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第2章

アパリシアの部隊を見学する

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 デュークさんと別れた俺は唸りながら城内を歩いていた。

 「そういえばアパリシアさんの居場所もわからないな。
さっき聞いておけばよかった……」

 彼女の居場所に関しては城の外でサンドバッグにされたことしかないため、
今度こそ歩き回るハメになりそうだ。

 (最初は確か城内で会ったんだよな。魔王から休み
もらった日に……)

 立ち止まって思い返してみる。いきなり声をかけられた挙げ句、強制的に連れ出されて
「サンドバッグになれ!」だったのだから、今思っても明らかに一方的だった。

 「とりあえず歩き回るか。運が良ければ――」

 「おっ、下僕モドキじゃないか!」

 歩き出そうとしたところで背後から聞き覚えのある声が飛んでくる。
勢いよく振り返るとアパリシアさんが立っていた。

 (タイミングバッチリで逆に怖ぇ……。運気が上がる魔法
でもかけられてるのか?)

 何がどうなっているかはわからないが、アパリシアさんに会えた。
俺を見る目はイキイキとしていてサンドバッグにする気マンマンだ。
 
 「いつの間に剣持つようになったんだ?まぁいいや、サンドバッグに――」

 「サンドバッグの前に話があるんです!」

 「アタシにか?」

 俺の言葉を聞くとアパリシアさんは不思議そうに眉を下げる。

 「はい。魔王さんから何か聞いてますよね?」

 「…………何だったっけ?」

 「部隊見学の話です!」

 「んー、言ってたような気がする」

 (とか言いつつ覚えてるんだろ、どうせ)

 以前、俺を「教会送り」にしないように言われているのを
うろ覚えと言っていたが、その後の「サンドバッグ」で部下の魔法から俺を守ってくれたのだ。
それを考えるとたぶん今回も覚えているだろう。 

 「アタシの部隊見学はいいけど、お前魔法使えんのか?」

 「全くダメです」

 即答するとアパリシアさんはますます眉を下げた。

 「見学する意味なくない?」

 「俺もそうだとは思うんですけど、魔王さんから言われてるんで……」

 「ナシでいいだろ。今からいきなり魔法使えるように
なったとかなら話は別だけど」

 (うーん……でも)

 返答に困って何気なく周りを見ると、視界の隅に木の枝に
例の尾の長い赤い鳥が止まっているのが映った。あれは魔王が化けているものだ。

 (監視されてる⁉やっぱり運よく会えたのは魔王の仕業なのか?
いや、それよりこれは何が何でも見学させてもらわないとマズい!)

 さっそく行動に移す。魔王が何をすれば怒るのかイマイチわかっていないが、
今アパリシアさんに断られれば後々大変なことになりそうだ。

 「い、いろいろ思うことはありますけど、ナシになったら
魔王さんから何言われるかわかりませんよ?」

 「ん?そうか?」

 「たぶんですけど!」

 「わかった……。引っかかるけど見学させてやるよ」

 俺の必死な姿を見てシブシブだったがアパリシアさんは
了承してくれた。

 「ありがとうございます!」

 「あ、部隊ってもアタシのところは基本自由なんだ。大事な話がある時は集めるけどな。
お前が想像してるのと違うと思うぞ」

 「デュークさんのところと似たような感じなんですね」

 「げ⁉デュークのところ行ってきたのか⁉」

 アパリシアさんが明らかに嫌そうな顔で俺を見る。正しくはデュークさんというかワードを聞いたからだろうが、
なんだか俺が嫌悪感を抱かれているようで複雑な気持ちになった。

 「はい」

 「あ……そうっ。いや、別に何でもないからな!嫌いとかじゃないし!
ちょっと苦手なだけだし!」

 (うん、それはわかってるんだけどな。
前に自分で言ってたし)

 アパリシアさんいわくデュークさんは「何を考えているかわからない」そうだ。
でも当人は「全部本心」と言っていたし、俺自身も数え切れないぐらい話はしたが嘘はついてなかったと思う。
 無言で見ているとアパリシアさんは慌てて咳払いをして口を開く。

 「アタシの杖貸してやるから、お前魔法使ってみろ!」

 「え゛⁉今からですか⁉」

 「そうだ!実は魔法使えましたとかだったらいろいろ変わってくる」

 「は、はあ……」

 (ムリだろ!俺使えないって言ったよな⁉
それに何がどう変わるんだ?)

 頭の整理が追いつかないまま杖を受け取る。思っていたよりも重く、少し前によろけた。
先端に埋め込められている鉱物のような物は赤く透き通っていて、少しブキミに思う。

 (持ってわかったけど素材が木じゃない。もっと頑丈な何か。石?)

 「あ、大丈夫だとは思うけど誰もいないとこでやれよ?」

 「もちろんです‼」

 とはいっても周囲は石壁や雑草。人影も俺とアパリシアさん以外誰もいないみたいだ。

 (魔法っつてもな……。普段みんながどうやって放ってるのかもわからないし。
ファイアボール?でいいのか?)

