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第1部 魔族配下編 第1章
食料調達をする③
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※中~後半にかけて
グロテスクな描写があります。
読まれる際はお気をつけください。
突撃バッファローの肉を安定して獲れるようになった
俺は、言葉通り迷幽の森に連れてきてもらっていた。
木々がウッソウと生い茂っていて、
空気も荒れ地に比べて澄んでいる。
俺は土を踏みしめながら、外に出てから気になっていたことを尋ねる。
「そういえば気になる事があるんですけど……」
「な~に?」
「武器、どこにしまってるんですか?」
首を傾げているデュークさんは手ぶらだ。
いつもの大剣は見当たらない。
「あ~、ソレか。ヒハハッ。
こうなってんのよ!」
そう言ってデュークさんはいきなり地面に右手をくい込ませると、なんとそこから大剣を引き抜いた。
手の甲に赤い紋章が浮かんでいる。
武器召喚魔法。武器に印を刻むことで、いつでもどこでも喚び出すことができるようになる、
微量の魔力があれば誰でも使えるものだ。
「魔法……使えなかったんじゃ……」
「うん、使えないー。だが、コレは別。
マーさんから魔力分けてもらって、これだけ使えるように
してもらったのよ~」
「そんなことできるんですか⁉」
「できるんですよ~、ヒハハハッ!」
魔力を分けてもらうという話は聞いたことがあったが、
実際に分けてもらった者を見たのは今回が初めてだ。
俺は残念なことに魔力は皆無のため、タンクか物理アタッカーになるしか道が残されていなかった。
「話は変わりますけど、キングベアって……」
「ああ、出るとしても奥の方だぜー。
なにせキングだから……」
不意にデュークさんは真顔になると俺に耳打ちしてきた。
「しばらくあの茂みに隠れてな。俺が声かけるまで待機」
「は、はいっ」
(な、何だ?)
わけがわからないまま茂みに移動して身を屈める。
これで俺の姿は誰にも見えていないはずだ。
なぜデュークさんがそう言ったのか理解するまでに
時間はかからなかった。
冒険者パーティがこちらに向かってきていたのだ。
「よぉ、楽しそうじゃない~。アンタら」
「お、お前はデューク⁉」
「バカな⁉城に居るんじゃないのか⁉」
「ざ~んね~ん、俺はそこまで引きこもりじゃないのよ」
食料調達にでも来たのだろうか。
俺が一緒に居たら絶対に何か言われる。それを考慮して
デュークさんは隠れろと言ったのだ。
(ザルド達じゃないのが救いか……)
冒険者の数は星の数ほどいるので、ザルド達に当たる可能性は低いのだが、ここは魔王城周辺。
「教会送り」にされたのが魔王城だったので、ここから
最も近い町、ドリアスの教会に戻されているはずだ。
そのため、この辺りに居てもおかしくはない。
「さて、俺に出会ったからにはどうなるかわかるよな?」
「ッ⁉」
声が低くなったデュークさんに威圧されたのか、
パーティがガチャガチャと武器を構える音が聞こえた。
「ち、ちょうどいいッ!ここでお前を倒せば
俺達の名も上がる!」
「あっそう。俺は踏み台ってことね。
オモシレー……来な!」
直後、魔法音や剣撃が聞こえる。おそらく4対1でデュークさんが不利だろう。
俺は加勢に入りたい気持ちを抑えるのに必死だった。
(耐えろ耐えろ。俺が出たらデュークさんの配慮が
ムダになる)
「きゃあぁッ‼」
しばらくして、迎撃音が悲鳴に変わった。
我慢できずに茂みの隙間から目を凝らして様子を見る。
デュークさんがヒーラの女に斬りかかっていた。
しかし、避けられたのかわざと浅くしたのかはわからないが、致命傷ではなかったようだ。
ヒーラの右肩が少しずつ赤く染まっていく。
「あ……あ……」
「少し斬られただけでそんな悲鳴上げる?」
「離れろ!フレイムボール!」
魔法使いの男が火球を放つ。確か初級の方だが、魔法力を高めているのか、
人の顔ほどの大きさがあり威力が強そうだ。
(でもあれぐらいなら避ける――)
しかしデュークさんは避けずに左腕にくらったのだ。
「チィッ!」
(な、何でッ……あ)
理由はすぐにわかった。俺だ。
デュークさんが避けたら俺が隠れている茂みに当たる。
そしたら最悪「教会送り」になってしまう。
「ナイス!この調子で倒すぞ!」
「……あ゛?
