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第1部 魔族配下編 第1章
へネラルのお手伝いをする
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魔王は少しだけ驚いていたが、相手が俺だとわかると目つきを鋭くした。
「……ここで何をしている」
「デ、デュークさんに連れてきてもらいました。当の本人は用事でいませんけど。
それで、今から帰るところで……」
ほぼ強制的に連れてこられたせいで、今日俺に
仕事は割り当てられていなかった。
(魔王もテナシテさんに用があったのか?
それとも俺?)
焦りながら答えた俺を魔王は無言で見つめてくる。
「………………………」
「あのー」
「へネラルを手伝え。下僕を探していたぞ」
「え?」
「右の建物に居る」
短く言うと魔王は俺の横を通って、当たり前のように鉄の扉を1回大きく叩いたあと
中に入っていった。
「へネラルさん……か」
魔王に連れ回されたときに城郭であった魔族だ。
デュークさんと同じ幹部で、守りに長けていると聞いていた。
(下僕だからコキ使ってくださいとは言っといたけど)
結局対面したのはその1回限りだが、
呼んでいるというのなら行くしかない。
「右、って言ってたな」
(あ、でも正面から見た場合だから左か?)
そのまま右を向けばフロがある棟になる。
宿舎のような建物を出てから左を向いた。
裏の建物は3つ横に連なっており、左右に俺が今出てきたのと同じドアがある。
(外観同じだからな……)
不安に思いながらもとりあえず中に入る。
先ほどとは違って全面石造りだ。
「こ、こんにちは……」
そう言って1番近くにあったドアから顔を覗かせると黒い鎧――へネラルさんがガシャガシャと駆け寄ってきた。
俺に敬礼すると腕を引っ張られて廊下に連れ出された。よほど急いでいるようだ。
「ま、魔王さんから聞いたんですけど」
「…………………」
「わわっ⁉」
へネラルさんは相変わらず無言で足を止めない。
引っ張られながら周囲の様子を見てみると全体的に暗く、
壁の所々にロウソクが灯っている。
(石造りといい、暗い感じといい、ここは倉庫か?)
裏の建物は1つはフロ。2つ目が宿舎。最後の1つは倉庫だったようだ。
その中の一部屋に連れてこられた。5体の暗黒
ナイトがいて、俺を見ると素早く傍に置いてあった武器を構える。
(ヤベ、敵だと思われてる⁉)
前に城郭で暗黒ナイトに会っていたが、目の前の彼等は別個体なのだろう。
それにあの時は隣に魔王がいたためか誰も攻撃的な姿勢を見せなかった。
逆に今までこのような行動を取られなかったことがおかしかったのだと思う。
戸惑っているとへネラルさんが俺を庇うように立って首と腕を何度も左右に振る。
「……ニンゲン?」
「……テキ、チガウ……?」
暗黒ナイト達は互いに喋りながらへネラルさんを見る。
すると、へネラルさんは首を大きく縦に振った。
「……………………………下僕」
さすがにマズいと思ったらしくへネラルさんのくぐもった低い声が聞こえた。
暗黒ナイト達は少しの間顔を見合わせて固まったあと、一斉に腕を振り上げる。
「……ゲボク?…………ゲボク!」
「ゲボク!ゲボク!」
「ゲボク‼」
(なんか喜んでね?)
なぜ嬉しそうなのかは理解できないが、敵ではないことはわかってもらえたみたいだ。
彼等は落ち着きを取り戻して武器を床に置いてくれた。
その様子を見てへネラルさんは息を吐くと、俺を部屋の一角まで引っ張っていった。
武器が山のように積み上がっていて、それが2つある。その隣に木製の道具箱があり、
中には砥石と布が入っていた。
そして武器と道具箱を交互に指差して最後に俺を見る。
「磨いてくれってことですか?」
俺がそう言うとへネラルさんは大きく頷いた。
積み上げられている武器はどれも刃こぼれが酷く、柔らかい物ですら切れなさそうだ。
(魔族でも武器の手入れはするんだな。
それにしても何に使ったらこんなにボロボロになるんだ?)
武器を1つ手に取ろうとして思いとどまる。
(魔族特有のやり方とかあるのか?
勝手にやって怒られるよりは聞いたほうがいいよな……)
「俺と皆さんじゃやり方が違うかもしれないんで、
1回やってみせてください」
するとへネラルさんが武器を1つ手にとって砥石をかけ始めた。
どこにでもあるショートソードだ。
均等な間隔で濁りのない透き通った音が聴こえる。そうとう扱いに慣れているのは聞いてわかった。
てっきり人間と魔族とで違いがあるのかと思っていたが、変わらないようだ。
5分ほど砥石を使ったあと、布で丁寧に仕上げている。
ショートソードはまるで新品のように刃が光っていた。
(俺もソードマンだから手入れはするけど、
スゲェ……)
思わず感心してしまう。職人でも短時間でここまでキレイにはできないのではないかと思う。
ショートソードに見とれているとへネラルさんがそれをワキに置いて俺の前に立つ。
「……………………………」
(あ、やれって事か?とりあえずお礼言っとこう)
「見本を見せてくれてありがとうございました。
俺、素人なんでここまでキレイにはできませんけど」
「……………………とにかく、磨け……」
「は、はいッ⁉」
いきなりへネラルさんが声を出したので
返事が裏返った。
(心臓に悪ぃ……)
肩をすくめながらへネラルさんを目で追うと、俺とは反対側の隅に腰を下ろして武器の手入れを始めている。
彼の周りには5つ武器の山がそびえだっていた。
(俺の倍以上あるのかよ……。
ボサッとしてる場合じゃないな)
ついでに暗黒ナイト達も目で追うと先程の騒ぎは嘘のように懸命に武器を磨いていた。
へネラルさんほどではないが、砥石の扱いには慣れているようだ。
武器の山といっても剣がほとんどだが、よく見ると槍やモーニングスターも混ざっている。
俺は道具箱から砥石を取って床に座ると武器を手に取った。
「……ここで何をしている」
「デ、デュークさんに連れてきてもらいました。当の本人は用事でいませんけど。
それで、今から帰るところで……」
ほぼ強制的に連れてこられたせいで、今日俺に
仕事は割り当てられていなかった。
(魔王もテナシテさんに用があったのか?
それとも俺?)
焦りながら答えた俺を魔王は無言で見つめてくる。
「………………………」
「あのー」
「へネラルを手伝え。下僕を探していたぞ」
「え?」
「右の建物に居る」
短く言うと魔王は俺の横を通って、当たり前のように鉄の扉を1回大きく叩いたあと
中に入っていった。
「へネラルさん……か」
魔王に連れ回されたときに城郭であった魔族だ。
デュークさんと同じ幹部で、守りに長けていると聞いていた。
(下僕だからコキ使ってくださいとは言っといたけど)
結局対面したのはその1回限りだが、
呼んでいるというのなら行くしかない。
「右、って言ってたな」
(あ、でも正面から見た場合だから左か?)
そのまま右を向けばフロがある棟になる。
宿舎のような建物を出てから左を向いた。
裏の建物は3つ横に連なっており、左右に俺が今出てきたのと同じドアがある。
(外観同じだからな……)
不安に思いながらもとりあえず中に入る。
先ほどとは違って全面石造りだ。
「こ、こんにちは……」
そう言って1番近くにあったドアから顔を覗かせると黒い鎧――へネラルさんがガシャガシャと駆け寄ってきた。
俺に敬礼すると腕を引っ張られて廊下に連れ出された。よほど急いでいるようだ。
「ま、魔王さんから聞いたんですけど」
「…………………」
「わわっ⁉」
へネラルさんは相変わらず無言で足を止めない。
引っ張られながら周囲の様子を見てみると全体的に暗く、
壁の所々にロウソクが灯っている。
(石造りといい、暗い感じといい、ここは倉庫か?)
裏の建物は1つはフロ。2つ目が宿舎。最後の1つは倉庫だったようだ。
その中の一部屋に連れてこられた。5体の暗黒
ナイトがいて、俺を見ると素早く傍に置いてあった武器を構える。
(ヤベ、敵だと思われてる⁉)
前に城郭で暗黒ナイトに会っていたが、目の前の彼等は別個体なのだろう。
それにあの時は隣に魔王がいたためか誰も攻撃的な姿勢を見せなかった。
逆に今までこのような行動を取られなかったことがおかしかったのだと思う。
戸惑っているとへネラルさんが俺を庇うように立って首と腕を何度も左右に振る。
「……ニンゲン?」
「……テキ、チガウ……?」
暗黒ナイト達は互いに喋りながらへネラルさんを見る。
すると、へネラルさんは首を大きく縦に振った。
「……………………………下僕」
さすがにマズいと思ったらしくへネラルさんのくぐもった低い声が聞こえた。
暗黒ナイト達は少しの間顔を見合わせて固まったあと、一斉に腕を振り上げる。
「……ゲボク?…………ゲボク!」
「ゲボク!ゲボク!」
「ゲボク‼」
(なんか喜んでね?)
なぜ嬉しそうなのかは理解できないが、敵ではないことはわかってもらえたみたいだ。
彼等は落ち着きを取り戻して武器を床に置いてくれた。
その様子を見てへネラルさんは息を吐くと、俺を部屋の一角まで引っ張っていった。
武器が山のように積み上がっていて、それが2つある。その隣に木製の道具箱があり、
中には砥石と布が入っていた。
そして武器と道具箱を交互に指差して最後に俺を見る。
「磨いてくれってことですか?」
俺がそう言うとへネラルさんは大きく頷いた。
積み上げられている武器はどれも刃こぼれが酷く、柔らかい物ですら切れなさそうだ。
(魔族でも武器の手入れはするんだな。
それにしても何に使ったらこんなにボロボロになるんだ?)
武器を1つ手に取ろうとして思いとどまる。
(魔族特有のやり方とかあるのか?
勝手にやって怒られるよりは聞いたほうがいいよな……)
「俺と皆さんじゃやり方が違うかもしれないんで、
1回やってみせてください」
するとへネラルさんが武器を1つ手にとって砥石をかけ始めた。
どこにでもあるショートソードだ。
均等な間隔で濁りのない透き通った音が聴こえる。そうとう扱いに慣れているのは聞いてわかった。
てっきり人間と魔族とで違いがあるのかと思っていたが、変わらないようだ。
5分ほど砥石を使ったあと、布で丁寧に仕上げている。
ショートソードはまるで新品のように刃が光っていた。
(俺もソードマンだから手入れはするけど、
スゲェ……)
思わず感心してしまう。職人でも短時間でここまでキレイにはできないのではないかと思う。
ショートソードに見とれているとへネラルさんがそれをワキに置いて俺の前に立つ。
「……………………………」
(あ、やれって事か?とりあえずお礼言っとこう)
「見本を見せてくれてありがとうございました。
俺、素人なんでここまでキレイにはできませんけど」
「……………………とにかく、磨け……」
「は、はいッ⁉」
いきなりへネラルさんが声を出したので
返事が裏返った。
(心臓に悪ぃ……)
肩をすくめながらへネラルさんを目で追うと、俺とは反対側の隅に腰を下ろして武器の手入れを始めている。
彼の周りには5つ武器の山がそびえだっていた。
(俺の倍以上あるのかよ……。
ボサッとしてる場合じゃないな)
ついでに暗黒ナイト達も目で追うと先程の騒ぎは嘘のように懸命に武器を磨いていた。
へネラルさんほどではないが、砥石の扱いには慣れているようだ。
武器の山といっても剣がほとんどだが、よく見ると槍やモーニングスターも混ざっている。
俺は道具箱から砥石を取って床に座ると武器を手に取った。
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