[第2部開始]命乞いから始まる魔族配下生活

望月かれん

文字の大きさ
上 下
55 / 76
第2章

魔族の種類を知る

しおりを挟む
 魔王城から南東の岩場に向かっていた。地面にヒビが入っていたり岩石が転がっていたりして足場が悪いことと、
このような場所に来るのは初めてなこともあり慎重に進む。
 デュークさんはというと、足場を全く気にせずに遊び半分で片足で飛びながら進んだり、岩石を飛び越えたりしている。
とても楽しそうだ。お出かけ感覚なのかもしれない。 

 (慣れてる感じがするけど来たことあるのか?)

 そう考えながらモヤモヤしていることを尋ねてみる。

 「デュークさん、歩きながらでいいので質問が――」
 
 「な~に?」

 いきなり立ち止まったかと思うと、1回瞬きした時には俺の真正面に立っていた。

 (歩きながらでいいって言ったんだけど⁉そして近ぇ!)

 「さ、さっきの少年って危険なんですか?」

 いつも通り距離をとりながら言うと、デュークさんは真剣な顔つきになる。

 「残念ながらな。一見、真面目で礼儀正しいが上辺だけだ」

 「今日初めて会ったんですよね?なんで断定できるんですか?」

 「俺の眼が危険判定したから」

 デュークさんは自分の右目を指さした。特殊な目――魔眼か真眼でも持っているらしい。
 魔眼や真眼と呼ばれる眼はトラップを感知したり、相手の能力を見たりすることのできる便利なものだ。
生まれつき持っている人もいるらしいが極々稀で、魔法で一時的に能力を使用するのが一般的になっている。
ただし、負担が大きいため頻繁には使えないそうだ。

 「モトユウちゃん、魔族にも種類があるって聞いたことある?」

 「いえ……」

 (種類?姿じゃなくて?)

 首を傾げてみたもののデュークさんは表情を変えずに話を続ける。

 「そりゃそうか。ドーワ族とかエル族みたいに特徴があるわけじゃないし。魔族で一括りにされて終わりだよな」

 「は、はぁ……」

 「少数だが、魔族にも特殊なヤツらがいる。魔族のなんとか族みたいな感じでな」

 (なんとか族って……他に言い方なかったのか?)

 でもいきなり言われても頭の中に疑問符がいくつも浮かぶだけなので、
なんとか族でよかったのかもしれない。

 「じゃあ少年は……」

 「そう。特殊なヤツだ。
 暴食族グーラ。敵味方関係なく食って強くなる困り者でな、
俺達も手を焼いてる」

 (手を焼く?)
 
 「外見じゃわからないから。かと言ってアイツラも賢いから人気のない
場所に誘い込んで捕食する。暴食族グーラに食われると「墓地送り」が効かねぇんだ。それでかなり犠牲が出ていてな。
 僅かな対策ではあるが、幹部のみマーさんから魔眼を与えてもらってんの。
だが、魔眼のグレードは低くてな。集団だといるのはわかるんだが特定しづらい」

 つまり、内輪揉めの状態。人間との戦いだけでなく内部にも目を向けておかないといけないのなら、
侵略する余裕がないのも頷ける。
 
 「暴食族グーラは魔王に殺されるまでやりたい放題ってことですか?」

 「いや、アイツラは「墓地送り」が適用されないからブッタ斬れば死ぬ。
マーさんと俺らで潰して回ってるワケ。でもほとんどは隠れ住んでるからな。
訓練に出てきたときは俺もビックリした」

