ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

望月かれん

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第1章 勘当旅編

22話 ラディウスの正体

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 何が起こっているのかわからなかった。
ただ、目の前の氷塊がみるみる溶けていっている。
だんだん中身が見えてきて、額の立派な角、硬そうな鱗、口元の牙、手足の鋭い爪、尻尾があらわになって、全身真っ白だ。
 ホワイトドラゴン。息絶えたと言われていた魔物が復活してしまった。
 呆然としているとテネルが私の肩でピョンピョン跳ねる。

 『シーラちゃん!離れましょう!』

 「でも、ラディウスが……」

 白いぬいぐるみは地面に転がったままで動く気配がない。
 しかし私の心配とは裏腹に頭上から野太い声がふってきた。

 『ハハハ!ここまでご苦労だったな!』

 「ラ、ラディウス?いったいどうしちゃったの?」

 『まだわかんねぇのか!お前は俺にまんまと騙されたんだよ!』

 「えーっと?」

 頭が追いつかない。何度も首をひねっているとテネルが少し呆れたように声をかけてきた。

 『シーラちゃん、ラディウスさんはホワイトドラゴンそのものだったんですよ』 

 「え、じゃあホワイトドラゴンの近くに住んでたっていうのは?」

 『鈍感娘が!ウソに決まってんだろ!』

 ホワイトドラゴン――ラディウスが怒鳴る。見た目は怖くなったのに、
中身がラディウスだとわかっているからか不思議と恐怖を感じない。

 「その姿になっても喋れるんだね」

 『喋れるよ!どうでもいいことで話をそらすな!』

 「ごめん……。私が騙されてたって話だよね?」

 『そうだ!
  普通ならそこのスライムみたいに一生ぬいぐるみだっただろうよ。
何の因果か知らねぇが氷漬けになったときに魂が抜け出てぬいぐるみに入り込んだ。
なら、肉体に戻りたいと思うのは当然だろ?』

 ラディウスに利用されていた。普通の人なら怒りだしてもおかしくないのに、怒りは沸いてこない。
その代わりに返す言葉が思い浮かばず、黙っている私を見てラディウスはさらに言葉を浴びせてくる。

 『お前はもう用済みなんだ。
  本来なら住処に来たヤツは消し飛ばすが、俺を連れてきてくれたからな。
特別に見逃してやる。帰れ』

 「嫌だ」

 考える前に口が動いていた。ラディウスを送り届けるという使命は果たしたか、これで終わらせてはいけない気がする。
 ラディウスは何度か瞬きをしたが、すぐに目つきを鋭くして吠えた。

 『わからず屋が!見逃してやるっつってんだよ!おとなしく従え!』

 「嫌!私、ラディウスの保護者だもん!」

 『それはぬいぐるみ状態の時だけだろうが!!』

 言い終わると同時にラディウスは口から何かを吐き出した。それは私の真横をかすめると背後でドンと破裂音がして地面が大きく抉れる。
当てられていたら命がなくなっていただろう。

 『今のお前は俺の保護者じゃねぇ。ただの人間だ』

 「こ、これからはどうするの?」 

 『あ?……そうだな、体慣らしににリル村のヤツラでも滅ぼしてくるか』

 「そんなひどいことしないで!」

 『フン、お前1人に何ができる!
  それにアイツラには蔑ろにされただろ。ムカつかねぇのか?」

 「ムカついてはないよ。確かに騙されたけど、村長さん1人だけだし」

 村の人たちは誰も悪くない。たった1人に騙されたからといって滅ぼすのは違うと思う。
 私の言葉を聞くとラディウスは大きなため息をついた。

 「あっそう。どちらにせよ滅んで当然だろ、そんなヤツ。
 俺は人間が1番嫌いなんだよ。外見で何もかも決めつけやがって』

 「外見……?」

 『そうだ。
 お前、好きな話があるって言ってたよな?あれは実話なんだよ!』

 「え……」

 「ドラゴニアメモリーズ」のことだとすぐにわかった。確かにリル村の村長さんも想定だとは言っていたので
実話だと言われても納得はできる。
 しかしそれだと1つおかしい部分があった。住処に近づいた者は生きて帰ってこなかったという所だ。
「ドラコニアメモリーズ」にはそんな箇所はない。

 「でもラディウスは悪いことしてたよね?だって村の人たちを……」

 『全員じゃねぇよ。ほとんどはワイバーンのヤツラにやられたんだ』

 「本当?」

 『嘘じゃねぇ』

 ラディウスをじっと見つめると血のように赤い色の瞳も私を見つめてきた。
ぬいぐるみのときは黒色だったのでなんだか変な感じだ。
 それに利用されていたというのに、今のラディウスの言葉は嘘ではないと思った。
 するとテネルもピョンピョン跳ねながらラディウスに尋ねる。

 『えー、ホントですかー?』

 『本当だって言ってんだろ!
  あーもうウザッてぇ!どうしても帰らねぇって言うんなら、消し飛ばす!』

 ラディウスは1歩踏み出すと鋭い目つきで私を見据えた。
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