俺の片腕潰したぐらいでイキがるなよ?」
ただでさえ緊張していた場の空気がさらにピリピリとしたものに変わる。
(殺気か……。向けられてない俺でも体を動かしにくい)
「こ、この程度ッ……」
「ブッ潰す」
デュークさんは持っている大剣をソードマンの男に
投げつけた。そのまま男に飛びかかると見せかけて、手薄になっているヒーラの女の側に移動する。
「やっぱアンタから先に潰しとかないとなぁ?」
「ヒッ……⁉」
忘却自失になっているヒーラの頭を掴んで地面に引き倒した。
気絶したのかピクリとも動かない。
「マリー‼貴様ァッ‼」
ソードマンがヒーラの名前を叫びながらデュークさんに
斬りかかる。
しかしデュークさんはヒーラを盾にするように前に突き出したのだ。
ソードマンの動きが止まる。
「う⁉」
「ヒハハ!バーカ」
その隙を見逃さず、デュークさんはソードマンを蹴り飛ばした。
ソードマンの体が木の幹に叩きつけられ、その衝撃で木が倒れる。
(他は何してんだ⁉)
急いで目で追うと魔法使いの男は悔しそうに歯ぎしりしている。フレイムボールであの威力だ。
魔法をデュークさんに撃てばソードマンも巻き込まれると考えて放てなかったのだろう。
かわってタンクの女は棒立ちになっていた。
目を見開いて全身を震わせている。
(さっきので萎縮したのか⁉)
「何?もう終わり?」
「う、うああぁッ‼」
挑発されてタンクがデュークさんに突っ込んでいく。
しかし恐怖が抜けておらず、闇雲に槍を振り回している
だけだ。
デュークさんは軽々と避けて何度目かで槍の柄を掴んだ。
「は、離せぇッ!」
「やなこった。……アンタよくそれでタンクやってるな?」
「う、るさ……い⁉」
タンクが動揺している間にデュークさんは槍を奪い取ると相手の胸に深々と突き刺した。
「く……あッ……」
「クソッ、これでもくらえ!」
魔法使いの周りの魔力が高まる。高度な魔法を放とうとしているようだ。
「フン……」
デュークさんは鼻で笑うと、右手を突き出して指2本を曲げる。
すると、さっき投げた大剣が魔法使いの胴を貫通した。
また手の甲に赤い紋章が浮かんでいる。
(武器召喚を利用して攻撃した⁉)
やろうと思えば魔法使いを避けて、手に持つこともできたはずだ。しかし、わざと刃を自分に向けて喚び戻した。
魔法使いが吐血して膝から崩れ落ちる。
「がはッ……」
「サシで隙作っちゃダメだろ」
そう言うとデュークさんは近づいて、勢いよく大剣を
体から引き抜いた。
血が吹き出し、地面や木々を赤く染める。
「ぐああッ……」
「さよーなら」
そのまま魔法使いを真っ二つに切り裂いた。骨の砕ける音と内臓の破裂音が響く。
「ウ…………」
(ダメだ……気持ち悪い……)
戻しそうになるのをどうにか抑える。ここまで残酷だとは思っていなかった。
さすがは魔族であり、幹部だ。
「モトユウちゃーん、もう出てきていいぜー」
声がかかった。口元を押さえてフラフラになりながら
立ち上がる。
全身に返り血を浴びたデュークさんと、至るところに赤い水たまり。周りの木々にも同じ色の飛沫がある。
パーティはすでに「教会送り」になった後で、
姿がなかった。魔法使いが最後だったようだ。
(ソードマンとヒーラーはアレで力尽きたのか……)
「って顔色悪ッ⁉そんな辛かったか?」
「………………………」
「でもよぉ、アレぐらいやっとかないと、仕留め損ねて「墓地送り」になったら嫌だもん」
わかっている。殺るか殺られるか。顔を合わせてしまったら必然的にそうなってしまう。
「まー、今回の奴らはそうでもなかったな~。
モトユウちゃんに指摘された時の2パーティの方が強かったわ」
(わ、分かっちゃいたけど……怖ぇ)
敵味方の区別がハッキリしている。
人間で括れば俺も入るのに、敵に対しては何の迷いもなく
殺した。以前の2パーティもこんな感じで「教会送り」にしたのだろう。
視線を泳がせているとデュークさんが口を開く。
「な~に~?幻滅した?」
「え、えっと……俺も人間なんですけど……」
「ハ?」
デュークさんは瞬きを何度か繰り返したあと、
納得したように、あー、と声を漏らした。
「確かにモトユウちゃんもニンゲン。
でも今の奴らとは違うもん。性格も何もかも引っくるめて。
それに「配下」なんだから大事にしなきゃな?」
デュークさんが一気に顔を近づけてくる。
むせ返りそうな血の臭いに思わず顔をそらした。
モンスターを倒していても血を浴びることはあるが、
ここまで多い量はそうそうない。
「で、でも俺のせいで……」
「ン?……あぁ、ヤケドのことか」
デュークさんはそこまで気にしてないようだが、左腕は赤く腫れていて膿が溜まり始めている。
見るからに痛そうだ。
「…………………」
「気にすんなってー。モトユウちゃん「教会送り」にさせたら俺が消されるわ。
それにしても、フロ入んなきゃマーさんに叱られるな、
コレ。ケガもしたし。
モトユウちゃんも来る?」
「遠慮しときます……」
「あっそう。じゃあ俺1人で行ってくるわー」
デュークさんはそう言って歩き出したが、
10歩も進まずに振り返る。
「と、思ったけど、城帰るまでモトユウちゃんの
近くに居る。
「教会送り」になられちゃたまんねーもん」
「………………」
肉を集め始めてわかったことだが、俺1人でもこの辺りの
モンスターは倒せる。
つまり、先に帰ってもらうこともできるのだ。
(でも俺のせいでデュークさんがケガしたから……)
「今日は帰ります……」
「オウ……いいの?」
「はい……」
今回獲れた肉は少量なので配るには足りないが、
そんなことは言っていられない。
(また後日獲って配ればいいし……)
「リョーカイ。じゃ、帰ろうぜー」
ケガをして辛いはずなのに、デュークさんはいつもと
変わらない様子で歩き始めた。
グロテスクな描写があります。
読まれる際はお気をつけください。
突撃バッファローの肉を安定して獲れるようになった
俺は、言葉通り迷幽の森に連れてきてもらっていた。
木々がウッソウと生い茂っていて、
空気も荒れ地に比べて澄んでいる。
俺は土を踏みしめながら、外に出てから気になっていたことを尋ねる。
「そういえば気になる事があるんですけど……」
「な~に?」
「武器、どこにしまってるんですか?」
首を傾げているデュークさんは手ぶらだ。
いつもの大剣は見当たらない。
「あ~、ソレか。ヒハハッ。
こうなってんのよ!」
そう言ってデュークさんはいきなり地面に右手をくい込ませると、なんとそこから大剣を引き抜いた。
手の甲に赤い紋章が浮かんでいる。
武器召喚魔法。武器に印を刻むことで、いつでもどこでも喚び出すことができるようになる、
微量の魔力があれば誰でも使えるものだ。
「魔法……使えなかったんじゃ……」
「うん、使えないー。だが、コレは別。
マーさんから魔力分けてもらって、これだけ使えるように
してもらったのよ~」
「そんなことできるんですか⁉」
「できるんですよ~、ヒハハハッ!」
魔力を分けてもらうという話は聞いたことがあったが、
実際に分けてもらった者を見たのは今回が初めてだ。
俺は残念なことに魔力は皆無のため、タンクか物理アタッカーになるしか道が残されていなかった。
「話は変わりますけど、キングベアって……」
「ああ、出るとしても奥の方だぜー。
なにせキングだから……」
不意にデュークさんは真顔になると俺に耳打ちしてきた。
「しばらくあの茂みに隠れてな。俺が声かけるまで待機」
「は、はいっ」
(な、何だ?)
