19 / 71
第1章
改めて忠告される
しおりを挟む
「おかしい……」
翌朝、俺は複雑な気分でベッドに腰掛けていた。
筋肉痛や疲れはフロのおかげですっかり取れていたが、
モヤモヤは続いていた。しかし昨日のことではない。
一昨日から真っ白な世界の夢を見ていなかったのだ。
「妙な所で終わってるから見たかったのにな……」
前回はかつての仲間であるザルドにモーニングスターを
振り下ろされた所で目が覚めた。
なかなか恐ろしい状況だが、夢自体に何か意味があるのだと考えている。
「でも急に見なくなったのも気になる。
またそのうち見れるといいんだけどな……」
ふとした瞬間にため息が出る。
まだここに来てから日は浅いのにひと月は過ぎた気がする。
(魔族の配下になってから今日で5日目なんだよな。思ったより時間の流れが遅い。
あれ?そういえばデュークさん達、人間の俺が居るのに、
国の情報とか聞いてきてねぇ)
人間を支配したいとか滅ぼしたいとか目的があるのなら、真っ先に俺に聞いてくるはずだ。
生活や文化については何度かあったが、どこの町が落としやすいとか、
仲の悪い国はどこか、とか情勢について今まで1度も聞かれていない。
「なんか意味があるのか?それとも忘れてるだけとか?」
「何を忘れてるってぇ~?」
「おわッ⁉」
いつの間にか真正面にデュークさんが立っていた。またノック無しで入ってきたようだ。
俺の顔を疑いの目で覗き込んでくる。
(神出鬼没だな⁉心臓に悪い!)
「いや、こっちの話です……っていうか居たなら声かけてくださいよ⁉」
「何か真剣に考えてるみたいだったからさ~、
おどかしてやろうと思って、ヒハハハッ!」
「何か用事なんですよね?」
俺がそう言うとデュークさんが急に真顔になった。
思わず唾を飲み込む。
「そう。ちょっと脅すぜ?
モトユウちゃん、アンタ引けないトコまで来ちまったな?」
「え、それはどういう……」
「マーさんや俺だけでなくアパちゃんや、ヘネちゃん……他の幹部の信頼まで得てしまった。
初めて受け入れたニンゲンを信頼してんだよ。
つまり、裏切ったらどうなるか言わなくても
わかるよなぁ~?」
「……………八つ裂きですか?」
「いや、ねじ伏せて尋問する。
いろいろ知ってしまったからな。
「教会送り」にしたらマズいぐらいによぉ」
背筋が凍る。少しだが体も震えている。
デュークさんの語尾が伸びていない時はマジだ。
(確かにそうだが、そっちからベラベラ喋ったよな⁉)
「万が一俺が裏切ったら――」
「今の状況でどう裏切るつもりだ?
他の冒険者共が来たら寝返るのか?」
「ま、万が一ですよ。万が一」
(怖ぇ。裏切られる事に対してそうとう執着がある)
過去に何かあったのは間違いないようだ。
後退しようと思ったがいつの間にか肩をガッチリ掴まれていて動けない。
「万が一だろうが何だろうが、裏切りを匂わせるような事言うなよ。
腕斬り落としたくなるじゃねぇか」
「…………」
「モトユウちゃんは気づいてないかもしれねぇけどな、
俺達は頻繁にニンゲンの住処襲ってんだぜ?」
(そんな事してたのか⁉いや魔族だから当然なんだろうけど、いったいいつ……)
「ヒドいとか言うなよ?ニンゲンだって俺達魔族をボコしてんじゃねぇか。
挙げ句の果てにはマーさんを倒そうと躍起になってる」
「それは人間にとって魔王は脅威で……」
「フーン、やっぱそう考えるよな」
「え?」
思わずデュークさんを見つめる。
冒険者の最終目的は魔王討伐だ。フィールドに出る前に
通う訓練所で情勢についてかじるのだが、「モンスターより上の魔族、さらに上の魔王。
その魔王を討伐することが目的」と何度も教えられる。
(まぁ今の魔王達を見てると絶対に悪とは言えないけど……)
俺達人間にとって脅威であることは変わらないはずだ。
答えに迷っているとデュークさんがさらに顔を近づけてくる。
「まぁニンゲンにとっては俺達は邪魔でしかないんだから排除するよな、フツー」
「で、でも……」
「でも何?自分は俺達の配下だからそんなコトしませんって?」
(う、疑われてるのか……)
言葉に詰まる。だが、ここで下を向くとさらに覗き込まれるので、
体を震わせながらもデュークさんから目を離さない。
「今はそうかもな。だが、お仲間が来ても同じ事言える?」
「……………………」
(もしザルド達が来たら……今のままだと中立的な立場になる。
どちらか一方につくなんて無理だ)
我ながら甘い考えだし呆れるが実際そうだ。魔族と少し打ち解けた今、急に斬れと言われても斬れない。
どのように返せばいいのかわからずに堪えていると、
デュークさんは小さく息をついて表情を和らげた。
「モトユウちゃんの事だから、どっちにもつけない
、とか考えてんだろ?」
「あ…………」
思わず声を漏らすとデュークさんが笑う。
「ヒハハハハッ!やっばりな!」
「……か、顔に出てました?」
「おう。わかりやすいもん。
でも、そうなる可能性はあるから、どうするか考えとけよ?」
「は、はい……」
(難しい決断だな……)
魔王の下につくと決めたのは俺だ。完全に自己責任だが、
今の俺には判断ができそうにない。
翌朝、俺は複雑な気分でベッドに腰掛けていた。
筋肉痛や疲れはフロのおかげですっかり取れていたが、
モヤモヤは続いていた。しかし昨日のことではない。
一昨日から真っ白な世界の夢を見ていなかったのだ。
「妙な所で終わってるから見たかったのにな……」
前回はかつての仲間であるザルドにモーニングスターを
振り下ろされた所で目が覚めた。
なかなか恐ろしい状況だが、夢自体に何か意味があるのだと考えている。
「でも急に見なくなったのも気になる。
またそのうち見れるといいんだけどな……」
ふとした瞬間にため息が出る。
まだここに来てから日は浅いのにひと月は過ぎた気がする。
(魔族の配下になってから今日で5日目なんだよな。思ったより時間の流れが遅い。
あれ?そういえばデュークさん達、人間の俺が居るのに、
国の情報とか聞いてきてねぇ)
人間を支配したいとか滅ぼしたいとか目的があるのなら、真っ先に俺に聞いてくるはずだ。
生活や文化については何度かあったが、どこの町が落としやすいとか、
仲の悪い国はどこか、とか情勢について今まで1度も聞かれていない。
「なんか意味があるのか?それとも忘れてるだけとか?」
「何を忘れてるってぇ~?」
「おわッ⁉」
いつの間にか真正面にデュークさんが立っていた。またノック無しで入ってきたようだ。
俺の顔を疑いの目で覗き込んでくる。
(神出鬼没だな⁉心臓に悪い!)
