるかい?」
「数名おりますが、命に別状はないかと。
ただ……」
「ただ?」
ジョルジュは少し眉をよせて騎士隊長の言葉を待っている。
「報告した例の男の魔法をくらった魔法使いが、
目を覚まさない状態でありまして……」
「……彼か⁉様子を見てくるよ!報告ありがとう!」
「ジョルジュ様⁉」
騎士隊長の慌てた声を背中に受けながらジョルジュは部屋を飛び出していった。
1階最西端、救護室。城での訓練で負傷した者が来る場所で、20ほど配置されてあるベッドの1番端に
魔法使いの男が横たわっていた。特にうなされている様子もなく静かに呼吸を繰り返している。
ジョルジュは側にイスを持ってきて腰掛けた。
すると使用人が慌てた様子で駆けつける。
「ジョルジュ様⁉なぜこのようなところに⁉この者は我々が世話しますので、
お部屋にお戻りください!」
「彼のことが心配なんだ。目立った外傷は肩の傷ぐらいだけど、まだ意識が戻らないから」
「しかし、外傷もないためすぐに意識を――」
その時、魔法使いが小さなうめき声を出してゆっくりと目を開けた。ジョルジュがすかさず側に寄る。
「気がついたかい⁉」
「ジョルジュ様?俺は……どうしてここに居るのですか?」
「え?」
驚くジョルジュを見て男は困惑の表情を浮かべる。
「すみません。ジョルジュ様に何かを頼まれた事までは覚えているのですが、
次に気づいたらここで……」
「…………そう。もし何か思い出したら教えてくれるかい?
まずは治療に専念してほしい」
「は、はいッ!ありがとうございます!」
ジョルジュは頷いて立ち上がると使用人に声をかけた。
「調べないといけないことがあったのを思い出した。
さっきと発言が変わって申し訳ないけど、
後は頼んでいいかい?」
「もちろんです!お任せください!」
「うん、ありがとう」
廊下に出たジョルジュは険しい表情をして歩き始める。
「記憶を消す魔法……。改竄ならあるけど消去は初耳だ。
報告を受けた男、タダモノじゃなさそうだ。
でもこれで彼女がテオドールであることはほぼ確定した。
位の高くない家柄なら攫わないだろうからね」
ジョルジュは小さく呟くと立ち止まって天井を見た。
細かい装飾が施されていて気品を感じさせる。
「父上には上手く誤魔化しておこう。すぐに存在は
バレるだろうけど。
どうにか隙を見計らって、また彼女と話がしたいな。
私と気が合いそうだ」
白いトンガリ帽子を被り直すと、ジョルジュは自分を
奮い立たせるように大きく頷いて再び歩き始めた。
2階の東側にある1室で騎士隊長を筆頭に
彼の後ろにいる数名の騎士が頭を下げていた。
「ジョルジュ様!この度は大変申し訳ございませんでした!」
「大変申し訳ございませんでした!」
彼らの目の前にはジョルジュと呼ばれた白いとんがり帽子をかぶった青年が立っていた。
パッカツでエリスに声をかけた
人物だ。
ジョルジュ・アレキサンドル。現国王ラング・アレキサンドルの長子で、
横暴な父とは正反対のとても穏やかな性格の持ち主である。
ジョルジュは少し困ったように唸ると口を開く。
「君達の失敗を責めるつもりはないよ。
まさか攫われるなんて考えもしなかったからね」
「も、もったいないお言葉でッ……」
「負傷者はいるかい?」
「数名おりますが、命に別状はないかと。
ただ……」
「ただ?」
ジョルジュは少し眉をよせて騎士隊長の言葉を待っている。
「報告した例の男の魔法をくらった魔法使いが、
目を覚まさない状態でありまして……」
「……彼か⁉様子を見てくるよ!報告ありがとう!」
「ジョルジュ様⁉」
騎士隊長の慌てた声を背中に受けながらジョルジュは部屋を飛び出していった。
1階最西端、救護室。城での訓練で負傷した者が来る場所で、20ほど配置されてあるベッドの1番端に
魔法使いの男が横たわっていた。特にうなされている様子もなく静かに呼吸を繰り返している。
ジョルジュは側にイスを持ってきて腰掛けた。
すると使用人が慌てた様子で駆けつける。
「ジョルジュ様⁉なぜこのようなところに⁉この者は我々が世話しますので、
お部屋にお戻りください!」
「彼のことが心配なんだ。目立った外傷は肩の傷ぐらいだけど、まだ意識が戻らないから」
「しかし、外傷もないためすぐに意識を――」
その時、魔法使いが小さなうめき声を出してゆっくりと目を開けた。ジョルジュがすかさず側に寄る。
「気がついたかい⁉」
「ジョルジュ様?俺は……どうしてここに居るのですか?」
「え?」
驚くジョルジュを見て男は困惑の表情を浮かべる。
「すみません。ジョルジュ様に何かを頼まれた事までは覚えているのですが、
次に気づいたらここで……」
「…………そう。もし何か思い出したら教えてくれるかい?
