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第1章

クセの強い魔族を紹介される①

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 翌日、俺はデュークさんに裏にある建物の1つに連れてこられていた。
宿舎のようにドアがいくつも並んでおり、
その中の1つの前に俺達は立っていた。
 昨日のフロのことが引っかかっているため、
少し警戒しながら声をかける。

 「今日はいったい何を……?」

 「ちょっと会わせたいヤツがいてさ~。面白いぜ~」

 (面白い?見た目が変わっているとかか?)

 デュークさんや魔王をはじめ、ここに来て会った魔族はみんな人型をしていた。
オークやハーピーなど人型以外も居ていいはずだ。

 「具体的には?」

 「オモシロイ」

 (答えになってねぇ!)

 普段通り無邪気に答えたデュークさんに心の中で素早くツッコミを入れる。

 「まー、会えばわかるって。
 ウエーーイ、オネットちゃん元気~?」

 デュークさんはそう言いながらノックもせずに
いきなり目の前のドアを開けた。
 室内は大小様々なぬいぐるみで埋め尽くされていおり、
一際大きなぬいぐるみの側に青い肌をした少女が座っていた。彼女がオネットのようだ。
 かなりビックリしていて大きな瞳で何度も瞬きしている。

 「うひゃあッ⁉な、なんですか⁉」

 「紹介しとこうと思って。
こちら、モトユウちゃん」

 「よ、よろしくお願いしまーす」

 「ひぃっ⁉ニ、ニンゲン⁉」

 「え……?」

 思わず声が出た。まさか怖がられるなんて思っていなかったからだ。
 オネットは今にも泣き出しそうな目で俺を見る。

 「あ、ご、ごめんなさい……」

 謝るとオネットが小さく首を横に振った。

 「だ、大丈夫です。私の方こそ驚いてしまってすみませんでした……」

 「いや~俺が言うのもなんだけど、この娘ちょっと変わってるのよ~」

 デュークさんの言葉を聞くとオネットは軽く彼を睨む。

 「か、変わってないですよ!フツーです!」

 「え~、フツ~?これでもか~?」

 デュークさんはぬいぐるみの山に近づいて、
その中の1つを手に持つと躊躇なく握り潰した。

 「あっ」

 (ヒデぇ⁉女の子相手でも容赦ないな)

 「ぬ、ぬい……ぐるみ………」

 オネットは目を大きく開いて体を小刻みに震わさせていた。
デュークさんはニヤニヤしながらわざとらしく耳に手を当てる。
  
 「ん?な~に~?キコエナ~イ~」

 「……ぐるみに…………手ェ出すなッつッてんだろうが‼テメェッ‼」

 いきなりオネットが目をギラつかせながらデュークさんに飛びかかった。
小さな両手から赤い鋭い爪が飛び出しており、もう1度振り下ろす。
 デュークさんは軽々避けると薄い笑みを浮かべた。どうやら楽しんでいるようだ。

 「ヒハハハッ!わかりやす~い」

 「ヘラヘラ笑ッてんじゃねェよ‼道化ヤロー‼」

 (え、ニ重?多重人格か?)

 開いた口が塞がらない。
 とにかくぬいぐるみをキズつけなければ良いと言う事は理解した。
 オネットは殺しそうな勢いでデュークさんを睨んでいる。

 「テメェ、わーしのぬいぐるみ何回潰した⁉」

 (わーし、って……「わたし」が訛っているのか?
 ってデュークさん何回も潰してんのかよ……)

 呆れながら見るが、俺の視線など全く気にしていない様子で
デュークさんは口を開く。

 「別にい~じゃん。また作るんだろ~?」

 「わーしが丹精込めて作った物簡単に潰すんじゃねェよ‼テメェ1回作ってみろ‼」

 「俺、不器用だからムリ。ま~ま~、落ち着きなって。好きな素材取ってくるからさ~」

 素材という言葉を聞いた途端、オネットの表情が固まる。
そして少し焦りを見せながらデュークさんを指差した。

 「テ、テメェがぬいぐるみ潰したからだろうが‼
それに、そ、素材で釣ろうとするな‼タチ悪い‼」

 「だから素材取ってくるって言ってんのよ~。
こうなったの俺のせいなんだからさ~」

 「…………………………………………………」

 我に返ったようでオネットは両手で顔を覆って下を向いた。
鋭い爪も引っ込んでいる。

  (戻った……のか?)

 おそるおそる声をかけてみることにした。

 「君も幹部ですか?」

 「い、いえ……私に役職はありません。……ただの魔族です」

 (マジか⁉さっきの見たら幹部クラスでも
おかしくないんだが)

 まだパーティを組んでいた頃、魔族の幹部は何かしらの能力が突出していると聞いていた。
オネットの場合、力だろうか。隙は大きかったが、
当たればそうとうなダメージになりそうだ。

 「あ~、役職はなぁ、「どれだけニンゲンを「教会送り」にしたか」で決まるのよ~。
 オネットちゃんはずっと役職ナシ」

 「は、はい……。バトルは嫌いなので……」

 「え、でも魔王……さんから何も言われないんですか?」

 「マーさんは個人に口出す事はほとんどねぇよ~。どう過ごすかは自由だからな~」

 (てっきりノルマがあるのかと思ってた。
本当に平和主義なんだな魔王……)

 デュークさんの言っていた事が理解できた気がする。
 するとオネットが俺をまっすぐ見つめてきた。

 「あ、あの、モトユウ……さん、でしたっけ?
 私に対して丁寧な言葉を遣わなくても大丈夫です……」

 「そ、そう?」

 戸惑いながら口調をを砕くとオネットはゆっくり頷いた。

 「はい……。も、もう用は済みましたか?」

 「おう。モトユウちゃん紹介しときたかっただけだからな~。ヒハハッ!」
 
 「わかりました。だからってぬいぐるみキズつけなくても……」

 オネットが少しだけ頬を膨らませる。
それを見たデュークさんは右手で謝るジェスチャーをした。

 「それは悪かったって~。んで、素材はいつものヤツでいい?」

 「はい……」

 「りょーかい!じゃーな、オネットちゃん~」
 
 「お、お邪魔しました!」

 デュークさんの後を追いかけて部屋を出る。
俺がドアを閉めたのを確認すると声をかけられた。

 「な、オモシロかっただろ~?」

 「面白くはなかったですけど、
変わった娘でしたね」

 「モトユウちゃんにとってはオモシロくなかったか~。
ちょっとガッカリー」

 デュークさんは小さく肩をすくめたあと、一気に顔を近づけてくる。

 「そういや、名前思い出せた~?」

 「い、いえ……まだです……」

 (相変わらずいきなり来るな。心臓に悪い……)

 少しずつ後退しながら答えるとデュークさんは
あっさり俺から離れた。

 「あ、そう。先に言っとくが俺は何もしてないからな~。
そもそも魔法使えないし~」

 「デュークさんが何かしたとは思ってませんけど」

 「お、そう思ってくれてんの?マジで⁉
 よっしゃ次行こうぜ、次!」

  (え、もしかしてまだあるのか?)

 機嫌が良いのか軽く跳ねながら歩くデュークさんの後ろを
俺は不安になりながらついていった。
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