61年後の香調

儚方ノ堂

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番外編

迷い子へ

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 おや、珍しい。迷い子がいるね

 お前 どこから来たんだい?



 あぁ、そうかね


 それは可哀想なことをした
 すまないね


 道は全て封鎖したが「呼ばれて」しまったんだろう。律儀についてきてしまったか
 正式な門番もいないし気づかなかったよ



 あぁ こら、待ちなさい。それ以上奥へ行ってはいけないよ。
 そもそもココから1人では出られないんだ
 私が門まで送ってあげよう
 ……おーい、聞こえているかい?



 お前の肢体は今無いようなものだからね
 気を抜くと持ってかれてしまうよ
 何がって、お前自身を、だ



 いいかい? よくお聞き
 この提灯の明かりで岐路を導いてあげる
 余所見せず、これだけを見つめて
 それととっておきの話をしてあげよう
 ワタシの声にだけ耳を傾けて


 うん、そうだ。いい子だね


 お前みたいな上玉、有象無象に喰われてしまうのは癪だからね

 いや、こちらの話



 もう迷い込まないといいけど、これで縁が出来てしまったからね
 また会うことになるかもしれないし、もう会えないかもしれない
 そうだな、忘れてくれて構わないけど
 何かの役に立つかもしれないから名乗っておこうかな

 ワタシの名は「……ト」


 さて何を話そうか
 話の種はたくさんあるんだ
 なんせ長いこと生かされているからね

 そうだな、お前には「 」の話をしてあげよう



 ははっ、食いついたね



 とは言っても、聞き手にとって幸せな話とは限らない
 絵に描いた様なハッピーエンドとは異質で
 辛く切なく悲しい。そんな感情に支配されるのかもしれない

 だけど


 人とは愛らしい生き物だと、私はそう思ったよ
 なんて自分勝手で暖かくて幸せそうなんだろうと
 私には到底理解出来ないけど
 こちらに迷い込んでしまったお前は、お気に召すかもしれない


 むかし、むかし、あるところに
 
 娘を一人残して逝く父が居た
 父の代わりに少女を見守る約束をした者は黄昏の存在だった
 忘却を望む少女はある青年に恋をした


 そして少女は
「自分と彼が決して*****未来」を望んだ、そんなお話
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