「いや、こっちの話です……っていうか居たなら声かけてくださいよ⁉」
「何か真剣に考えてるみたいだったからさ~、
おどかしてやろうと思って、ヒハハハッ!」
「何か用事なんですよね?」
俺がそう言うとデュークさんが急に真顔になった。
思わず唾を飲み込む。
「そう。ちょっと脅すぜ?
モトユウちゃん、アンタ引けないトコまで来ちまったな?」
「え、それはどういう……」
「マーさんや俺だけでなくアパちゃんや、ヘネちゃん……他の幹部の信頼まで得てしまった。
初めて受け入れたニンゲンを信頼してんだよ。
つまり、裏切ったらどうなるか言わなくても
わかるよなぁ~?」
「……………八つ裂きですか?」
「いや、ねじ伏せて尋問する。
いろいろ知ってしまったからな。
「教会送り」にしたらマズいぐらいによぉ」
背筋が凍る。少しだが体も震えている。
デュークさんの語尾が伸びていない時はマジだ。
(確かにそうだが、そっちからベラベラ喋ったよな⁉)
「万が一俺が裏切ったら――」
「今の状況でどう裏切るつもりだ?
他の冒険者共が来たら寝返るのか?」
「ま、万が一ですよ。万が一」
(怖ぇ。裏切られる事に対してそうとう執着がある)
過去に何かあったのは間違いないようだ。
後退しようと思ったがいつの間にか肩をガッチリ掴まれていて動けない。
「万が一だろうが何だろうが、裏切りを匂わせるような事言うなよ。
腕斬り落としたくなるじゃねぇか」
「…………」
「モトユウちゃんは気づいてないかもしれねぇけどな、
俺達は頻繁にニンゲンの住処襲ってんだぜ?」
(そんな事してたのか⁉いや魔族だから当然なんだろうけど、いったいいつ……)
「ヒドいとか言うなよ?ニンゲンだって俺達魔族をボコしてんじゃねぇか。
挙げ句の果てにはマーさんを倒そうと躍起になってる」
「それは人間にとって魔王は脅威で……」
「フーン、やっぱそう考えるよな」
「え?」
思わずデュークさんを見つめる。
冒険者の最終目的は魔王討伐だ。フィールドに出る前に
通う訓練所で情勢についてかじるのだが、「モンスターより上の魔族、さらに上の魔王。
その魔王を討伐することが目的」と何度も教えられる。
(まぁ今の魔王達を見てると絶対に悪とは言えないけど……)
俺達人間にとって脅威であることは変わらないはずだ。
答えに迷っているとデュークさんがさらに顔を近づけてくる。
「まぁニンゲンにとっては俺達は邪魔でしかないんだから排除するよな、フツー」
「で、でも……」
「でも何?自分は俺達の配下だからそんなコトしませんって?」
(う、疑われてるのか……)
言葉に詰まる。だが、ここで下を向くとさらに覗き込まれるので、
体を震わせながらもデュークさんから目を離さない。
「今はそうかもな。だが、お仲間が来ても同じ事言える?」
「……………………」
(もしザルド達が来たら……今のままだと中立的な立場になる。
どちらか一方につくなんて無理だ)
我ながら甘い考えだし呆れるが実際そうだ。魔族と少し打ち解けた今、急に斬れと言われても斬れない。
どのように返せばいいのかわからずに堪えていると、
デュークさんは小さく息をついて表情を和らげた。
「モトユウちゃんの事だから、どっちにもつけない
、とか考えてんだろ?」
「あ…………」
思わず声を漏らすとデュークさんが笑う。
「ヒハハハハッ!やっばりな!」
「……か、顔に出てました?」
「おう。わかりやすいもん。
でも、そうなる可能性はあるから、どうするか考えとけよ?」
「は、はい……」
(難しい決断だな……)
魔王の下につくと決めたのは俺だ。完全に自己責任だが、
今の俺には判断ができそうにない。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
5
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる