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二章 栞恩視点
(3)誘惑
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ある夜、奇妙な体験をした。
なにかが家の中にいた。
そんなこと今までなかった。
でもそれは、人の良さそうな声色で優しく囁いた。
「キミの一番会いたい人に、会わせてあげるよ」
私は気がつくと、何者かに手を引かれ、歩いていた。
見知らぬ場所だった。来てはいけない場所だと感じた。
それでも、僅かな可能性に望みをかけてしまった。
思い出したら心が壊れてしまうほど、何と引き換えにしてでも、会いたい人。
――そんな私の弱さにつけ込まれて、結果利用された。
「この先に小さなお堂があって、その中でキミを待っているよ。扉を開けてごらん」
そんな風に唆されて、私は無我夢中で固く閉された扉を開けてしまった。
扉の先にいたのは……居鶴じゃなかった。
そもそも人間ですらなかった。
それは蛇のように細長く蟠を巻いた植物で、全身に無数の目が生えた化け物だった。
その醜悪な見た目に吐き気と恐怖を覚え、体の自由を奪われた。
見てはいけない、逃げなくてはいけない。そう脳が警鐘を鳴らす。
けれど、どうすることも出来なかった。
たとえ化物がこちらに向かって来ても、手足が一歩も前に出なかった。……いや、動かす意思を放棄した。
だって死ねば、居鶴に会えると気づいてしまったから。
でも私はこの時死ななかった。こんな私を引っ張り上げた人がいたからだ。
それからの事はとても曖昧で、はっきりとは覚えてない。
誰かがずっと私を庇ってる……そんな光景を遠くで見ていた気がした。
次に目を開くと、馴染み深い風景が視界に入った。
いつの間にか自室に戻っていたのだ。心底安堵した。
それまでのことが全て悪夢だったらいいのに、と期待した。
しかしそうはいかなかった。
なにかが家の中にいた。
そんなこと今までなかった。
でもそれは、人の良さそうな声色で優しく囁いた。
「キミの一番会いたい人に、会わせてあげるよ」
私は気がつくと、何者かに手を引かれ、歩いていた。
見知らぬ場所だった。来てはいけない場所だと感じた。
それでも、僅かな可能性に望みをかけてしまった。
思い出したら心が壊れてしまうほど、何と引き換えにしてでも、会いたい人。
――そんな私の弱さにつけ込まれて、結果利用された。
「この先に小さなお堂があって、その中でキミを待っているよ。扉を開けてごらん」
そんな風に唆されて、私は無我夢中で固く閉された扉を開けてしまった。
扉の先にいたのは……居鶴じゃなかった。
そもそも人間ですらなかった。
それは蛇のように細長く蟠を巻いた植物で、全身に無数の目が生えた化け物だった。
その醜悪な見た目に吐き気と恐怖を覚え、体の自由を奪われた。
見てはいけない、逃げなくてはいけない。そう脳が警鐘を鳴らす。
けれど、どうすることも出来なかった。
たとえ化物がこちらに向かって来ても、手足が一歩も前に出なかった。……いや、動かす意思を放棄した。
だって死ねば、居鶴に会えると気づいてしまったから。
でも私はこの時死ななかった。こんな私を引っ張り上げた人がいたからだ。
それからの事はとても曖昧で、はっきりとは覚えてない。
誰かがずっと私を庇ってる……そんな光景を遠くで見ていた気がした。
次に目を開くと、馴染み深い風景が視界に入った。
いつの間にか自室に戻っていたのだ。心底安堵した。
それまでのことが全て悪夢だったらいいのに、と期待した。
しかしそうはいかなかった。
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