61年後の香調

儚方ノ堂

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三章 

明治二十六年 十二月三日

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 報告
 
 全焼した家屋からは幸いにも、誰の遺体も発見されなかった。
 家主が入院中に起きた不幸な事件だと思われた。
 しかし彼女は病院から姿を消しており、消息を絶っていた。
 関係があるか不明だが、彼女と同時に運ばれていた青年は、翌日未明にベッドの上で息を引き取っていたのが確認された。

 また別件で奇妙な事件も起きていた。
 火事が起こった現場近くの路地裏で、が発見された。それは遺体なんて言葉で処理出来る代物ではなかった。直接的な死因は不明とされた。
 ただ何かが出たり入ったりしたような穴が、体のあちこちに残されていた。
 明らかに人の手に負える犯行ではなかった。
 しかしどれも目撃者がおらず、捜査は難航していた。
 よって同日発生したこの不可解な事件は、明確な関係性はないものとして処理した。
 



 追記 進展あり
 
 この一帯で奇妙な目撃情報が相次いで寄せられた。
 全身に大火傷を負った少女が呻き声を上げて、街を徘徊している。
 更にその声を聞いた者が次々に死んでいく、と。
 そんな御伽話のような事態が起きていた。
 また不可解だったのが、その少女が火災にあった家の持ち主と非常に似ているという噂が立っていた。
 ――本当は火事に巻き込まれて死んだ少女が、蘇ったのではないか?
 そんな憶測が飛び、街には緊張感が漂っていた。
 
 烈奇官三名で少女の捜索に乗り出したが、生きて帰ってこれたのは私だけだった。
 もう我々では対処しかねる事態と判断し、早急に庵へ応援を要請した。
 
 その後、鞠月神社にて担当者と合流し現場へ向かった。
 庵から派遣されて来たのは長身の美女だった。
 人の形をしているが、あれは人間ではない。かなり力の強い妖か、鬼か。
 とにかく少女には全く歯の立たない相手だった。

 女は少女と対峙すると、その細腕で軽々と締め上げ、地面へ叩きつけた。
 我々があれほど手こずっていた相手を、ものの数秒で気絶させてしまったのだ。
 こちらが敵では無くて良かったと心底安堵した。
 女は少女の身柄はこちらで預かると告げ、早々に帰っていった。
 我々は破壊された地面の修繕作業に取り掛かった。
 
 数日後、身柄を確保した少女は庵の方で始末したと報告を受けた。
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