49 / 72
第2章
テナシテを頼る
しおりを挟む
「プラティヌゴーレムの情報ですか……」
「はい。何でもいいので!」
経緯を話して迫るようにように言うとテナシテさんは苦笑した。
「心配なさらなくても大丈夫ですよ。数える程ですが見たことも
ありますし」
「そうなんですか⁉」
「はい」
(魔王に連れ出してもらったときに見たのか……)
興奮気味の俺とは対照的に冷静に話すテナシテさん。
心を読めるというのにほとんど動じないのはスゴいと思う。
「ちなみにモトユウさんはゴーレム種と戦ったことは?」
「カッパーとシルバーならあります」
「そうでしたか。なら、ご存知でしょうけれど、物理は通りにくいですよ」
(あ、やっぱり?)
僅かな望みをかけていたが、現実を突き付けられてガックリと肩を落とす。
するとテナシテさんがわざとらしい笑みを浮かべた。
「ですがモトユウさん、あなたには秘薬があるでしょう?」
「へ?確かにありますけど……」
まさか薬が出てくるとは思わなかったので瞬きを繰り返す。
以前、エンシェントオーク討伐のときにテナシテさんが俺用に作ってくれた物だ。一時的にパワーアップできるが、
飲み過ぎると副作用がキツく、最悪1日寝たきりになってしまう。
「薬飲んだら俺だけでも倒せるんですか?」
「倒せるかどうかはわかりませんが、鉱石なら採れるのではない
でしょうか」
(確かに討伐が目的じゃないし、1人でできるのならそれに越したことは
ないな。あ、でも……)
城の外に行くときはデュークさんについてきてもらわないといけないの
だった。俺の監視という名目らしいが、たぶんそれだけではないと思う。
「何か不安な点でも?」
「えっとですね、城の外に行くときはデュークさんと一緒じゃないと
いけなくて」
「おや、そうでしたか。フフ、心配性ですねぇ」
「え?」
(魔王が?それともデュークさんが?)
「お2人ともですよ」
そのまま言葉が続くかと思っていたのにテナシテさんは口を閉じた。
ときどき、こういうことをしてくるので勝手に期待を裏切られて気分が
下がる。
「デュークさんなら喜んでついてきてくれると思いますよ、
申し訳ないという気持ちが勝つのであれば、他の方に頼んでみては
いかがですか?」
「少し考えます」
(さすがに他団長のアパリシアさんやへネラルさんは忙しいよな。
かといって副団長たちも暇とはいえないだろうし。
部下のモンスター借りてもいいんだろうけど)
モンスターに「墓地送り」は適用されない。もし俺のミスで死なせてしまったら謝るだけじゃすまないだろう。
そのことを考えると魔族1択だ。
(やっぱりデュークさんに頼むことになりそうだな……)
「そうですか。
プラティヌゴーレムの話に戻しましょう。生息地はここより南東の岩場
です。岩に擬態していますので、1つ1つ叩いていかないといけませんよ」
「擬態⁉」
(マジで⁉シルバーとか普通に動き回ってたのに?)
「今回のモトユウさんのように鉱石目当てで狩られてしまうことがほとんどですので、擬態を身につけたみたいですよ」
鉱石が採れるゴーレム種や木材が採れるツリーズ種は資源確保を目的とした冒険者や用心棒をつけた商人に狩られていた。
もちろん、自生している素材もあるのだがモンスターから採れる物の方が
質がよく、店で高値で取り引きされているらしい。
いくらモンスターたちも勝手に増えていくとはいえ狩られるスピードが早く、
繁殖が追いついていないという話も聞いたことがあった。
「すみません……」
「モトユウさんは依頼でしょう?それに討伐ではありませんから、罪悪感を
覚えなくても大丈夫ですよ。
薬は以前お渡しした分が残ってますよね?」
「はい。それに採りに行くのは今日じゃないので、また足りなくなったら
来ますね」
「わかりました。念のため用意しておきます」
帰ろうと思って立ち上がったが、今まで時々疑問に浮かぶことをテナシテさんに聞いてみることにする。
「テナシテさん、答えづらかったら言わなくて大丈夫なので、
1つ聞いてもらえませんか?」
「はい?」
「その、魔王さんって優しいですよね。もともとからですか?」
そう尋ねるとテナシテさんは眉をしかめて黙り込んでしまった。聞こうかどうか迷っていたのだが、
テナシテさんならデュークさん以上に知っている可能性が高い。
それに「目も当てられないような仕事をさせる」とか言いながら音沙汰がないのも引っかかる。
「そうですね、歴代に比べるとお優しいです」
「歴代⁉」
「何を仰ってるのですか。ニンゲンにも統治者がいて代替わりするのでしょう?
それと同じですよ」
「そ、そうですけど……」
(魔族って長生きで頑丈だし簡単に死なないし。
それに「墓地送り」が――あ‼)
そこまで考えて、魔王に殺されると「墓地送り」が効かないとデュークさんが言っていたのを思い出した。
しかしそれでも疑問は増えていく。
(魔王の入れ替わりって俺たちに倒された時ぐらいじゃないのか?
魔王じゃなきゃ魔族は殺せないんだろ?)
あれこれ考えているとテナシテさんが笑った。
「ずいぶん真剣に考えてますね、モトユウさん。
魔王様に直接聞かれたらいかがですか?」
「でもこんな思いきったこと――」
「今、ここにいらっしゃいますから」
「え゛⁉」
予想外の言葉に開いた口が塞がらない。
固まったままでいると部屋の隅に魔王が姿を現した。
「はい。何でもいいので!」
経緯を話して迫るようにように言うとテナシテさんは苦笑した。
「心配なさらなくても大丈夫ですよ。数える程ですが見たことも
ありますし」
「そうなんですか⁉」
「はい」
(魔王に連れ出してもらったときに見たのか……)
興奮気味の俺とは対照的に冷静に話すテナシテさん。
心を読めるというのにほとんど動じないのはスゴいと思う。
「ちなみにモトユウさんはゴーレム種と戦ったことは?」
「カッパーとシルバーならあります」
「そうでしたか。なら、ご存知でしょうけれど、物理は通りにくいですよ」
(あ、やっぱり?)
僅かな望みをかけていたが、現実を突き付けられてガックリと肩を落とす。
するとテナシテさんがわざとらしい笑みを浮かべた。
「ですがモトユウさん、あなたには秘薬があるでしょう?」
「へ?確かにありますけど……」
まさか薬が出てくるとは思わなかったので瞬きを繰り返す。
以前、エンシェントオーク討伐のときにテナシテさんが俺用に作ってくれた物だ。一時的にパワーアップできるが、
飲み過ぎると副作用がキツく、最悪1日寝たきりになってしまう。
「薬飲んだら俺だけでも倒せるんですか?」
「倒せるかどうかはわかりませんが、鉱石なら採れるのではない
でしょうか」
(確かに討伐が目的じゃないし、1人でできるのならそれに越したことは
ないな。あ、でも……)
城の外に行くときはデュークさんについてきてもらわないといけないの
だった。俺の監視という名目らしいが、たぶんそれだけではないと思う。
「何か不安な点でも?」
「えっとですね、城の外に行くときはデュークさんと一緒じゃないと
いけなくて」
「おや、そうでしたか。フフ、心配性ですねぇ」
「え?」
(魔王が?それともデュークさんが?)
「お2人ともですよ」
そのまま言葉が続くかと思っていたのにテナシテさんは口を閉じた。
ときどき、こういうことをしてくるので勝手に期待を裏切られて気分が
下がる。
「デュークさんなら喜んでついてきてくれると思いますよ、
申し訳ないという気持ちが勝つのであれば、他の方に頼んでみては
いかがですか?」
「少し考えます」
(さすがに他団長のアパリシアさんやへネラルさんは忙しいよな。
かといって副団長たちも暇とはいえないだろうし。
部下のモンスター借りてもいいんだろうけど)
モンスターに「墓地送り」は適用されない。もし俺のミスで死なせてしまったら謝るだけじゃすまないだろう。
そのことを考えると魔族1択だ。
(やっぱりデュークさんに頼むことになりそうだな……)
「そうですか。
プラティヌゴーレムの話に戻しましょう。生息地はここより南東の岩場
です。岩に擬態していますので、1つ1つ叩いていかないといけませんよ」
「擬態⁉」
(マジで⁉シルバーとか普通に動き回ってたのに?)
「今回のモトユウさんのように鉱石目当てで狩られてしまうことがほとんどですので、擬態を身につけたみたいですよ」
鉱石が採れるゴーレム種や木材が採れるツリーズ種は資源確保を目的とした冒険者や用心棒をつけた商人に狩られていた。
もちろん、自生している素材もあるのだがモンスターから採れる物の方が
質がよく、店で高値で取り引きされているらしい。
いくらモンスターたちも勝手に増えていくとはいえ狩られるスピードが早く、
繁殖が追いついていないという話も聞いたことがあった。
「すみません……」
「モトユウさんは依頼でしょう?それに討伐ではありませんから、罪悪感を
覚えなくても大丈夫ですよ。
薬は以前お渡しした分が残ってますよね?」
「はい。それに採りに行くのは今日じゃないので、また足りなくなったら
来ますね」
「わかりました。念のため用意しておきます」
帰ろうと思って立ち上がったが、今まで時々疑問に浮かぶことをテナシテさんに聞いてみることにする。
「テナシテさん、答えづらかったら言わなくて大丈夫なので、
1つ聞いてもらえませんか?」
「はい?」
「その、魔王さんって優しいですよね。もともとからですか?」
そう尋ねるとテナシテさんは眉をしかめて黙り込んでしまった。聞こうかどうか迷っていたのだが、
テナシテさんならデュークさん以上に知っている可能性が高い。
それに「目も当てられないような仕事をさせる」とか言いながら音沙汰がないのも引っかかる。
「そうですね、歴代に比べるとお優しいです」
「歴代⁉」
「何を仰ってるのですか。ニンゲンにも統治者がいて代替わりするのでしょう?
それと同じですよ」
「そ、そうですけど……」
(魔族って長生きで頑丈だし簡単に死なないし。
それに「墓地送り」が――あ‼)
そこまで考えて、魔王に殺されると「墓地送り」が効かないとデュークさんが言っていたのを思い出した。
しかしそれでも疑問は増えていく。
(魔王の入れ替わりって俺たちに倒された時ぐらいじゃないのか?
魔王じゃなきゃ魔族は殺せないんだろ?)
あれこれ考えているとテナシテさんが笑った。
「ずいぶん真剣に考えてますね、モトユウさん。
魔王様に直接聞かれたらいかがですか?」
「でもこんな思いきったこと――」
「今、ここにいらっしゃいますから」
「え゛⁉」
予想外の言葉に開いた口が塞がらない。
固まったままでいると部屋の隅に魔王が姿を現した。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる