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第1部 魔族配下編 第1章

魔王からの仕事にリベンジする②

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 「ヒハハッ、仲間倒されて怒ってるー」

 「グゴオオ゛オ゛オ゛オオォ‼」

 リーダーオークはひときわ大きな咆哮を上げると
なりふり構わず暴れ始めた。

 「わわわッ⁉」

 「アッブナーイ!」

 耳を塞ぎながら慌てて避ける。図体がデカいのでその分攻撃範囲も広い。
 オークは腕を振り回しているようだが、俺たちからすれば
足に踏まれないように気をつけるだけでいい。

 (くらったら死ぬな。スキが大きいから簡単に
避けれるけど)

 「さって、どうするかなー」

 「倒す方法ですよね?」

 デュークさんが見上げながら軽そうに言う。
彼なりに悩んでいるのだろうが、語尾が伸びているので
余裕はありそうだ。

 「そう。モトユウちゃん何かある~?」

 オークの攻撃を避けながら頭を働かせる。
 運の悪いことに俺もデュークさんも魔法を使えないため、
アパリシアさんやその部下達が来ないかぎり、物理でやる
しかない。

 (頭や腕は斬り落とせない。ジャンプしても届かない
からな。となると……)

 「足元から斬り崩していくぐらいしか……」

 「まあ、それが良策だろうなー。
アレじゃまだ投げられねーし」

 「また俺を投げるつもりですか⁉」

 「おう。モトユウちゃん砲強いもん」

 確かにそれでオーク達に致命傷を与えたが、薬の効果は
もちろん、デュークさんの力加減が絶妙だったからだ。

 「と、とにかく薬飲まないと……」

 さっきオークの群れを斬り払ったせいで2本目の効果は
なくなっていた。30体以上斬ったのだから無理もないと
思う。
 懐から1ビン取り出して飲んだ。これで3本目。
すぐに全身が熱くなりオークに向かってダッシュする。

 (あっつ……)

 「お、突っ込む?マジで~⁉」

 背中でデュークさんの声を受ける。突発的なのはわかっているが、
急いで何かを斬らないと暑くてたまらないのだ。

 「はああぁッ‼」

 足を斬るために横に剣を振る。刃は太腿の半分もいかずに
くい込んで止まった。

 「ッ……⁉」

 (硬ぇ⁉通常体とは桁違いだ。さすがはリーダー)

 どうにか刃を抜いて、もう1度攻撃しようと試みるが、
足が止まっている俺をオークが黙って見過ごすハズがない。

 「グオオォォォ‼」

 左足を俺に向けて振ってくる。
 ローキック。リーチが長いのでオークの懐に転がり込む
しかない。

 「くっ……」

 走り出したものの、完全には避けきれないと悟った。

 (くらう!)

 動きは止めないまま目を瞑る。しかし次の瞬間、
勢いよく前方に腕を引っ張られた。

  (え?)

 わけがわからないまま目をあけると、勝ち誇った表情
デュークさんが映る。
 すぐ後ろで空をきる音がした。

 「オ゛ォ⁉」

 「いきなり突っ込んじゃダメでしょーよ、
モトユウちゃん」

 「デュークさん……」

 「オークがモトユウちゃんに気ぃとられてたからさ、
大回りで移動して前方に来といた、ヒハハ!」

  (なんてこった……)

 とんでもない慧眼と走力だ。俺が走り出してからオークに
蹴られそうになるまで1分前後だったと思う。

 「た、助かりました。でも足の切断まではいかなくて……」

 「見てた。ダメージは入ってるみたいだけどな~。
ちょっと失礼~」

 「おわッ⁉」

 いきなり担ぎ上げられた。直後にデュークさんが走り出したので、
そのまま風を受ける。

 「ど、どこに?」

 「少し距離とるだけ~」

 (薬の力を借りても、これなら倒せない。
他に作戦を練らないと)

 しかし特に思い浮かばない。せっかくの時間も虚しく、
言葉通りオークから離れた位置で降ろされた。

 「グルゴオオ゛ォォ‼」

 オークは傷を負ったことよりも俺たちが攻撃を避けていることが気にくわないようで、
雄叫びを上げながら足を踏み鳴らしてきた。
 離れているのに足元が大きく揺れてバランスを崩し、
這いつくばる。

 「ぐっ……」

 「ヒッハハハハ!オモシレー!」

 バランスが取りづらい状況になったというのに、
デュークさんは笑いながら交互で器用に片足でバランスを
保っていた。

 (とにかく立たないと)

