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第1章 勘当旅編
10話 宿屋での出来事
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翌朝、窓から射し込む光で目を覚ました。
「ん~、よく寝たっ――足が痛い⁉」
『あ~あ、歩きすぎて筋肉痛になりやがったな』
少し離れた場所から声が聞こえる。いつの間にかラディウスはテーブルの上に移動していた。起きてから移動したのだろうか。
カクカクとしたぎこちない動作で立ち上がってテーブルの側のイスに座ると、ラディウスが盛大に笑い出す。
『ハハハハハッ!なんだよその歩き方!生まれたてのヤギか?』
「な、なりたくてなったわけじゃないし」
『だとしてもおもしれぇだろ!ハハハハッ!』
「しばらく笑ってていいよ……」
笑い転げているラディウスをスルーして、パンを食べようと
革袋から取り出した私は思わず叫ぶ。
「なにコレーッ⁉」
パンにはところどころに緑色の物がついていた。
ラディウスは笑うのをやめるとポンポン跳ねながら近くに行く。
そしてパンを少し見てから小さくため息をついた。
『あー、コレはカビだ。
ずっと袋に入れっぱなしだったから腐ったんだな』
「食べれないの⁉」
『箱入り娘が!カビのついてるところだけちぎったら食える』
「わかった。ちぎって食べるね」
窓から景色を眺めならパンを口に運ぶ。朝だと言うのに通りはそこそこの人が行き交っていた。やっぱり船があるからだろうか。
短い朝食を終える。いつもより量は少なかったものの、
お腹は満たされていた。
パンは残りは2つになったが念のため確認するとカビがついていたので、
その部分だけちぎって、さっきちぎった分とまとめる。
『つーか、お前、カビを知らなかったのか?』
「うん」
家でそんな料理は出たことがない。もし体に悪そうな物なんて出したら
使用人が追い出されてしまうだろう。
私の言葉を聞くとラディウスは呆れたように首を左右に振る。
『……さすがは貴族だな』
「知ることが多くてビックリしてる。
ねぇ、コレどうしよう?」
『女主人にゴミとして渡すか、
持っといて道端に捨てるとかすればいいんじゃねぇの?』
「うーん……」
両手に抱えたカビパンを見ながら唸る。
家の料理でもたまに食べ残すことはあったが、私たちの食事が終わったあとで使用人たちが余った分と合わせて食べてくれていたので、
捨ててしまうのはもったいない気がする。
『なんだ?貴族ってのは食える食えないにかかわらず平気で捨てるんだろ?』
「私のところは違うよ」
『ほー、変わってんなお前のとこ』
確かに家では食べ物でも道具でも大事に扱うように言われてきた。
一部の貴族たちの間ではよくない噂があると聞いたことがあったし、
辺境に追いやられたのも価値観が違うからだろう。
さすがに革袋に入れる勇気はない。
「持って歩きたいんだけど、入れ物ないかな?」
『ねぇよ。だからってこの部屋の物勝手に持っていくなよ?』
「やっぱりダメ?」
壁に2つの布袋がかかっていたので1つ貰おうと思っていた。
ラディウスに念押しされて返事に困る。
『盗人扱いされていいなら持っていけよ』
「それは嫌だからやめとく」
仕方がないので緑色の服に着替えて、着ていた白とピンクの服を広げると
そこにカビパンを置いて丸めた。
『思いきったことしたな……。それ気に入ってるんじゃなかったのか?』
「でも他にないし、洗えばどうにかなるかなって」
さすがに服にカビは移らないと思う。
しかも黒い服はまだ1回も着ていないので、カビパンを包むならこの服しかない。
『お前がいいなら俺は何も言わん』
「よしっ!行こう!」
『おわっ⁉急だな……』
革袋とラディウスを持って1階に降りると主人の女の人に挨拶する。
「おはようございまーす」
「おはようございます。よく休まれましたか?」
「はい!おかげさまで!」
そう答えると、女の人は微笑んでから少しだけ眉をひそめて話しだした。
「あのー、もし違ったら申し訳ないのですが、
先程の叫び声はあなたですか?」
「あ……」
『まぁ、あの大きさなら聞こえるよな』
ラディウスが今日2度目の小さなため息をつく。私がカビにビックリして出してしまった声だ。
慌てて女の人に頭を下げる。
「すみませんでした!もう解決したので大丈夫です!」
「え、ええ。次回からはくれぐれもお気をつけくださいね。
他のお客様もいらっしゃいますので……」
「はい……気をつけます。
