「第2章開始」エレ レジストル〜生き残り少女の冒険録〜

望月かれん

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第1部 逃避行編 第1章

第7録 ベルゼブブ

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 「6年前だ。オレ様はある人間から喚び出されて「契約」を提案された。
まぁ、お前の父親なんだけどな」

 「さっそく遮って申し訳ないけど、父はどうやってあなたを
喚び出したの?」

 エリスの言うことは最もで悪魔を喚び出す儀式は不明と
されており、偶然喚び出している事例がほとんどだ。
 話を遮られたフード男が少し口を曲げる。

 「…………。オレ様の喚び出し手順が書かれた紙を渡したんだよ。
悪魔は許可を貰えれば制限はかけられるものの、地上に出ていいことになってるからな。
それでお前の父親を見つけた。人間にしちゃ魔力が高かったから、
挑発してやったんだ」

 「え」

 エリスのフード男を見る目が警戒に変わった。

 「なに睨んでんだよ。下級悪魔ならともかく、
オレ様のような名のしれた悪魔をテキトーな儀式で喚べるはずねぇだろ。
手順があるんだよ手順が」

 「……あなたは誰なの?」

 想定外の質問だったようでフード男が目を見開く。
そして気まずそうにエリスから目をそらした。

 「言ってなかったか?」

 「言ってない。ただ、その自信の高さから上の階級だとは
思ってるけど」

 「………………。よしわかった、知らんでいい」

 「勝手に決めつけないで!」

 「お嬢さん達、今までお互いのこと知らずに
行動してたんスか?」

 険悪なムードになった2人を見てボサボサ男が呆れながら
言う。すかさずフード男が口を開いた。

 「仕方がねぇだろ!そもそもコイツがめったにオレ様を
喚び出さないんだからよ!喚び出されても骸状態だし!」

 「あなたがすぐケンカ売るからでしょう⁉
目立つ行動は控えてって言ってるじゃない!」

 「文句ならオレ様に声かけるヤツに言いやがれ!」

 「はい、どーどー。一旦落ち着いてほしいッス」

 短いため息をついてボサボサ男がエリス達の間に割って
入った。なだめられて2人の勢いが緩む。

 「とりあえずタイチョーは自分のこと言っといた方がいいんじゃないスか?」

 「別に言わなくてもいいだろ」

 「お嬢さんの名前知ってるんスよね?
なら、タイチョーも教えないと不公平ッスよ」

 「不公平なのは間違っちゃいねぇが……」

 フード男は深いため息をつくと、めんどくさそうに
口を開いた。

 「ベルゼブブだ。知らねぇとは言わせねぇぞ」

 ベルゼブブ。強力な魔力を持っている悪魔の名。
一部では魔王とも言われているようだが定かではない。
それでも魔法使いやヒーラーであるならば知らない者はいないほど有名だ。
 目の前のフード男がベルゼブブだとは信じられないのか、
エリスは小さく口を開けたまま固まった。ボサボサ男が彼女の
反応を見ようと顔の前で手を振る。

 「おーい、生きてますかー?」

 「生きてるし、知ってる……けど……」

 「先に言っとくがオレ様は「契約」はちゃんと守るぜ。
 ヒヒヒッ、しかし何があるかわかんねぇな?お前の父親は
言ってたんだよ。「困っても悪魔には頼らない」ってな。
だが、どういうわけかご丁寧にオレ様の紙をとってたし、
しまいには喚び出したんだからよぉ」

 エリスは何か言いたそうにベルゼブブを見ていたが、
ゆっくりと背筋を伸ばした。

 「話を戻すぞ。お前の父親の願いは「娘を最期まで見届けて
ほしい」。しかも事故や災難を除いて――つまり、それらに
合いそうになったら振り払えって事だ。
 オレ様は当然断ったんだがな。子守りじゃねえって。
だが、お前の父親は食い下がった。言うには近々死ぬ運命にあるそうじゃねぇか。
思わず惹かれて理由を聞いちまったよ」

 「ヘー、タイチョーが惹かれることなんてあるんッスね」

 ベルゼブブはボサボサ男を軽く睨みつけた。しかし諦めたようにため息をつくと再び口を開く。

 「「私とその家族は生まれつき魔力の高いテオドール家の者だ。私達以外もテオドールと名のつく者は居るが、その魔力を手中に収めようとする者に見つかり、ある者は捕まって魔力酷使で死亡、ある者は魔力を争いに使われるぐらいならと自害した。それが原因で残っている者も少ない」と。
 で、お前の母親が時々予知夢を見る事があったんだとよ。     
ある日自分達が襲撃され、お前だけ逃げ延びる夢を見てしまったってな」

 「そう……だったの……」

 「何があったのかまではオレ様も知らねぇけどな」

 「……オレ、状況が把握できてないんスけど」

 俯いているエリスを横目で見ながらボサボサ男が言った。

 「コイツは両親を国に殺されてんだよ。家系の魔力欲しさにな。
といってもアレキサンドルかエベロスのどちらかだろうが。
 ああ、ちなみに相応の代償なら払ってもらってるからな。
たが、受肉しないとスムーズに喋れねぇなんて仕打ちを受ける事になるとは。
よくオレ様相手にやりやがったぜ」

 「そんだけ警戒されてるって事ッスよ」

 ボサボサ男の言葉にベルゼブブは機嫌が悪そうに
顔をしかめる。
 
 「それはそうとお嬢さんはタイチョーのこと何て
聞いてたんスか?」

 エリスはゆっくり顔を上げるとポツリと話し出す。

 「「頼りにはなるけど絶対に信じちゃいけないよ。
悪魔だからね」って父から……」

 「ハァ⁉あのヤロォ、盛大な置き土産していきやがって!
 いいか、確かにオレ様は魔王だ。だが、結んだ「契約」は
ぜってぇ守る!」

 「ヨッ、タイチョー男前ッ」

 「喧嘩売ってんのかテメェ……」

 ベルゼブブの怒りの矛先がボサボサ男に向く。
睨まれた彼は困ったように眉を下げた。

 「思った事言っただけッスよ。
褒め言葉なんですから怒らないでほしいッス」

 「だとしても今言うな!タイミング考えろ!」

 「ヘーイ……」

 2人のやり取りを見てエリスはなんとも言えない表情で見つめた。しかし何かを思い出したように
短く声を上げると、ボサボサ男に質問を投げかける。

 「そういえばあなたは?誰かに召喚されてるの?
それとも出てきているだけ?」

 「後者ッス」

 「なら――」

 「オレは名乗るほどの悪魔でもないんでね。
知ろうとしてもムダッスよ」

 言葉を遮られたとはいえ、聞こうとしたことを
言い当てられたエリスは大人しく口を閉じる。

 「さて、オレ様の正体もわかったことだし、
改めてよろしくな?エリス・テオドール?」

 「ええ……」

 嫌味っぽく言うベルゼブブとは対照的にエリスは
眉をひそめた。
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