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第2章

ベッド作りにチャレンジする①

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 俺は迷幽の森に連れてこられていた。材料集めなのは間違いないようだ。

 (話にケリ着いたら行こうって言われてたしな。
でも念のため確認しておくか)

 「今から材料集めるんですよね?」

 「おう。でもその前にマーさんとの話の結果を伝えない
となー」

 「お、お願いします。それにしてもずいぶん話が終わるの
早くなかったですか?」

 「早かった。「勇者パーティは速攻潰せ」としかマーさんが言わなかったからさー」

 (それだけ⁉短ッ⁉)

 デュークさんがどこか不満そうに答える。魔王から勇者たちを潰していいと言われたのだから、
もっと喜ぶのかと思っていたが、どうやら期待していた答えとは違ったようだ。

 「「教会送り」にできるの嬉しくないんですか?」

 「そりゃ嬉しいんだけどよー、モトユウちゃんの監視強化の方がよかったー」

 「な、なんでですか?」

 「モトユウちゃんにくっついてられるもん」  

 (やっぱエスカレートしてきてる⁉どうしたらいいんだ、
これ⁉
 というかデュークさん幹部だよな⁉)

 部隊メンバーの管理とか大丈夫なのだろうか。
前に俺ばかりに構ってられないと言っていた気がするし確認してみる。

 「いや、でも部隊の管理とかありますよね⁉」

 「俺んトコ基本自由だからー」

 笑顔で言うデュークさんを見ていると深く尋ねる気も
なくなった。

 「あ、そうそう、モトユウちゃん、
マーさんから呼ばれてるぜ~?」

 「それ早く言ってくださいよ⁉」

 思わず詰め寄るとデュークさんが軽快に笑う。

 「ヒハハハッ、そう怒るなよ。モトユウちゃんが呼ばれたのは明日だから大丈夫だって~」

 「でも明日は……」

 「そ。だから用事が終わってから。マーさんも日中いない
から、ちょうどいいって言ってたぜ~」

 (そうなのか?なら焦らなくても大丈夫だな)

 魔王が普段何をしているのかはわからないが、
日中でないのなら遅れてボコられることもなさそうだ。

 「わかりました」

 「おう。じゃ、始めますか~」

 適当な硬さの樹を1本切り倒して、樹皮を削り取る。
思っていたより硬く、なにしろ斧ではなく剣なので途中で
止まったり削る深さがバラバラで表面がガタガタになったり
してしまう。
 
 (難しい。職人はこれを簡単にやってるのか)

 感心していると、手頃な樹がないか探しに行っていた
デュークさんの声がとんでくる。

 「モトユウちゃ~ん!全力ダッシュ!」

 「へ?どうしたん――」

 答えはすぐにわかった。なんとデュークさんが大量の
フォレストワスプに追われていたのだ。切り倒した樹に運悪く巣があったらしい。

 (確かに全力ダッシュだ!)

 慌てて木材を担いで走り出す。とても走りづらいが、そんなことを言っている場合ではない。
 デュークさんはスピードを上げて俺を追い抜くと振り向いて話し出した。

 「どうにかして撒くぜ~。ついてきな!」

 「わ、わかりました!こいつらって毒あります?」

 「ない!って、テナシテちゃんが言ってた~」
 
 (テナシテさん情報かよ⁉でも信用できる!)

 毒がないのなら応戦してもよさそうだが、デュークさんに
その選択肢はないようだ。真っ先に斬りかかっていきそうなので意外に思う。
 森の中を走り回って、俺のスタミナがきれる前にどうにか
フォレストワスプから逃げることができた。俺は浅い短い呼吸を繰り返しているのに、
デュークさんは息すら上がっていない。相変わらず驚異的なスタミナ量だ。

 「あ、危なかった、ですね……」

 「ヒハハハッ!俺はスリルあって楽しかったけどな~。
さて、下準備は終わったが、この後どうするかね。
俺はブッタ斬るのは得意なんだけど、それだけだからなー」

 (ですよね) 

 なんとなく予想はできていた。
しかし俺もモノ作りは初心者だ。

 「じゃあ、あとは自分でやります。ここまで手伝って
もらいましたし」

 「ふ~ん、それはいいんだけどよ、組み立て方とか
わかんの?」

 「形を思い浮かべながらどうにか……」

 モノ作りの知識は少ししかない。それでも時間をかければ
ベッドっぽい物は作れるのではないかと思う。

 (あ、そういえば!)