お世話になりました」
「またのご利用をお待ちしております」
女の人に2回頭を下げて宿屋を出た。
「ん~、よく寝たっ――足が痛い⁉」
『あ~あ、歩きすぎて筋肉痛になりやがったな』
少し離れた場所から声が聞こえる。いつの間にかラディウスはテーブルの上に移動していた。起きてから移動したのだろうか。
カクカクとしたぎこちない動作で立ち上がってテーブルの側のイスに座ると、ラディウスが盛大に笑い出す。
『ハハハハハッ!なんだよその歩き方!生まれたてのヤギか?』
「な、なりたくてなったわけじゃないし」
『だとしてもおもしれぇだろ!ハハハハッ!』
「しばらく笑ってていいよ……」
笑い転げているラディウスをスルーして、パンを食べようと
革袋から取り出した私は思わず叫ぶ。
「なにコレーッ⁉」
パンにはところどころに緑色の物がついていた。
ラディウスは笑うのをやめるとポンポン跳ねながら近くに行く。
そしてパンを少し見てから小さくため息をついた。
『あー、コレはカビだ。
ずっと袋に入れっぱなしだったから腐ったんだな』
「食べれないの⁉」
『箱入り娘が!カビのついてるところだけちぎったら食える』
「わかった。ちぎって食べるね」
窓から景色を眺めならパンを口に運ぶ。朝だと言うのに通りはそこそこの人が行き交っていた。やっぱり船があるからだろうか。
短い朝食を終える。いつもより量は少なかったものの、
お腹は満たされていた。
パンは残りは2つになったが念のため確認するとカビがついていたので、
その部分だけちぎって、さっきちぎった分とまとめる。
『つーか、お前、カビを知らなかったのか?』
「うん」
家でそんな料理は出たことがない。もし体に悪そうな物なんて出したら
使用人が追い出されてしまうだろう。
私の言葉を聞くとラディウスは呆れたように首を左右に振る。
『……さすがは貴族だな』
「知ることが多くてビックリしてる。
ねぇ、コレどうしよう?」
『女主人にゴミとして渡すか、
持っといて道端に捨てるとかすればいいんじゃねぇの?』
「うーん……」
両手に抱えたカビパンを見ながら唸る。
家の料理でもたまに食べ残すことはあったが、私たちの食事が終わったあとで使用人たちが余った分と合わせて食べてくれていたので、
捨ててしまうのはもったいない気がする。
『なんだ?貴族ってのは食える食えないにかかわらず平気で捨てるんだろ?』
「私のところは違うよ」
『ほー、変わってんなお前のとこ』
確かに家では食べ物でも道具でも大事に扱うように言われてきた。
一部の貴族たちの間ではよくない噂があると聞いたことがあったし、
辺境に追いやられたのも価値観が違うからだろう。
さすがに革袋に入れる勇気はない。
「持って歩きたいんだけど、入れ物ないかな?」
『ねぇよ。だからってこの部屋の物勝手に持っていくなよ?』
「やっぱりダメ?」
壁に2つの布袋がかかっていたので1つ貰おうと思っていた。
ラディウスに念押しされて返事に困る。
『盗人扱いされていいなら持っていけよ』
「それは嫌だからやめとく」
仕方がないので緑色の服に着替えて、着ていた白とピンクの服を広げると
そこにカビパンを置いて丸めた。
『思いきったことしたな……。それ気に入ってるんじゃなかったのか?』
「でも他にないし、洗えばどうにかなるかなって」
さすがに服にカビは移らないと思う。
しかも黒い服はまだ1回も着ていないので、カビパンを包むならこの服しかない。
『お前がいいなら俺は何も言わん』
「よしっ!行こう!」
『おわっ⁉急だな……』
革袋とラディウスを持って1階に降りると主人の女の人に挨拶する。
「おはようございまーす」
「おはようございます。よく休まれましたか?」
「はい!おかげさまで!」
そう答えると、女の人は微笑んでから少しだけ眉をひそめて話しだした。
「あのー、もし違ったら申し訳ないのですが、
先程の叫び声はあなたですか?」
「あ……」
『まぁ、あの大きさなら聞こえるよな』
ラディウスが今日2度目の小さなため息をつく。私がカビにビックリして出してしまった声だ。
慌てて女の人に頭を下げる。
「すみませんでした!もう解決したので大丈夫です!」
「え、ええ。次回からはくれぐれもお気をつけくださいね。
他のお客様もいらっしゃいますので……」
「はい……気をつけます。
お世話になりました」
「またのご利用をお待ちしております」
女の人に2回頭を下げて宿屋を出た。
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