わけがわからないまま茂みに移動して身を屈める。
これで俺の姿は誰にも見えていないはずだ。
なぜデュークさんがそう言ったのか理解するまでに
時間はかからなかった。
冒険者パーティがこちらに向かってきていたのだ。
「よぉ、楽しそうじゃない~。アンタら」
「お、お前はデューク⁉」
「バカな⁉城に居るんじゃないのか⁉」
「ざ~んね~ん、俺はそこまで引きこもりじゃないのよ」
食料調達にでも来たのだろうか。
俺が一緒に居たら絶対に何か言われる。それを考慮して
デュークさんは隠れろと言ったのだ。
(ザルド達じゃないのが救いか……)
冒険者の数は星の数ほどいるので、ザルド達に当たる可能性は低いのだが、ここは魔王城周辺。
「教会送り」にされたのが魔王城だったので、ここから
最も近い町、ドリアスの教会に戻されているはずだ。
そのため、この辺りに居てもおかしくはない。
「さて、俺に出会ったからにはどうなるかわかるよな?」
「ッ⁉」
声が低くなったデュークさんに威圧されたのか、
パーティがガチャガチャと武器を構える音が聞こえた。
「ち、ちょうどいいッ!ここでお前を倒せば
俺達の名も上がる!」
「あっそう。俺は踏み台ってことね。
オモシレー……来な!」
直後、魔法音や剣撃が聞こえる。おそらく4対1でデュークさんが不利だろう。
俺は加勢に入りたい気持ちを抑えるのに必死だった。
(耐えろ耐えろ。俺が出たらデュークさんの配慮が
ムダになる)
「きゃあぁッ‼」
しばらくして、迎撃音が悲鳴に変わった。
我慢できずに茂みの隙間から目を凝らして様子を見る。
デュークさんがヒーラの女に斬りかかっていた。
しかし、避けられたのかわざと浅くしたのかはわからないが、致命傷ではなかったようだ。
ヒーラの右肩が少しずつ赤く染まっていく。
「あ……あ……」
「少し斬られただけでそんな悲鳴上げる?」
「離れろ!フレイムボール!」
魔法使いの男が火球を放つ。確か初級の方だが、魔法力を高めているのか、
人の顔ほどの大きさがあり威力が強そうだ。
(でもあれぐらいなら避ける――)
しかしデュークさんは避けずに左腕にくらったのだ。
「チィッ!」
(な、何でッ……あ)
理由はすぐにわかった。俺だ。
デュークさんが避けたら俺が隠れている茂みに当たる。
そしたら最悪「教会送り」になってしまう。
「ナイス!この調子で倒すぞ!」
「……あ゛?
俺の片腕潰したぐらいでイキがるなよ?」
ただでさえ緊張していた場の空気がさらにピリピリとしたものに変わる。
(殺気か……。向けられてない俺でも体を動かしにくい)
「こ、この程度ッ……」
「ブッ潰す」
デュークさんは持っている大剣をソードマンの男に
投げつけた。そのまま男に飛びかかると見せかけて、手薄になっているヒーラの女の側に移動する。
「やっぱアンタから先に潰しとかないとなぁ?」
「ヒッ……⁉」
忘却自失になっているヒーラの頭を掴んで地面に引き倒した。
気絶したのかピクリとも動かない。
「マリー‼貴様ァッ‼」
ソードマンがヒーラの名前を叫びながらデュークさんに
斬りかかる。
しかしデュークさんはヒーラを盾にするように前に突き出したのだ。
ソードマンの動きが止まる。
「う⁉」
「ヒハハ!バーカ」
その隙を見逃さず、デュークさんはソードマンを蹴り飛ばした。
ソードマンの体が木の幹に叩きつけられ、その衝撃で木が倒れる。
(他は何してんだ⁉)
急いで目で追うと魔法使いの男は悔しそうに歯ぎしりしている。フレイムボールであの威力だ。
魔法をデュークさんに撃てばソードマンも巻き込まれると考えて放てなかったのだろう。
かわってタンクの女は棒立ちになっていた。
目を見開いて全身を震わせている。
(さっきので萎縮したのか⁉)
「何?もう終わり?」
「う、うああぁッ‼」
挑発されてタンクがデュークさんに突っ込んでいく。
しかし恐怖が抜けておらず、闇雲に槍を振り回している
だけだ。
デュークさんは軽々と避けて何度目かで槍の柄を掴んだ。
「は、離せぇッ!」
「やなこった。……アンタよくそれでタンクやってるな?」
「う、るさ……い⁉」
タンクが動揺している間にデュークさんは槍を奪い取ると相手の胸に深々と突き刺した。
「く……あッ……」
「クソッ、これでもくらえ!」
魔法使いの周りの魔力が高まる。高度な魔法を放とうとしているようだ。
「フン……」
デュークさんは鼻で笑うと、右手を突き出して指2本を曲げる。
すると、さっき投げた大剣が魔法使いの胴を貫通した。
また手の甲に赤い紋章が浮かんでいる。
(武器召喚を利用して攻撃した⁉)
やろうと思えば魔法使いを避けて、手に持つこともできたはずだ。しかし、わざと刃を自分に向けて喚び戻した。
魔法使いが吐血して膝から崩れ落ちる。
「がはッ……」
「サシで隙作っちゃダメだろ」
そう言うとデュークさんは近づいて、勢いよく大剣を
体から引き抜いた。
血が吹き出し、地面や木々を赤く染める。
「ぐああッ……」
「さよーなら」
そのまま魔法使いを真っ二つに切り裂いた。骨の砕ける音と内臓の破裂音が響く。
「ウ…………」
(ダメだ……気持ち悪い……)
戻しそうになるのをどうにか抑える。ここまで残酷だとは思っていなかった。
さすがは魔族であり、幹部だ。
「モトユウちゃーん、もう出てきていいぜー」
声がかかった。口元を押さえてフラフラになりながら
立ち上がる。
全身に返り血を浴びたデュークさんと、至るところに赤い水たまり。周りの木々にも同じ色の飛沫がある。
パーティはすでに「教会送り」になった後で、
姿がなかった。魔法使いが最後だったようだ。
(ソードマンとヒーラーはアレで力尽きたのか……)
「って顔色悪ッ⁉そんな辛かったか?」
「………………………」
「でもよぉ、アレぐらいやっとかないと、仕留め損ねて「墓地送り」になったら嫌だもん」
わかっている。殺るか殺られるか。顔を合わせてしまったら必然的にそうなってしまう。
「まー、今回の奴らはそうでもなかったな~。
モトユウちゃんに指摘された時の2パーティの方が強かったわ」
(わ、分かっちゃいたけど……怖ぇ)
敵味方の区別がハッキリしている。
人間で括れば俺も入るのに、敵に対しては何の迷いもなく
殺した。以前の2パーティもこんな感じで「教会送り」にしたのだろう。
視線を泳がせているとデュークさんが口を開く。
「な~に~?幻滅した?」
「え、えっと……俺も人間なんですけど……」
「ハ?」
デュークさんは瞬きを何度か繰り返したあと、
納得したように、あー、と声を漏らした。
「確かにモトユウちゃんもニンゲン。
でも今の奴らとは違うもん。性格も何もかも引っくるめて。
それに「配下」なんだから大事にしなきゃな?」
デュークさんが一気に顔を近づけてくる。
むせ返りそうな血の臭いに思わず顔をそらした。
モンスターを倒していても血を浴びることはあるが、
ここまで多い量はそうそうない。
「で、でも俺のせいで……」
「ン?……あぁ、ヤケドのことか」
デュークさんはそこまで気にしてないようだが、左腕は赤く腫れていて膿が溜まり始めている。
見るからに痛そうだ。
「…………………」
「気にすんなってー。モトユウちゃん「教会送り」にさせたら俺が消されるわ。
それにしても、フロ入んなきゃマーさんに叱られるな、
コレ。ケガもしたし。
モトユウちゃんも来る?」
「遠慮しときます……」
「あっそう。じゃあ俺1人で行ってくるわー」
デュークさんはそう言って歩き出したが、
10歩も進まずに振り返る。
「と、思ったけど、城帰るまでモトユウちゃんの
近くに居る。
「教会送り」になられちゃたまんねーもん」
「………………」
肉を集め始めてわかったことだが、俺1人でもこの辺りの
モンスターは倒せる。
つまり、先に帰ってもらうこともできるのだ。
(でも俺のせいでデュークさんがケガしたから……)
「今日は帰ります……」
「オウ……いいの?」
「はい……」
今回獲れた肉は少量なので配るには足りないが、
そんなことは言っていられない。
(また後日獲って配ればいいし……)
「リョーカイ。じゃ、帰ろうぜー」
ケガをして辛いはずなのに、デュークさんはいつもと
変わらない様子で歩き始めた。
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