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第3章

直感は働き続ける

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 魔王討伐に成功してから三日三晩祭りが続いた。
今日はその最終日で、初日よりも賑わいは弱くなったがまだまだ活気に溢れている。
 俺はというと賑やかな広場とは真逆の閑静な路地裏にいた。
無造作に置かれた木箱の上に腰を落ち着けている。あの人だかりに入る勇気はない。

 (俺は魔族側だったからな)

 直接対峙していないにしても気が引けた。
 ふと、足音がして顔を上げると酒樽を持ったザルドがニンマリと笑っている。

 「よぉ、勇者様」

 「ザルド……。やめてくれよ、その呼び方」

 「実際にトドメ刺したのお前なんだろ?」

 「まぁ……」

 「なら、勇者様じゃねぇか」

 そう言って笑いながら俺の隣に腰を下ろした。
 魔王の指輪を持ってエリクさん達と共に帰還した俺は称賛されてしまったのだ。
そもそも「魔王城にただ1人残って敵の戦力を削っている冒険者」として崇められており、無事だったと喜ばれた。
誰も「裏切り者」だなんて思っていなかったらしい。
 そのため帰還して町でザルド達と再会してしまった俺はすかさず土下座し、戸惑う彼等に自分が助かりたいが為だけに魔王の配下になっていたことを話して謝罪した。皆はしばらくの間開いた口が塞がっていなかったが、1番に我に返ったフローからチクチクと嫌味と皮肉を言われた。
アリーシャとザルドは呆れながらも「やってしまったことは仕方がない」と許してくれたのだった。

 しかし、そうしてもらいながらも俺のモヤモヤは晴れていない。
パーティ解散も覚悟していたのに、1名を除いてこんなにあっさり許してもらえるものなのだろうか。
 会話が途切れてからそのことばかりを考えてしまい、もう1度謝ることにした。

 「ザルド……本当にごめん。謝って済むことじゃない――うぇ⁉」 

 途中で頭を押さえつけられて変な声が出る。
思わずザルドを見上げると少し目を細めて苦笑していた。

 「またその話かよ。もう過ぎたことなんだからいいって言っただろ?」

 「でも……」

 「お前がそんな行動に出たのはビックリしたけどな。でも、その結果魔王を討伐できたんだから帳消しだろ?」

 (帳消しになるのか?)

 俺はあまり納得していないが、ザルドがそう言ってくれるのなら帳消しになったと捉えておくことにする。
 ザルドが俺の頭から手を離した後、魔王城にいた時から引っかかっていたことを尋ねた。

 「1つ気になっていたんだけど、俺が戻らないことに関しては何も思わなかったのか?」

 そう尋ねるとザルドは思い出すように顎に手を当てて考え込む。

 「俺達も「教会送り」の場所がバラバラだったからさ、てっきり別の教会に居るのかと思ってたんだ」

 「「教会送り」がバラバラ⁉」

 ここにきて新事実が発覚した。そんなことがあるのだろうか。
俺の焦った声を聞いてもザルドは落ち着いている。

 「ああ。俺達も信じられなくて司祭に聞いたら、時々位置がバラバラの「教会送り」もあるそうでな。
お互いを探し回るの大変だったぜ」

 「そうなのか……」

 「でも――だけは本当に見つからないから、まだ城にいるんじゃないかって話になってな。ドリアスで乗り込む準備をしてたんだ。
   そうだ!ドリアスでデュークに襲撃されたんだが、あれはどういうことだ?
俺達が倒したはずだろ?――は何か知らないのか?」

 「……俺にもわからない。もしかしたら魔族にも「教会送り」のようなものがあるのかもしれないな」

 まだ名前の部分だけ聞こえないことにショックを受けながらも、はぐらかした。
「墓地送り」は有益な情報なのに言ってはいけない気がしたからだ。

 「そりゃあ厄介だな。でもボスの魔王を倒したんだから大丈夫だろ」

 「ああ……」

 複雑な気持ちで答える。どうしてここでも勘が働くのかわからない。
それにしても、「教会送り」になったことについては疑問を持たなかったのだろうか。
 少し待ってみてもザルドはニンマリと笑っているだけで眉をひそめたわけでもない。
質問も出てこなかったので、話題を変えることにした。

 「でもザルド達も大変だったんだよな?」

 「ああ。まさか魔族が襲撃してくるなんて思いもしなかったぜ。
もともと住んでる人に聞いてみたら、たまにあるんだとよ。
   まさか幹部が2人いるなんてな。てっきりデュークだけかと思ってたからよ。
まぁ、普通に考えれば大集団に幹部が1人だけっていうのもおかしいか……」

 (あと1人いるけどな)

 やっぱり幹部が複数いることはあまり知れ渡っていないようだ。
 ザルドの言葉を聞きながらへネラルさんの「逃げ惑う者等を始末していた」という言葉が蘇る。
1度に幹部が2人も来て冷静を保てる人は少ないだろう。

 「――?なんか気になるのか?」

 「あ、いや、魔族が言ってたなって思い出しただけだよ」
 
 「ほー、わざわざ教えてくれたのか?ソイツ意外と口軽いんだな」

 「ああ、俺もビックリした」

 確かに俺に教える必要はなかったとは思う。意図があったのだろうが、
今となってはへネラルさんしかわからない。 
 
 祭りが始まってから何度かこっそり町を抜け出して魔王城に行ったが、魔王はもちろんデュークさん達の姿もなかった。
魔王が倒れたことで一緒に消滅したのだろう。

 (魔王はもういない……)

 下僕やモトユウと呼ばれていたことが遠い過去のように思える。
 思い返していると顔に出ていたようでザルドが尋ねてきた。

 「そんなに居心地が良かったのか?魔族は?」

 「クセの強いヤツばかりだったけどな。悪くはなかったよ」

 「ハハハッ!もしまた魔王が誕生したら寝返るとか言うなよ?」

 「言わねぇよ……もうコリゴリだ」

 裏切り行為をしてしまったが、自分の強みや弱みが認識できた貴重な体験だったのは間違いないだろう。
 これからは俺だけが生き残っても、命乞いはしない。
                   
                       
                       第1部 完
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