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第1部 魔族配下編 第1章

思っきり脅される

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 しばらくの間、室内が静寂に包まれる。
 俺の場合はなんて返したらいいのかわからなくなってしまっただけだが、テナシテさんは眉を寄せて何か考えていた。
引っかかることでもあるのだろうか。
 
 (なんか話題……そうだ!)

 俺の心の声を聞いたテナシテさんが顔を上げる。

 「そういえば、能力をスゴイって言ってもらえたの 
俺で2人目って言ってましたけど……」

 「……1人目は魔王様です」

 「え⁉魔王さん⁉」

 驚くとテナシテさんが眉をひそめた。
どうやら不快に思ったようだ。

 「い、いや、魔王さんが褒めるところ見たことないんで、ビックリしてしまいました。
すみません……」

 「そうですね。魔王様がお褒めの言葉を言うのは稀です。最近来たばかりのあなたなら
聞いた事もないでしょうね」

 慌てて弁解したもののまだ機嫌は良くなっていないみたいだ。

 (気を悪くさせるつもりなんてなかったのにな。
どうしたらいいんだ?)

 「あ、あの……」

 「フフフッ」

 戸惑っているとテナシテさんが小さく笑った。
わけがわからないまま彼を見る。

 「すみません、少しからかいました。
機嫌悪くなっていませんよ」

 「え……」

 「魔王様が変わっている方だと仰っていたので試しました」

 「意外に性格悪いですか?」

 「そうですね。良いとは言えません」

  (あっさり認めた⁉
 でも焦った……。このまま良くならなかったら
どうしようかと思った)

 安心して息を吐くとテナシテさんがまた笑う。

 「あなたは面白い方ですね」

 「え……あっ!」

  (そうだった!心を読めるんだった!)

 「はい。よく考え事をするタイプのようですね」

 「ハハ……そうなんですよ」

 「………………」

 乾いた笑い方をする俺をテナシテさんはどこか微笑ましそうに見ていた。
 ふと、疑問が思い浮かぶ。

 「あ、1つ聞きたいことがあるんですけど」

 「何でしょうか?」

 「デュークさんのこと、どう思います?」

 「どう、とは?人柄でしょうか?」

 「まぁ……」

 デュークさんの事だから裏はないとは思うが、
イマイチ信用できていない。せっかく心を読めるというのだから、聞いておきたかったのだ。
 テナシテさんは考え込んでから口を開く。

 「そうですねえ、彼の心は真っ白なので裏表のない方だとは思います。
いろいろ気遣ってもらってますし」

 「真っ白⁉考えが読めないってことですか?」

 「はい。ですが、真っ白なのはいい事なんですよ。
本心で話しているという証拠ですから」

 「………………………」

 (最初の方に「全部本心」だって言ってたな。
テナシテさんまで言うのなら間違いないか)

 デュークさんに裏がないようで安心した。
あったら逆に怖いが。

 「でも心が読めるんなら、多くの魔族からアイツの心を読んでくれとか頼まれないんですか?」
 
 「ありませんね。私の存在を知っている人が少ないですし、能力については魔王様とあなたしか知りません。
 もしかしたらデュークさんは感づいているかもしれませんが」

 「……俺知って良かったんですか?」

 「フフフ、そうしたらあなたはさらに帰れなくなりますからね」

 「え」

 ゆっくりとテナシテさんを見ると薄い笑みを浮かべている。
意図がわからない。

 「冗談です。
 それと、1つ教えていただきたいことがあります」

 「はい……」

 「どうして降伏したのですか?」

 ここに来てから2度目の質問だ。どうも魔族にとってニンゲンを配下に加えるというのは初めてらしいし、
聞かれるのは仕方のないことなのだが、こうも短い期間に何度も尋ねられると少しウンザリする。
 それに自分で決めたこととはいえ、理由を話すのは辛い。

 (死にたくなかったからです)

 「……………嘘でしょう?まさかそんな……」

 「本当です」

 (俺は自分が助かりたいがために仲間を見捨てました。
「教会送り」になるのが嫌だったんです)

 「……………………………………………」

 言葉と心で訴えるとテナシテさんは頭を抱えてしまった。
呆れているのだろうか。それとも失望したのだろうか。
 しかし、ほどなくして彼の体が小刻みに揺れ始めた。

 「……フ、フフフフフフフフッ」

 (わ、笑ってる⁉怖ぇ⁉)
 
 狂気じみた笑い方に恐怖を覚えて身震いする。するとテナシテさんが顔を上げて俺を見た。
目を閉じているせいでよけいに怖い。

 「フフ、そう怯えないでください。笑っているだけですから。
 あなたはもしかしたら、とんでもないニンゲンかもしれないと思いましてね」

 「やっぱ俺、最低なヤツですよね……」

 「フフフフフ、違います。
なるほど、魔王様の仰っていたことが理解できました。フフフ」

 「え?」

 (俺の行動に呆れてたんじゃないのか?)

 わけがわからないまま見ているとテナシテさんが笑うのをやめた。
落ち着きを降り戻したようだ。

 「ふぅ……失礼しました。
 呆れていませんよ。確かにニンゲンからすれば最低な行動なのでしょう。
ですが、魔族間ではなんてことありません。
仲間を見捨てるなんて日常茶飯事です」

 「俺が魔族っぽい行動したから笑ったんですか?」

 「いいえ。理由はまだ話せませんが、
あなたの行動がおかしくて笑ったわけではありません」

 「気になるんですけど……」

 「もう少し待ってください。
話す時がきたら話しますから」

 まだ食い下がろうかと思ったが、そう言われると気持ちが薄れる。
いずれ話すと言っているのだから待つしかない。

 「わかりました。
 あ、もし良かったらですけど、時々こうやって
訪ねてもいいですか?」

 そう言うとテナシテさんが固まった。予想外だったようだ。

 「構いませんが……なぜ?」

 「ずっと1人っていうのも辛いでしょうし……。嫌だったら断ってもらっていいんで」

 「……嫌ではありませんよ。わかりました。訪ねてくる時はドアを6回ノックしてください。
そうしたらロックを解除しますから」

 「ろ、6回⁉」

 (多くないか?デュークさんは4回だった気が……)

 「『モトユウです』で、6回です。
4回だとデュークさんと被ります」

 「な、なるほど……」

 (やっぱりノックの回数は意味があったんだな)

 そう思っているとテナシテさんがイスから立ち上がって俺の真正面に立った。
自然と体がこわばる。

 「あと、1つ忠告しておきます」

 「はい?」

 「魔王様を悲しませたら許しませんから」
 
 「へ?」

 (悲しませる?裏切るとかそういうことか?)

 やはり目は閉じたままだが、声の低さや顔つきは
真剣そのもので、冗談ではないことがうかがえる。

 「ええ。悲しませたのがわかった後、私を訪れた時に部屋から出しません。
絶対に」

 「今さら裏切りませんよ……」

 「…………………………」

 テナシテさんは眉をしかめたまま俺を見つめている。
しかし諦めたように息を吐くとイスに座った。
 
 「そうですか……」

 「はい。お、お邪魔しました……」

 (最後のアレ、脅しだよな?なんかどっと疲れが――)

 複雜な気分で部屋を出た俺は固まる。
 目の前に魔王が立っていた。
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