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第1章

先の見えない廊下を掃除する

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 「ホイ、着いたぜ~、モトユウちゃん!」

 デューク……さんに連れてこられたのは城内の突き当たり。
行き止まり側から反対方向を見ると、果てしなく廊下が続いている。

 「えっと、今から何を?」

 「ン?掃除」

 そう言ってデューク……さんは近くの部屋に入った。
ガタガタと漁るような音が数回してすぐに戻って来る。
 手に木製のモップを持っていた。

 「これで廊下磨いてちょ~だい。モトユウちゃんの今日の仕事!」

 「……端が見えないんですけど」

 「大丈夫大丈夫~。1日ありゃ終わるから。
 あ、あと丁寧にな?ホコリひとつまみでも残ってたら後でマーさんからボコられるぜ」

 (マジか⁉)

 俺の顔を見て心情を読み取ったのかデューク……さんが乾いた笑いを漏らす。

 「ヒハハハ、マーさん意外とキレイ好きなのよ~。
だから毎回ニンゲンとバトった後が大変なんだぜ」

 「あぁ……」

 (そこは同情する)

 バトルが終わったら早急に片付けに入るのだろうか。
さっきまで王座の間にいたが、王座にはキズ1つなかったし床もキレイだった。
 毎回掃除させられている人も大変だろう。

 「大方はマーさんが片付けるんだぜ。ガレキとか魔法で宙に浮かせてな。「少しぐらい我がやらねば」って。
 あと王座は誰にも触らせない」

 「えぇッ⁉そうなんですか⁉」

 「そうなんですよ。ビックリしただろ~?」

 (魔王としての責任か?)

 何でも部下任せという訳ではないようだ。
てっきり王座にふんぞり返って偉そうに命令しているのかと思った。

 「ってワケで頑張んな~。俺はしばらく外れるわ~」

 「え⁉」

 (監視するんじゃないのか⁉)

 思わず声を上げるとデューク……さんが顔を覗き込んでくる。
 
 「他にもやる事があるんでね。つきっきりってワケにはいかないんだわ~。
 でもモトユウちゃん、サボらないでしょ?」

 「ど、どうでしょうね……」

 「いやいやいや、マジメだろ?モトユウちゃん。
 昨日戦った時も他のヤツに的確に指示出してたし、パーティの統率取れてたぜ?」

 「…………………」

 (4対1だったのに戦いながら観察してたのか。
侮れない……)

 「まぁ、サボってもいいけど。終わるまで寝かしてくれないぜ、マーさんが」

 「な、なんとか終わらせますッ!」

 (眠れないのはカンベンしてくれ!)

 「ヒハハ、根詰めすぎるなよ~」

 そう言うとデューク……さんは片手をヒラヒラ振りながら去って行った。
 やたらと身を心配してくれていたがホワイト寄りなのだろうか。

 「……やるか!」

 掃除でも何でもすると言ったのは自分だ。初日から目を背けたくなるような場面に合わなかっただけ幸運だろう。
 俺はモップを構えると端の方から掃除を始めた。






 「ふ~、ちょっと休憩……」

 額に浮かんだ汗を袖で拭うとその場に座り込む。まだ廊下の端は見えないが半分ぐらいは進んだだろうか。
 日頃から鍛錬していたおかげでまだ体力には余裕がある。
 俺の与えられた部屋のように、四角に切り取られただけの窓を見ると太陽が光を放っていた。
真上より少し右に寄っていることから昼頃のようだ。

 (っていうか昼夜存在するんだ、ここ)

 魔王の居城。冒険者達の最終目的地でもある為、暗い雲に覆われて
昼なんて存在しないのかと思っていた。

 (俺達が乗り込んだ時は暗かった気がするけど、夜だったのか?)

 よく思い出せない。

 「……そういえば他の魔族に会ってないな。今までたくさんの魔族に会ってきたし、
数が少ないなんて事はないはずなんだけど……」

 廊下を磨いている間、誰の姿も見ていなかった。
もしかしたら俺がいる事を知っていて、あえて来ないようにしているのかもしれない。

 (でも何の為に?)

 考え込んでいるとお腹が鳴った。それに喉も乾いている事も思い出した。

 「腹ごしらえしないと……。
でもどこで?調理場とかあるのか?」

 城内の造りをほとんど知らないため片っ端から見ていくしかない。
 気合を入れて立ち上がった時だった。

 「モトユウちゃ~ん、お疲れ~」

 聞き覚えのある声がする。デューク……さんが俺に向かって歩いて来ていた。手に何かを持っている。

 「お、お疲れ様です……」

 「頑張ってるねぇ~。ホイ、差し入れ」

 そう言うと俺に液体の入ったガラス容器と肉のような物を押しつけた。
肉には火が通してあるようで食欲をそそる匂いがする。

 「あ、ありがとうございます。ちょうどどうしようかと思ってたところで」

 「やっぱりね~。いや~俺も調理場の場所教えんの忘れてたわ。ヒハハハッ」

 「調理場あるんですか……?」

 「あるよ」

 即答したデューク……さんに俺は開いた口が塞がらない。
すると彼は笑い出した。

 「ヒハハハッ!魔族が料理するなんて考えもしなかったか?
するんだよコレが。全員ではないけどさ~」

 「そ、そうなんですね……」

 「そうなんですよ~。今度案内するぜ~。
 あ、ちなみにその液体は水、肉はエンシェントオークのを炙ったヤツな」

 「は、はぁ……」

 (いいのか?それにこんなに気遣いがスゴイと逆に怖い……)

 「モトユウちゃ~ん?今俺の事疑ってんだろ~?」

 またデューク……さんが俺の顔を覗き込んでいた。
疑われている事に機嫌を悪くしているようで軽く睨んでくる。

 (読心術でも使えんのか⁉)

 「い、いえ……そんな事は……」

 慌てて手を振るとデューク……さんは表情を変えずに顔を離す。

 「まぁ、でもそうなるよな~。来て1日も経ってないのに
親切にされたら疑うよな~?」

 「そ、その……」

 「いや~俺の性格だからさ、裏なんてないぜ~。
ぜ~んぶ本心」

 (敵と味方の区別がしっかりついてるって事なのか?)

 騙されるよりは良いが、腑に落ちない。
 返す言葉に悩んでいるとデューク……さんが軽く息をついて普段の表情に戻る。

 「まぁ、いいや。モトユウちゃんに信用してもらえるまで頑張りますよ~っと。
じゃあ、残りもヨロシク~」

 「……………………」

 デューク……さんがまたどこかへ去って行った。それを見送りながらなんともいえない複雑な気分になる。
 ふと手元を見ると押し付けられた肉が視界に入った。
  
 「食うか……」

 そのまま肉にかぶりついた。
不味くはないがまだ生の部分がある。

 「炙ったって言ってたしな……。腹壊さなきゃいいけど」

 ついでに水も飲んでみた。確かに水なのだが、
俺達とのは少し成分が違うようで鉄っぽい味がする。

 (血とか入ってないだろうなコレ……)

 しかし聞く相手もいないため気にせず腹に入れるしかない。残りを食べ終えると掃除を再開する。
 気分は晴れなかったが時々休憩をはさみ、日が落ちた頃には廊下磨きを終わらせる事ができた。
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