 聞かなければならないことがあるのを思い出した。
壊滅させた町、ドリアスでザルドたちと戦ったかどうかだ。
絶対にというわけではないが、今聞かないと忘れそうな気が
する。

 「あ、あのー、別件で聞きたいことがあるんですけど」

 「な~に~?」

 「ドリアスで俺の仲間に会いませんでした?」

 そう尋ねた瞬間、デュークさんから笑顔が消えた。
そしてグッと俺との距離を詰める。

 「やっぱヘネちゃんから聞いたか。
 モトユウちゃんのお仲間、会ったぜ。俺見てビックリしてたし。それにモトユウちゃんはどうしたのかってのも聞かれた。
まぁ、何も答えずにブッタ斬ったけど」

 「…………」

 「墓地送り」を知っているのは俺だけだ。倒したはずの
デュークさんが現れたらビックリするだろう。
 それよりも俺の動向を聞いていたことに複雑な気持ちを抱く。

 (俺のことを心配してくれているのか?逃げたのに?
裏切ったのに?)

 自分たちだけが「教会送り」になったことに疑問はなかったのだろうか。
いや、それを確かめるために俺のことを聞いたのかもしれない。
 考えを巡らせているとデュークさんが俺の状態を伺うように強めに頭の上に手を置いてから話を続ける。

 (イテ⁉)

 「でもそれ聞いてどーすんの?俺に斬りかかるか?」

 「い、いえ。ただ仲間がちゃんと「教会送り」になってるかどうか知ってきたかっただけです」

 「へー。オモシロイな、モトユウちゃん~。
大丈夫大丈夫、ちゃんと「教会送り」になってる」

 そう言うとデュークさんは俺の頭から手を離した。
だが俺には1つ引っかかることがある。

 (語尾が伸びてる?もう機嫌がなおったのか?)

 機嫌が悪くなると体感5分ぐらいは悪いままだが、今回は
1分も経っていないと思う。
 小さく首をひねっているとデュークさんが変わらない様子で口を開く。

 「俺から1個提案な。
実はさ、城にドーワ族がいるんだぜ~」

 「ドーワ族⁉」

 (俺と同じように寝返った?)

 ドーワ族はとても器用な種族で、モノ作りを得意としている。彼等しかいない集落が世界のどこかにあり、そこから町に出てきているのだという。
しかしガンコモノが多く、依頼しても門前払いにされることがほとんどだと前に町で聞いたことがある。

 「そ。会ったことないし、なんでこっちにいるのかは知らないけど。
うまいこと交渉したら作ってくれるかもな~」

 「頑張ってみます」

 俺の返事を聞くとデュークさんは樹を探しに行ってしまった。数は多くなくても大丈夫だが、
さすがに1本分では足りない。
 それからは特にトラブルもなく、樹3本分の木材の下準備を終えた。 

 「おし、城まで材料運ぶぜー。モトユウちゃんは後ろから
ついてきなよー」

 「は、はい」

 (親切なのはいつものことなんだけど、何か怖ぇ)

 しかしデュークさんの表情から怒りなどの悪い感情は読み
取れない。聞く勇気もないため大人しく従う。
 あっという間に城にたどり着いた。裏に行ってデュークさんは木材を雑に置くと振り返る。

 「後は何とかしなよ~?
じゃ、また明日な~。モトユウちゃん」

 「はい……わっ⁉」
 
 デュークさんは当たり前のように俺の髪をグシャグシャと掻き乱して、満足そうに笑ってから去っていった。  
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