61年後の香調

儚方ノ堂

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二章 栞恩視点

(10)幸せだと、感じてしまった

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「これからも、なんて容易く言わないで……残された方の気持ち考えたことある?」

「僕は……栞恩が本気で拒絶しない限り、急に消えたりしないよ」
「そんなの分からないでしょう? どれだけ善人でも突然死ぬことだってあるの」
「じゃあ賭けてみよう」
「賭け?」
「君の言う『これからも』が何らかの形で果たされなかった時だ。どんな姿になっても会いに行くと約束する。もし破ったら……」
「破ったら?」
「僕を嫌いになっていい」
「……なによ、それ。そんな賭け成立するはずないでしょ」
「それがするんだなぁ。少しは未来に希望、生まれた?」
「バカね……燐灯はいいの? そんな約束を簡単に取り付けて」
「簡単なもんか。一世一代の男気だよ」


 私は動揺してしまった。

 今まで感じないようにしていたものを、目の前に突きつけられたから。
 もうそれを簡単に拒むことは、出来なくなっていた。
 それほど彼に情が移ってしまった。



 ――異変はすぐに訪れた。

 足元が急にグラグラと大きく揺れ始め、ハッとしたのだ。
 そこで察した。ついに呼び寄せてしまったのか、と。
 彼の言葉がそれほどまでに嬉しかったのだと、悲しくも証明されてしまった。
 もうこれで死んでも悔いはない、そう心から思った。
 だからこの先に何が待ち受けているかなんて、あの瞬間は知る由もなかった。

 ただ最後に聞こえたのは、私の名前を必死で呼ぶ大好きな男の声だった。

 次に瞳を開けると、見知らぬ天井に視界が支配される。


 ――そこは音が消えた世界だった。

 以降は筆談によって知らされた経緯だ。
 まず尋常じゃない音がしたらしい。
 硝子が割れる音。誰かの叫び声。ぐしゃりと何かがつぶれる音。
 そして静寂が訪れた。
 不自然に思ったお隣さんが我が家の様子を見に来た。
 そこはまるで地震の被害にでも遭った様な散乱具合で、室内は滅茶苦茶になっていた。
 無論その日、あの地域で地震なんて起きてない。

 ほとんどの人にとっては、いたって平穏な昼下がりだった。
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