まずは治療に専念してほしい」
「は、はいッ!ありがとうございます!」
ジョルジュは頷いて立ち上がると使用人に声をかけた。
「調べないといけないことがあったのを思い出した。
さっきと発言が変わって申し訳ないけど、
後は頼んでいいかい?」
「もちろんです!お任せください!」
「うん、ありがとう」
廊下に出たジョルジュは険しい表情をして歩き始める。
「記憶を消す魔法……。改竄ならあるけど消去は初耳だ。
報告を受けた男、タダモノじゃなさそうだ。
でもこれで彼女がテオドールであることはほぼ確定した。
位の高くない家柄なら攫わないだろうからね」
ジョルジュは小さく呟くと立ち止まって天井を見た。
細かい装飾が施されていて気品を感じさせる。
「父上には上手く誤魔化しておこう。すぐに存在は
バレるだろうけど。
どうにか隙を見計らって、また彼女と話がしたいな。
私と気が合いそうだ」
白いトンガリ帽子を被り直すと、ジョルジュは自分を
奮い立たせるように大きく頷いて再び歩き始めた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ
雑木林
ファンタジー
現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。
第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。
この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。
そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。
畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。
斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する
さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。
出来損ないと家族から追い出された。
唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。
これからはひとりで生きていかなくては。
そんな少女も実は、、、
1人の方が気楽に出来るしラッキー
これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

初めて入ったダンジョンに閉じ込められました。死にたくないので死ぬ気で修行したら常識外れの縮地とすべてを砕く正拳突きを覚えました
陽好
ファンタジー
ダンジョンの発生から50年、今ではダンジョンの難易度は9段階に設定されていて、最も難易度の低いダンジョンは「ノーマーク」と呼ばれ、簡単な試験に合格すれば誰でも入ることが出来るようになっていた。
東京に住む19才の男子学生『熾 火天(おき あぐに)』は大学の授業はそれほどなく、友人もほとんどおらず、趣味と呼べるような物もなく、自分の意思さえほとんどなかった。そんな青年は高校時代の友人からダンジョン探索に誘われ、遺跡探索許可を取得して探索に出ることになった。
青年の探索しに行ったダンジョンは「ノーマーク」の簡単なダンジョンだったが、それでもそこで採取できる鉱物や発掘物は仲介業者にそこそこの値段で買い取ってもらえた。
彼らが順調に探索を進めていると、ほとんどの生物が駆逐されたはずのその遺跡の奥から青年の2倍はあろうかという大きさの真っ白な動物が現れた。
彼を誘った高校時代の友人達は火天をおいて一目散に逃げてしまったが、彼は一足遅れてしまった。火天が扉にたどり着くと、ちょうど火天をおいていった奴らが扉を閉めるところだった。
無情にも扉は火天の目の前で閉じられてしまった。しかしこの時初めて、常に周りに流され、何も持っていなかった男が「生きたい!死にたくない!」と強く自身の意思を持ち、必死に生き延びようと戦いはじめる。白いバケモノから必死に逃げ、隠れては見つかり隠れては見つかるということをひたすら繰り返した。
火天は粘り強く隠れ続けることでなんとか白いバケモノを蒔くことに成功した。
そして火天はダンジョンの中で生き残るため、暇を潰すため、体を鍛え、精神を鍛えた。
瞬発力を鍛え、膂力を鍛え、何事にも動じないような精神力を鍛えた。気づくと火天は一歩で何メートルも進めるようになり、拳で岩を砕けるようになっていた。
力を手にした火天はそのまま外の世界へと飛び出し、いろいろと巻き込まれながら遺跡の謎を解明していく。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる