上 下
18 / 27
第1章 勘当旅編

17話 リル村とホワイトドラゴン

しおりを挟む
 テネルのおかげで無事にリル村に着いた。とてものどかで自然が多く、
アンゼータやノレトスとは空気が全く違う。
道は土で整備されていため街道よりも歩きにくい。
何人か畑で仕事をしているようだがおじいさんおばあさんの姿が目立ち、若者は少ない。

 「自然が多い村だね」

 『ですねー。空気が澄んでいておいしいです』

 『だが、豊かとは言えなさそうだな。家を見てみろよ』

 ラディウスの言葉に従って注意近くの家を深く見てみると外壁のあちこちに木材が打ちつけられていた。建て替える余裕がないみたいだ。
 もし実家で雨漏りが起こったら板ごと取り替えていたため、少しかわいそうだと思ってしまった。

 「って、それどころじゃないや。ドラゴンについて聞かなきゃ!」 

 『なるほどー。シーラちゃんの目的はドラゴンのお話を聞くことなんですね』

 「うん。ドラゴン好きだから」
 
 キョロキョロと周囲を見回すと井戸でおじいさんが水を組んでいた。
目的が終わって帰られたら大変なので走っていって声をかける。

 「こ、こんにちは」

 「おお、こんにちは。こんな村に観光かい?」

 「えっと、この村がホワイトドラゴンと関係があるって聞いてきたんですけど……」

 「ああ、そのことなら村長が詳しいよ。あそこの小高い丘に1軒家があるだろう?そこが村長の家だから行ってみるといい」

 「ありがとうございます!」

 お礼を言ってさっそくその場所に向かう。木のドアを軽くノックして中を覗いてみる。

 「すみませーん、村長さんはいらっしゃいますか?」

 「私がそうだが……何か?」

 テーブルに座って書き物をしていた茶髪の男の人が振り返った。
鼻と口の間にヒゲは生えているものの、想像していたよりも若くて少しビックリする。

 「えっと、ホワイトドラゴンに詳しいって伺ったんですけど」

 「君もか。……こちらへ来て座りなさい」

 『なんか感じ悪いな』

 『ラディウスさん気が合いますねー。ワタシもそうなんですよー。
 シーラちゃん、少し警戒しておいた方がいいかもです』

 促されるままイスに腰かける。
 初対面の人を疑いたくはないが、ラディウスとテネルの言うことも無視できないので少しだけ警戒しておくことにした。

 「それで、ホワイトドラゴンの何について聞きたいんだい?」

 「全部です!」

 「ぜ、全部⁉」

 『わー、ストレートですねー』

 村長さんはビックリすぎてイスから転げ落ちそうになった。
そうは言われても聞きたいものは聞きたい。

 「そ、そうかね。話の前に1つ教えてほしい。君はホワイトドラゴンをどこで知ったんだね?」

 「知った、というよりは好きなお話があるんです。『ドラゴニアメモリーズ』っていう。
まさか実在してるとは思ってなかったのでビックリしてます」

 「その物語は私も知っているよ。本当かどうかはわからないが、実話を元にしたとも言われていてね」

 「実話……」

 「ただの噂だよ。それにもし本当なら、ホワイトドラゴンが人間に害を与えるはずがないからね」

 村長さんは一息つくと私をまっすぐ見つめる。
真剣な表情に思わず唾をのみ込んだ。

 「さて、本題に入ろうか。ホワイトドラゴンはそれは恐ろしくてな」

 「そんなに凶暴だったんですか?」

 「いいや。積極的に人間を襲ってはいなかった。
それに私の祖父の頃から存在していたみたいだが、村が被害にあった回数は少ないと聞いている。
 ただ、縄張り意識が強くて住処に近づいた者は2度と帰っては来なかった。
そして近づいた者がいた翌日、見せしめに村の畑を全部ダメにして帰っていったんだ」

