8 / 39
二章 栞恩視点
(4)背負った罪
しおりを挟む
――これは私しか知らないこと。
数日経ったある晩、あの時と同じ者が枕元に立っていた。
飛び起きて、それと真正面から向き合った。それは精一杯の虚勢だった。
どうして騙すような真似をしたのか、やるせ無い思いを訴えるとそいつは言った。
「やはり覚えていたか。これでも君には感謝してるんだよ? ……だが、もう必要ない、出来るだけ早くこの世を去ってくれ。おかげさまで、疑われてるみたいなんだ。もうこちらからは手出し出来ないから、置き土産を」
私の額に人差し指を押し当てながら、それは続けた。
「これはキミがこれからの人生で『最も幸福を感じた時』に恐ろしい悲劇を迎える、そんな呪い。殺すとか直接的で強力なもの、僕には無理だから。まあ保険だよ。自分の霊力の高さを恨むんだね」
そう唱え終わると、目前の相手は青い光に包まれて燃え上がった。不思議と熱は感じなかった。ただ漠然とその光景を見つめていると、やがて塵となった欠片が私の肌に溶け込み、消えないシミを作った。
――心底気味悪く感じた。
なんてデタラメな戯言。そんな現実味のないこと、真に受ける必要はない。
しかし全てを幻と片付けるには無理があるぞと、猛烈な経験と汚された肌が、それを裏付けるように主張していた。
あの扉を開けたのは間違いなく私自身だ。それは覆しようがない事実。
どこかで分かっていたのに。……あんな暗くて狭い所に、居鶴がいるはずないって。
だから天罰だと思い、間近に迫る死を受け入れた。
そこに恐怖はなかった。その方が救われると気づいてしまったから。
なのに今も私はこうして生きている。
あの時誰かに命を掬われてしまい、悟った。
――投げ出せない、と。それを許してくれない人がいることを。
ならば……答えは最初から一つしか残されていなかった。
数日経ったある晩、あの時と同じ者が枕元に立っていた。
飛び起きて、それと真正面から向き合った。それは精一杯の虚勢だった。
どうして騙すような真似をしたのか、やるせ無い思いを訴えるとそいつは言った。
「やはり覚えていたか。これでも君には感謝してるんだよ? ……だが、もう必要ない、出来るだけ早くこの世を去ってくれ。おかげさまで、疑われてるみたいなんだ。もうこちらからは手出し出来ないから、置き土産を」
私の額に人差し指を押し当てながら、それは続けた。
「これはキミがこれからの人生で『最も幸福を感じた時』に恐ろしい悲劇を迎える、そんな呪い。殺すとか直接的で強力なもの、僕には無理だから。まあ保険だよ。自分の霊力の高さを恨むんだね」
そう唱え終わると、目前の相手は青い光に包まれて燃え上がった。不思議と熱は感じなかった。ただ漠然とその光景を見つめていると、やがて塵となった欠片が私の肌に溶け込み、消えないシミを作った。
――心底気味悪く感じた。
なんてデタラメな戯言。そんな現実味のないこと、真に受ける必要はない。
しかし全てを幻と片付けるには無理があるぞと、猛烈な経験と汚された肌が、それを裏付けるように主張していた。
あの扉を開けたのは間違いなく私自身だ。それは覆しようがない事実。
どこかで分かっていたのに。……あんな暗くて狭い所に、居鶴がいるはずないって。
だから天罰だと思い、間近に迫る死を受け入れた。
そこに恐怖はなかった。その方が救われると気づいてしまったから。
なのに今も私はこうして生きている。
あの時誰かに命を掬われてしまい、悟った。
――投げ出せない、と。それを許してくれない人がいることを。
ならば……答えは最初から一つしか残されていなかった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/chara_novel.png?id=8b2153dfd89d29eccb9a)
闇に堕つとも君を愛す
咲屋安希
キャラ文芸
『とらわれの華は恋にひらく』の第三部、最終話です。
正体不明の敵『滅亡の魔物』に御乙神一族は追い詰められていき、とうとう半数にまで数を減らしてしまった。若き宗主、御乙神輝は生き残った者達を集め、最後の作戦を伝え準備に入る。
千早は明に、御乙神一族への恨みを捨て輝に協力してほしいと頼む。未来は莫大な力を持つ神刀・星覇の使い手である明の、心ひとつにかかっていると先代宗主・輝明も遺書に書き残していた。
けれど明は了承しない。けれど内心では、愛する母親を殺された恨みと、自分を親身になって育ててくれた御乙神一族の人々への親愛に板ばさみになり苦悩していた。
そして明は千早を突き放す。それは千早を大切に思うゆえの行動だったが、明に想いを寄せる千早は傷つく。
そんな二人の様子に気付き、輝はある決断を下す。理屈としては正しい行動だったが、輝にとっては、つらく苦しい決断だった。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/chara_novel.png?id=8b2153dfd89d29eccb9a)
ひかるのヒミツ
世々良木夜風
キャラ文芸
ひかるは14才のお嬢様。魔法少女専門グッズ店の店長さんをやっていて、毎日、学業との両立に奮闘中!
そんなひかるは実は悪の秘密結社ダーク・ライトの首領で、魔法少女と戦う宿命を持っていたりするのです!
でも、魔法少女と戦うときは何故か男の人の姿に...それには過去のトラウマが関連しているらしいのですが...
魔法少女あり!悪の組織あり!勘違いあり!感動なし!の悪乗りコメディ、スタート!!
気楽に読める作品を目指してますので、ヒマなときにでもどうぞ。
途中から読んでも大丈夫なので、気になるサブタイトルから読むのもありかと思います。
※小説家になろう様にも掲載しています。
癒しのあやかしBAR~あなたのお悩み解決します~
じゅん
キャラ文芸
【第6回「ほっこり・じんわり大賞」奨励賞 受賞👑】
ある日、半妖だと判明した女子大生の毬瑠子が、父親である美貌の吸血鬼が経営するバーでアルバイトをすることになり、困っているあやかしを助ける、ハートフルな連作短編。
人として生きてきた主人公が突如、吸血鬼として生きねばならなくなって戸惑うも、あやかしたちと過ごすうちに運命を受け入れる。そして、気づかなかった親との絆も知ることに――。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる