61年後の香調

儚方ノ堂

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番外編

『  』

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 花など1輪も咲かない、殺風景なこの場所で、ハラハラと花弁が飛んでは消える。
 ワタシは腕の中で崩れていく主人を、ただ見送ることしか出来ない。
 
 きっと何も残らない。
 __存在が、無へ還ろうとしている。
(当然、ワタシも例外ではないだろう)

 本来宿るはずのないモノに宿ったこの命。
 ワタシが消えることは、死とは違う。

 だけど

 キミにとっては死ぬことより残酷な、
 キミが最も恐れたことで、
 ワタシが生まれた理由でもある。

 白状すると、たった一つだけ約束をしてしまったんだよ。
 でも、それすら放棄しようとしてる。


 約束も時が経ち過ぎれば「呪い」と一緒だ。
 おかげで情は湧くし、優先順位も入れ替わった。



 嗚呼、ワタシのご主人……
 この『露命』は

 いつかの約束も破り、キミの願いも見捨てて、ワタシのエゴを通す。



 遠い、遠い、ある昼下がり。
 無垢な幼い人間の子供の、ほんのささやかな祈りから、ワタシは生まれた。
 実体を持ち初めて目にした光景は、ワタシの小さなご主人が、あの方の傍で安眠に身を委ねていたところ。

 あれほど温かく哀しい一時を、ワタシは知らない。

 もう一生、戻ることは叶わない時間だが、どうか……キミが一番大切にしたかったモノと。
 
「憶えていたら、また逢おう」



 ――こうしてキミがここに居た証は、跡形もなく消失した。
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