 「住処に近づかないようには言っていたんですよね?」

 「もちろんさ。だが、好奇心の強い若者やよそ者はこっそり近づいてしまってね。畑を何回もやられたよ」

 当然かもしれないが『ドラゴニアメモリーズ』とは内容が違うみたいだ。
お話の中のホワイトドラゴンは畑を荒らすなんてことはしていない。
少しガッカリした。

 「じゃあ畑を守るためにドラゴンの討伐を……」

 「ああ、そうだ。いつ畑がやられるかもしれないという不安と恐怖に怯えるのは嫌だったからね。
この村だけじゃ討伐は厳しいから他の国に力を貸してもらったよ」

 「ドラゴンは強かったんですよね?」

 「そりゃあもう。私も見届人として同行させてもらったが凄まじかったよ。隊を組んで行ったんだが負傷者が何人も出てね。
だけどドラゴンスレイヤーって人たちが立ち回って討伐してくれたんだ。名前をお伺いしたのに目立つのは嫌いだからって誰も教えてくれなかったけれど」

 アンゼータで会った元・ドラゴンスレイヤーの男の人の姿が頭をよぎる。
しかし討伐したのは複数人だし、彼はホワイトドラゴンが死んでいることを知らなかったみたいなので無関係だと思う。

 「なるほど。
 住処ってここから近いですか?」

 「少し遠い。ホワイトドラゴンはずっと南の山に住んでいたんだ。でも行っても何もないよ。
それに魔物も出るから行くのはやめておいた方がいいだろう。どうしても行きたいというのなら止めはしないがね」
 
 「わかりました!ありがとうございます!」

 そう言ってから1つ引っかかった言葉があったのを思い出した。また忘れないうちに尋ねることにする。

 「そういえば最初の方に「君も」って、おっしゃっていましたけど」

 「この大陸でホワイトドラゴンは有名みたいでね、訪ねてくる人が増えたんだ。
実物はすでにいないのに、話を聞きたいだとか住処に行きたいだとか」

 『まんまお前じゃねぇか』
  
 ラディウスの鋭いツッコミに苦笑いしかできない。誤魔化すように立ち上がると村長さんに笑いかける。

 「わたし、そろそろ行きますね。お話、ありがとうございました」

 「少しでも君の為になったのならよかったよ。
 そうだ、余計なお世話かもしれないが、空き家でよければ少し休んでいったらどうだね?」

 「え、いいんですか?ありがとうございます!」

 「親切な人ですねー。疑って悪かったです」

 村長さんが案内してくれた家は入り口付近にあった。いろいろ不安はあるが、せっかく休ませてもらえるのに文句は言えない。

 「年中明るいし大丈夫だとは思うが、念のためカギを掛けておいた方がいい。何があるかわからないからね」

 「はい」

 村長さんにお礼を言ってから受け取ったカギで家の中に入る。前に誰かが泊まってからそんなに日は経っていないようで、床や窓は綺麗に掃除されていた。
所々に白い花が置かれていて甘い香りを出しており、息をするたびに体の中に入ってきて心地よくなってくる。

 「いい匂い~。気持ちもホッコリしてくるね」

 『ですねー。なんだか眠くなってきちゃいました……』

 「んー、たしかに……」

 今までの疲れからか睡魔が襲ってきて、抵抗できずにベッドに倒れ込んだ。






 その頃、村長はシーラに案内した家を眺めながら深いため息をついていた。 

 「ホワイトドラゴン……力尽きてもなお、まだその有名さから訪ねに来る者が多い。
 それにしても今日の子は困ったよ。あそこまで目を輝かせながら話した子は初めてだ。
あの様子だと住処に行く気みたいだが、魔物の怖さを知らないのかね」

 振り返り、いつの間にかテーブルに腰掛けていた2人組の男に声をかける。

 「と、いうことだ。またいつも通り頼まれてくれるか?」

 「ヘーイ。今回のヤツは金持ってそうだな。まだ若いし1人だし絶好の獲物だ」

 「村長さんよ、何してもいいんだったよなぁ?」

 ブキミに笑う男たちを見て村長はゆっくりと頷くと、服のポケットからカギを取り出して片方の男に渡す。スペアキーのようだ。

 「ああ。くれぐれもバレるんじゃないぞ」

 「今までバレてないんだから今回もバレねぇさ。
ヘへッ、分け前が楽しみだなぁ」

 「しかしうまいこと考えたな、村長さんよ。
 ホワイトドラゴン見たさに訪れたよそ者を睡眠作用のある花の香りを充満させた空き家で休ませる。
眠っている間に近くの洞窟に運び、金を持ってそうなヤツは目を覚ましたら素性を吐かせて強奪。そうでないヤツは強奪して始末する。
後日奪ったものを売りさばいてアンタと分け合う」