 「よし……ファイアボール!」

 杖を構えて呪文を唱えた。しかし、杖はうんともすんともいわず俺の声が響いただけ。
するとアパリシアさんが盛大に笑い出した。

 「アハハハハハッ!うん、わかっちゃいたけどダメだな!」

 「だったらさせないでくださいよ。虚しくなりました……」

 (そしてこの場からいなくなりたい)

 落ち込んだまま杖を返して俯く。とにかく目を合わせたくなかった。
ワザとではないとわかってはいても傷つくものは傷つく。

 「おしっ、じゃあ行くぞ!まぁ、いっつもバラバラだから
アタシの次に強いヤツのところ連れてってやるよ」

 (副団長か。デュークさんが変わってるって言ってたけど、やっぱり性格に難アリか?)

 フォルスさんがあんな感じだったので、似ているのかもしれない。
 服を引っ張られながら連れてこられたのは敷地内にある訓練場のような場所。その中央に魔族がいた。
黄色い肌に紫がかった背中まである髪、腰に短い杖を携えており、
そして黒い模様。やっぱり初めて見る。

 「おーい」

 アパリシアさんが声をかけると魔族が素早く振り返った。
目がキラキラと輝いていたが俺を捉えると一瞬で鋭くなる。

 「ねえさ――ニンゲン⁉敵か⁉」

 「敵ならアタシが燃やしてるよ。
紹介しよう、下僕モドキだ!」

 「下僕……モドキ……?」

 魔族は不思議そうに首を傾げたがそれも一瞬で、眉をつり上げながら俺の目の前に立って指さしてきた。
明らかに殺気立っている。

 「貴様!どうやって姉さんに取り入った⁉
弱みでも握ったのか⁉」

 「な、成り行きです……」

 「嘘をつくな!」

 (話通じないタイプだこの魔族ひと!
それに姉さんって……勝手に呼んでるだけだよな?) 

 魔族に家族や兄弟など、血の繋がりがあるなんて聞いたことがない。
俺が知らなかっただけと言われればそれまでだが、この2人はそういう関係ではないと思う。
 魔族の様子を見て、珍しくアパリシアさんがため息を
ついた。それと同時に魔族の殺気が弱まる。

 「それ以上ねえさんに近づいてみろ、ルーの雷撃が
とぶからな!」

 「はい……」

 (ルー?って名前か?)

 いい印象を持たれていないのはわかったが念のため
サンドバッグ関連を伝えておくことにする。

 「自慢じゃないですけど俺、逃げ足は早いので魔法を放つ練習台にでも
使ってもらえれば――」

 「断る!貴様を練習台にするぐらいなら、ヘルメイジを相手にしてた方が
100倍いい!」

 キッパリと言われて少しショックを受けた。俺がニンゲンだから嫌悪感を抱いているのは仕方がないとして、
少しぐらい考えてもいいのではないか。
 モヤモヤしているとアパリシアさんが声をかける。

 「おーい、マルール。警戒する気持ちもわかるけど
あんまりキツい言葉浴びせないでやってくれ。
落ち込んでサンドバッグにできなくなる」

 「はいっ、すみませんでした、ねえさんっ!」

 (なんだコイツ⁉変わり身が早ぇ!)

 マルールと呼ばれた魔族はアパリシアさんに満面の笑みを浮かべている。
態度が俺とは雲泥の差だ。

 「あと何回も言ってるけど絶対に「教会送り」に
するなよー」

 「もちろんですっ!必ず守りますっ!
でも傷つけるぐらいはいいですよね?」

 「フロで治る程度ならな。あんまりやりすぎると
魔王が何するかわからないぞ。コイツのこと気に入っているから」

 魔王という言葉を聞いた瞬間、マルールさんから笑顔が消えた。
体も震えているように見える。

 「わ、わかりました……」

 「ってそんなに怯えるなよ。それにアタシもコイツを
「教会送り」にしかけたことあったんだ。でも今のところなんともないぞ」

 (自覚あったのかよ)

 呆れ顔でアパリシアを見ているにもかかわらず、マルールさんは表情を変えない。
さっきの勢いだったら「なんだその顔は!」とか言われて攻撃されていただろう。
よほど魔王のワードが効いているようだ。

 「よし、帰っていいぞ下僕モドキ!」

 「もう終わりですか⁉」

 「ああ!」

 即答したアパリシアさんに言葉を失う。講義しようかとも考えたが俺は魔法を使えないし、
こうもキッパリ言われたらやめておくしかない。

 「じゃあ、失礼しまーす」

 (あ、そういえば)

 歩きながら、もともとサンドバッグで連れてこられたのを思い出す。
マルールの印象があまりにも強すぎて頭から抜け落ちていた。
アパリシアさんも忘れているみたいだし、このまま帰ることができそうだ。

 「っていうか部隊見学なのか?これは?」

 デュークさんのところもアパリシアさんのところも副団長を紹介してもらっただけだ。
 俺の中では部隊というと数十人の者が集まった集団のイメージだしほとんどの人がそのように考えるだろうが、
魔族の間では部隊という名前だけで機能はしていない可能性が高くなってきた。

 「明日へネラルさんのところか。
さすがにまともであってほしい」

 内心ヒヤヒヤしていたが、俺が呼び止められることはなかった。
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