61年後の香調

儚方ノ堂

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番外編

朱華鬼視点

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 当初は全く別の目的でこの季楼庵きろうあんを訪れていた。
 風の噂でがここにいると聞いたから、立ち寄ってみただけ。
 ここは愉快そうな所だけど、私には窮屈だし、長居するつもりなんてなかったわ。
 ただ気に食わない男が側にいた。
 それはあの子が今仕えてる主人で、名をシュウザン。不愉快な奴よ。
 殺しちゃうのは簡単だけど、そんなことしたらあの子が責任を感じるに決まってる。
 ――それは、面白くないのよね。
 あたしったら、余程人間の小娘を気に入ってたみたい。
 不思議ね……彼女と過ごして時間は決して長くなかったのに。
 
 さて、どうしてくれようか? と柄にも無く逡巡していたら、庵に依頼が舞い込んで来た。
 電報を受けとったキクゴロウはヨミトと何やら相談し合っている。
 どうやら人里で暴れてる異形が現れて、対処仕切れなくなったらしい。
 それも外見は若い女の子だとか。
 しかし現在の庵には適任者が不在で正直困っている、そんな様子だ。
 
 一応私は客人として滞在を許されてる身分で、庵の組員ではない。
 だから放っておけば良いのでしょうけど、欲求不満なのか血が湧き立つのだ。
 最近ずっと考え事をしていたし、気晴らしにパッと暴れたい。
 なんでも良いから暴れたい。……あぁ、すごく暴れたくなってきた。
 
「ねぇ、その暴れてる子、可愛いのかしら?」
「……え、はい?」
 二人の頭からはすっかり私の存在が抜け落ちていたらしい。これでは、どちらが監視役なのか分からない。

「可愛いかどうかは……流石に分かりかねますね」
「ただ、全身火傷しているような焦げ具合らしいよ」
「あら痛そう」
「にしても……彼女の能力、これだけの情報じゃ分からないよね。声に殺傷性でもあるのかな?」
「問題はそこですね。烈奇官にもそこの特定が出来なかったみたいですけど、誰を派遣しましょうね……いっそ私が行きますか?」
「ははは、キクのそういう所、嫌いじゃないよ? でも僕と大人しく留守番ね」
「そうですよね……」
「ねえ。適任者いないなら、あたし行きたーい」
「え」
「怖いなぁ。どういう風の吹きまわし?」
「失礼ね、丁度退屈してたし。あば……いえ、その子捕まえてきてあげるわよ」
「でも朱華鬼はねずきは……」
「いいのかしら? 私以上の適任者がいると?」
「うーん、キク。ここは朱華鬼にお願いしよう。頼るなら機嫌が良い今だと踏んだ」
「あら、理解が早くて助かるわぁ。ほら? 決断しちゃいなさいな。アタシの気が変わらないうちに」
「…………わかりました。私が全責任を持ちます。朱華鬼、行ってもらえますか?」
「えぇ、任せなさい」
「よろしくお願いします。お気をつけて」
 
 そう言って当主は頭を下げたのだ。
 正直驚いた。罵倒されることはあれど、こんな風に対応されたことがない。
 余程驚いた顔をしていたのか、キクゴロウは顔を上げ不思議そうにしていた。
「あの、どうされましたか?」
「いいえ、……そういえばあたし、何処に向かえばいいのかしら?」
「それなら神社の方に烈奇官の方が来てるから、その人が案内してくれるよ」
「あと朱華鬼、出来れば生け捕りにして連れてきて欲しい。君なら可能でしょう?」
「しょうがないわね、覚えておくわ」
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