 「素性を吐かせた金持ちの家に身代金を要求。
少しずつ装飾品と交換して、最後は――」

 興奮してイスが立ち上がった男を村長が眉間にシワを寄せて制止する。
我に返った男はスゴスゴとイスに座り直した。

 「声が大きくなってきている。お前たちは隠伏者いんぷくしゃなのだからな」

 「すいやせんでした。
じゃあ、6つ目の鐘以降に」

 2人組は立ち上がると慎重に家を出ていった。
村長は再びため息をつくと自分専用のテーブルに向かう。

 「……この村も衰退してきているからな。仕方のないことなのだ……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜

神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。 聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。 イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。 いわゆる地味子だ。 彼女の能力も地味だった。 使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。 唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。 そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。 ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。 しかし、彼女は目立たない実力者だった。 素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。 司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。 難しい相談でも難なくこなす知識と教養。 全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。 彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。 彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。 地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。 全部で5万字。 カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。 HOTランキング女性向け1位。 日間ファンタジーランキング1位。 日間完結ランキング1位。 応援してくれた、みなさんのおかげです。 ありがとうございます。とても嬉しいです!

【完結】『サヨナラ』そう呟き、崖から身を投げようとする私の手を誰かに引かれました。

仰木 あん
ファンタジー
継母に苛められ、義理の妹には全てを取り上げられる。 実の父にも蔑まれ、生きる希望を失ったアメリアは、家を抜け出し、海へと向かう。 たどり着いた崖から身を投げようとするアメリアは、見知らぬ人物に手を引かれ、一命を取り留める。 そんなところから、彼女の運命は好転をし始める。 そんなお話。 フィクションです。 名前、団体、関係ありません。 設定はゆるいと思われます。 ハッピーなエンドに向かっております。 12、13、14、15話は【胸糞展開】になっておりますのでご注意下さい。 登場人物 アメリア=フュルスト;主人公…二十一歳 キース=エネロワ;公爵…二十四歳 マリア=エネロワ;キースの娘…五歳 オリビエ=フュルスト;アメリアの実父 ソフィア;アメリアの義理の妹二十歳 エリザベス;アメリアの継母 ステルベン=ギネリン;王国の王

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

無価値と呼ばれる『恵みの聖女』は、実は転生した大聖女でした〜荒れ地の国の開拓記〜

深凪雪花
ファンタジー
 四聖女の一人である『恵みの聖女』は、緑豊かなシムディア王国においては無価値な聖女とされている。しかし、今代の『恵みの聖女』クラリスは、やる気のない性格から三食昼寝付きの聖宮生活に満足していた。  このままこの暮らしが続く……と思いきや、お前を養う金がもったいない、という理由から荒れ地の国タナルの王子サイードに嫁がされることになってしまう。  ひょんなことからサイードとともにタナルの人々が住めない不毛な荒れ地を開拓することになったクラリスは、前世の知識やチート魔法を駆使して国土開拓します! ※突っ込みどころがあるお話かもしれませんが、生温かく見守っていただけたら幸いです。ですが、ご指摘やご意見は大歓迎です。 ※恋愛要素は薄いかもしれません。

【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…

三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった! 次の話(グレイ視点)にて完結になります。 お読みいただきありがとうございました。

スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~

白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」 マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。 そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。 だが、この世には例外というものがある。 ストロング家の次女であるアールマティだ。 実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。 そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】 戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。 「仰せのままに」 父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。 「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」 脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。 アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃 ストロング領は大飢饉となっていた。 農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。 主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。 短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。

処理中です...