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13話 お買い物

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  宿屋は町の入り口に面したところに建っていた。まだ昼間なこともあってか部屋を取ることができたので、
休憩も兼ねてラディウスと一緒にベッドでくつろぐ。

 「部屋とれてよかった~」

 『ここは人少ないみたいだからな。船に乗ってたのも10人いるかいないかぐらいだっただろ』

 「確かに……」 

  ラディウスの言う通りだ。船は私から見ればじゅうぶん大きかったが世界の基準では小さい部類だったのだろう。
それに貿易船とも言っていたし、あまり人は乗せられないのかもしれない。

 「それにお金のこと何も言われなくてよかったなー」
 
 『お前さっきからよかったよかったばっかりじゃねぇか。そんなに心配だったのかよ?』

「うん。だって悪い人に騙されるとか捕まるとか嫌じゃん」

『意外だな。そんなの全く頭にないかと思ったぜ』 

「あるよ。一応」

  よく他の貴族からも「騒ぎに無縁そう」とは言われることはあったが、厄介事には巻き込まれたくない。
 私の言葉を聞いたラディウスはいっそう高く飛び跳ねた。

『あるのかよ!?』

「一応ね。
あ、そうだ。お金確認しよう」

『……急だな……』

 ラディウスをスルーして 革袋からお金を取り出して広げる。
銀貨と銅貨が6枚ずつ。宿泊費が銅貨4枚だったので銀貨で払ったら6枚貰えたのだ。 

「銅貨10枚で銀貨1枚と同じ価値なんだね」

『みたいだな。少しはオドオドしなくてよくなるな!ハハハハッ!』

「オドオドはしてないよ!ただ、お金持ちって思われたらどうしようって」 

『ハハハハ!そういうのをオドオドっていうんだよ!』

 実は宿泊費を渡すときに挙動不審になってしまったのだった。少し前に言った心配したしてないのことを返されてしまい、
ラディウスはそのことをわかっているのか一定間隔で飛び上がっている。
返す言葉が見つからないので卑怯な手だが話題を変えることにした。  

「せっかく時間あるし、お買い物しようかな」

『……フーン、まぁ、いいんじゃね』

「え、いいの?」 

 てっきり早く故郷に帰りたいのかと思っていたので許可が出たことにビックリする。
それに時間がかかると言ったのはラディウスだし、ゆっくりしていいのだろうか。

『ヴァイスア大陸にはいるんだからな。急いでるわけじゃねぇし』

「そうなんだ。優しいんだね」

『は⁉お前のために言ったわけじゃねぇよ⁉まだ調子戻ってねぇし、ゆっくりでもいいかと思っただけだ!』

「わかった。そういうことにして――」

 言いながら立ち上がった瞬間、両足に痛みが走り思わず屈む。

「筋肉痛だったの忘れてた……」

『その割には軽快に歩いていたが鈍感だったのか?』

「そうみたい……いろいろあったから」

『……バーカ』

 テーブルを支えにしてゆっくり立ち上がると、ラディウスを肩に乗せて部屋を出た。 
 再び通りに出るとさっきより賑やかになって人が増えている。この時間になると多くなるのかもしれない。
 
「何買おっかな~」

『鈍感娘め。足痛いくせによ』
 
「痛いのは確かなんだけど、さっきほどじゃないし」

 不思議と足を動かしているとそこまで痛みを感じない。その場でジャンプしてみたが叫ぶほど痛くはなかった。
私の様子を見てラディウスはため息をつく。

『そうかよ……。
 話は変わるが買う物迷ってんだろ?役立ちそうな物にしとけ』

「役立ちそうな物?あ、そういえばラディウスって旅してたんだよね?
何持ってたの?」

『……ダガー。少しかさばるが邪魔な草や紐切れるからな、便利だったぞ』

「へ~、そうなんだ。どこに売ってる?」

『箱入り娘が!それぐらい考えりゃわかるだろ!』

 日用品だろうか。看板を目印にそれらしいお店を探して回る。ところがお店自体が少ないようで5軒分ほど歩いてようやく羽根ペンが描かれた看板を見つけた。
中に入ると棚に綺麗に陳列された雑貨が視界に映る。しかしブラシや布袋等ばかりでダガーを見つけられない。

 「思ってたよりいろんな物売ってあるね」

 『店が少ないみたいだからな。1箇所に集中してるんだろうよ』 

 「なるほど。よし、わからない時は聞こう!」

 さっそくお店の奥にいる金髪のお兄さんに声をかけた。

 「すみません、ダガーって置いてますか?」

 「ああ。こっちだよ」

 受け渡し机のすぐ近くの机に案内してくれた。
私の手より少し大きいダガーが何本も置いてある。

 「思ったよりたくさん……」

 「持っていきたい人が多いみたいだからね。でも刃物だから目が届く所に置いているんだ。
それで、どれにする?俺のオススメはこれだけど」

 そう言って端に置かれている他のダガーよりひと回り小さい物を手に取った。
どの辺りがオススメなのかわからずに首を傾げていると、お兄さんは慣れた手つきで刃を持つ部分にしまったのだった。

 「と、どうなってるんですか?」

 『折りたたみ式だな。確かに便利だが――』

 「折りたたみ式っていう刃を柄の部分に収納できるようになってるんだ。こうしておけば鞘付きみたいに荷物やポケットの中で急に外れる、
なんてことがなくなるからね」

 お兄さんはラディウスと同じことを言って折りたたみのダガーを私に渡してくれた。自由に見ていいということだろう。

 「へ~、これにしようかな」

 『待て、まだ続きがある。確かに刃の収納は便利だが、その分切れ味は落ちるし折りたたむ部分から水が入るとすぐ壊れるぜ。
俺は普通のヤツを勧める』

 一気に理解はできなかったが、壊れやすいということはわかった。
それにしてもめちゃくちゃ詳しい。さすがは元旅人。
お兄さんには申し訳ないが、ラディウスの言う事の方が説得力があるので普通のタガーを買うことにした。

 「やっぱり普通のをください。魅力的だったけど初めて持つのでこっちの方がいいかなって」

 「了解。じゃあ柄の色はどれにする?」

 机に目を戻すと赤、青、緑などの綺麗に装飾された柄が視界に映る。
明るい色は好きだが持ち歩くには目立つので、当たり障りのない白を選んだ。

 「白にします」

 「よし、銀貨2枚だよ」

 「ちょっと待ってください。えーっと」

 革袋をあさるフリをする。いくらお店の中とはいえお金を持っていると思われたら面倒なことになりそうだからだ。
 ようやく見つけたようにしてお兄さんに銀貨を渡した。

 「確かに受け取ったよ。扱いには気をつけてね」

 「はい!ありがとうございました!」

 そそくさと店を後にする。ダガーは少し重たいが、これからのことを考えるといい買い物だったと思う。

 「ありがとう、ラディウス。おかげでいい買い物ができたよ」

 『別にー』

 「なんでそっけないの?」

 『…………』

 もう少し問い詰めようかとも思ったが疲れているみたいだったので、今度聞くことにした。
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