 「デュークさん達が魔眼を持ってることは知ってるんですよね?」

 「さあな。訓練にノコノコ出てくるぐらいだから知らないのかもな。
出てきた理由はモトユウちゃんの噂を聞いたからだろう」

 唾をのみこむ。この話題になってから語尾が1度も伸びていない。かなり真剣な話だ。
そして今までの話をきくに、少年が指導を頼んだ目的は――

 「俺を食うため……」

 「ああ。モトユウちゃんの心配通り、何もしなければ食われるぜ」

 「明日約束しちゃったんですけど……」

 「さすがに初日から食わないとは思いたいが、
こればっかりは俺もわからないな」

 「デュークさんにずっと見ててもらうってのは駄目ですか?」

 そう言うとデュークさんは珍しく眉を下げると少し唸ってから口を開く。

 「俺は大丈夫だが、相手がどう出るか。ずっと見張られっ放しじゃイライラが溜まるだろうな。
 いっそのこと明日潰すか?そしたらもう何も心配しなくていいぜ」

 「で、でもそんないきなり――」

 途中で首に手を当てられた。気絶させるつもりではないようだが、力を入れて皮膚にくい込ませてくる。 

 「ホント面白いな、モトユウちゃん。アイツに食われてもいいワケ?」

 「た、食べられたくないです!」

 「なら、とっととケリつけようぜ。明日、頃合いを見て潰すぞ」

 (目がマジだ)

 困り者なのだから消しておくのは当然なのだろうが、気圧されて何度も頷くことしかできなかった。
デュークさんは俺の首から手を離すといつもの無邪気な笑顔を見せる。

 「よぉ~し、じゃあゴーレム探しますかー」

 「あのー、ついでに聞いときたいんですけど」

 「ン?」

 「オネットやフォルスさんも特殊ですよね?」

 「ああ」
 
 てっきり、はぐらかされるか脅されるかと思っていたのに
デュークさんはあっさりと肯定した。

 「もちろん暴食族じゃないぜ。気になるんなら本人に聞きな。
どちらかが答えると思うからさ」

 デュークさんは小さく息をつくと、右手を水平にして額に当てて遠くを見るような仕草をとる。

 「それにしてもモンスター出てこないなー?」

 「確かにそうですね……」

 話し始めてから少しは時間が過ぎているのに、どこの岩場にも生息しているロックスパイダーすら見ていない。
と、いうより岩場に来てからモンスターに遭遇していなかった。
目的のプラティヌゴーレムは擬態しているらしいので動き回っていないだろうが、
この岩場に1種類だけしか生息しているわけではないと思う。
 不思議に思いながら進んでいると、前方にてっぺんが尖った岩があり、所々に白い岩が混ざっている。
鉱石とは違うようだ。周りを見ると同じものが10個以上はある。
 
 (少し悪寒がする。もしかしてこれがゴーレム?)

 「デュークさん、この岩変じゃないですか?」

 「お、やっぱりー?モトユウちゃんもそう思う?」 

 「はい」

 俺の答えを聞くとデュークさんは隣に立って岩をマジマジと見つめる。
違和感があるのは同じようだ。

 「じゃあ、叩くッ!」

 デュークさんは1度大きく後ろに下がるとダッシュして岩にキックした。
しかし岩は壊れずにデュークさんを跳ね返す。
素早く受け身をとったデュークさんは俺の襟首を掴んで再び後ろに下がった。

 「ぐぇッ⁉」

 「離れるぞ、モトユウちゃん!」

 移動している間にも地面はグラグラと大きく揺れていて、体勢を立て直した時には
教会ほどあるプラティヌゴーレムが俺達を見下ろしていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

アレク・プランタン

かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった と‥‥転生となった 剣と魔法が織りなす世界へ チートも特典も何もないまま ただ前世の記憶だけを頼りに 俺は精一杯やってみる 毎日更新中!

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界転移~治癒師の日常

コリモ
ファンタジー
ある日看護師の真琴は仕事場からの帰り道、地面が陥没する事故に巻き込まれた。しかし、いつまでたっても衝撃が来ない。それどころか自分の下に草の感触が… こちらでは初投稿です。誤字脱字のご指摘ご感想お願いします なるだけ1日1話UP以上を目指していますが、用事がある時は間に合わないこともありますご了承ください(2017/12/18) すいません少し並びを変えております。(2017/12/25) カリエの過去編を削除して別なお話にしました(2018/01/15) エドとの話は「気が付いたら異世界領主〜ドラゴンが降り立つ平原を管理なんてムリだよ」にて掲載させてもらっています。(2018/08/19)

処理中です...