 剣を軸にしてどうにか立ち上がるとそれを待っていたかのようにオークが咆哮をあげた。

 「グアオオォオオォッ‼」

 さらに踏み鳴らす力が強くなる。何度も踏まれた地面が
割れてその破片が俺の頭に直撃した。衝撃で視界が霞む。

 「ヴェッ⁉」

 思わずうめき声のようなものが出る。
 だが、意識を保っているのは自分でもビックリしていた。

 (なんでだ?何か頭に打撃を受けたこと……あ)

 思い当たることがあった。2回だけだが起床時の目覚ましの代わりに、
魔王からメイスで叩き起こされていたのだ。

 (あれで耐性ってつくのか?だとしたらスゲェ)

 「オイオイオイ、モトユウちゃん大丈夫~?
重傷~?」

 左手で頭を抑えながらデュークさんを見た。
 ジンジンと痛むし、血が後頭部を流れ落ちてくるのが
わかる。量は多くなさそうだが早く止血したい。

 「だ、大丈夫です。痛いけど、まだやれますッ!」

 「ヨシヨ~シ、やれるな?」

 そう言ってから、ふと思い出したように小さく声を出すと
俺にグッと顔を近づけてくる。

 (状況関係ないのかよ⁉)

 「そういえばさ~、モトユウちゃんの薬って俺が飲んだら
どーなんの?」

 「え?さぁ……。でも俺に合わせて作ってもらったので
デュークさんは飲まない方が――」

 「一口分ちょーだいッ!」

 笑顔で左手を差し出してきたデュークさんに
反射的に体を退きながら答える。
 
 「やめといた方がいいですよ⁉もし副作用が
取り返しのつかないことだったら……」

 「その時はその時~」

 デュークさんはそう言うと俺からビンを奪い取った。
そして手で受け皿をつくると一口分垂らす。

 「ホイ、返すッ!」

 「えっ?あ」

 俺が慌てて受け取っている間にデュークさんは赤い液体を口に含んで飲みこんだ。
 俺と同じようにすぐに異変が起こる。

 「おッ?オオォォォ⁉」

 (だ、大丈夫だよな⁉そのまま消滅とかしないよな⁉)

 喉の奥から声を絞り出しているような感じだ。
 不安になりながら様子を見守っていると、デュークさんの声が止まって代わりに大きく息を吐いた。
 魔族特有の黒い模様がいちだんと濃くなっており、全身にうっすらとだが髪と同じ赤紫色のオーラが出ている。

 (え、デュークさんにも効果があったのか⁉)

 「フ~ン、ナ~ルホド。
オモシロイじゃねーか。ヒハハハハッ‼
 これなら1回で斬れそうだな」

 「真っ二つにですか?」

 「いや、片足。さすがに真っ二つはムリだわー。
 ってことで、俺がアイツの右足ブッタ斬るから、
戸惑ってる間に左足を斬りな」

 「え、でも……」

 (途中で止まったのに?)

 「ムリ?なら、どうにか両足斬るわ」

 デュークさんは大剣を握りしめると走り出した。
オークは近づかれるのを阻止しようと足を振り回したり、
手を地面に叩きつけたりしているが、デュークさんは軽々と避けている。

 (走るスピードもそうだけど、ジャンプ力もスゴい。
あのオークの腕や足を飛び越えて避けてるし)

 俺だったら間違いなく直撃している。
と、いうよりも、避けれる人が限られているだけだ。

 「オオォッ‼」

 「ヒハハハハッ!オラよッ‼」

 ローキックを繰り出したオークの右足が勢いよく
宙に飛んだ。

 「オ゛オオオ゛ォォォッ⁉」

 「ホイ、もう1回!」

 デュークさんは大きく振りかぶって左足も斬り飛ばした。
切断面から血が溢れ出し、地面を濡らしてゆく。

 (スゲェ……。俺も行くか!)

 4本目の薬を飲み干すとオークのもとに向かう。
 両足を失ったオークが拳を振り下ろそうとしてくる。
 しかしデュークさんが大剣を平らにして受け止めた。
 
 「オ゛⁉」

 「まだ体力あんのかよー。さすがはリーダーって、か‼」

 そのままオークの拳を弾く。するとデュークさんは
大剣をナナメにして刃先を地面につけながら俺に向くように
構えた。

 「そのまま俺の剣に乗りな!」

 「は、はい?」

 (あ、まさか……)

 嫌な予感がしたが他に何も考えられない。
 刃に飛び乗ると同時に空に打ち上げられた。

 「やっぱりーーーー⁉」

 (そして速ぇ!)

 「ごっめ~ん、加減間違えたわ~」

 上昇するスピードが速く、あっという間にオークを
超えた。薬の影響なのは間違いない

 (ってまだ効果きれないのか⁉一口分だろ?)

 オーラが消えているかどうか確認しようと視線を下に向けたが、
俺の位置が高すぎてデュークさんの姿は見えない。
オークの頭が足元に映っただけだ。
 諦めてこれからの行動を考える。

 (それより、どこを斬る?頭か腕か。
いや、この高さなら真っ二つの方が……)

 また落ちる勢いで斬れということだろう。
全身真っ二つは難しいだろうが、半分以上は斬れるはずだ。
 
 「うおおおぉッ‼」

 刃をオークの頭頂点にくいこませて、そこから一気に力を入れて剣を下ろしていく。
 オークは頭を斬られながらも腕を伸ばしてくる。
空中で身動きのとれない俺は捕まった。

 (まだ体が動くのか⁉)

 自分が消えるということをわかっているのか、俺だけでも潰しておきたいようだ。
 力を加えてきて、体からミシミシと嫌な音がする。

 「がっああッ!」

 (マズい!)

 しかし腕ごと掴まれたので剣を振ることすらできない。
だんだん息をするのも苦しくなってくる。
 その時、真下からとてつもないスピードで斬撃が
飛んできた。
 2つに分かれたオークの体は地面につくと同時に
モヤになって消える。
 そして支えを失った俺は急降下し始めた。
 
 「おわああああぁッ⁉」

 (どっちにしても俺死ぬ⁉)

 俺の心配をよそに、デュークさんがガッシリと受け止めてくれた。
 体からはオーラが消えていて、模様の濃さも元に戻っていた。一口分だったから、
それに合わせて効果もなくなったのだろう。
 
 「あ、あのまま「教会送り」かと……」

 「ヒハハハッ、モトユウちゃんをみすみす「教会送り」に
させるわけないだろ~。いろいろ困るし」

 「いろいろ?」

 「そ、いろいろ」

 地面に降ろしてもらったあと、デュークさんの言葉を待ってみるが、
ニヤニヤと楽しそうに俺を見ているだけで続きは出てこない。

 (今は言えないってことか。なら仕方がない。
 それにしても肉集めなら、かなりの量になったよな……)

 配って回っても10日以上はあっただろう。
少しもったいないと思った。
 
 「つーか、モトユウちゃん大丈夫ー?骨とか折れてない?」

 「たぶん大丈夫です……」

 動かすと少し軋むが骨が折れているわけではなさそうだ。

 「マジでー⁉思ったより強靭だなモトユウちゃん!」

 「自分でもビックリしてます……」

 ふと視線を感じて空を見上げると小さな赤い鳥が
ホバリングしていた。尾が長く先のほうが黒い。

 (なんだ?モンスター?)

 しかしすぐにどこかへ行ってしまった。そのまま呆然と
しているとデュークさんが声をかけてくる。

 「いや~噂には聞いてたけど、あんなデカイヤツ初めて
見たわ~。斬りがいがあった」

 「でも倒して良かったんですかね?そのせいでオークが
2度と出てこないとかなったら、ノルマクリア
できなくなるし」

 「大丈夫だろ~。リーダー倒したぐらいじゃ、
いなくならないって。また別個体がリーダーになる
だろうな。
 んで、どーする?まだ倒す?やめとく?」

 「今日はもう休みます。ゲガしたし……」

 破片がぶつかった箇所に手をやって顔の前に持ってくる。
今の間に血は止まったようだ。
 まだ日は落ちてないし薬も1本分残っているが、
どっと疲れてしまった。

 「リョーカイー。あ、フロ入るなら付き合うぜ?」

 「いえ、大丈夫です……」

 「そう?ちょっとガッカリ~」

 (どんだけフロ好きなんだよ……。それに俺が湯に
頭つけたらそれどころじゃなくなるし)

 デュークさんでさえ悶絶するのだから、耐えきれる自信がない。
たぶん途中で気を失う。

 「じゃあ、あと少しなんでまた明日も――」

 「ヒハハハハッ!任しときな~!」

 「おわッ⁉」

 いきなり肩を組まれて思わず変な声が出る。
しかし振りほどくわけにもいかないので、
諦めて戻ることにした。

 エインシェントオーク討伐数、37/50
(トドメはほぼデュークさん)。
 タイムリミットまで、あと1日。
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