61年後の香調

儚方ノ堂

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二章 栞恩視点

(3)誘惑

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 ある夜、奇妙な体験をした。

 が家の中にいた。
 そんなこと今までなかった。
 でもそれは、人の良さそうな声色で優しく囁いた。

「キミの一番会いたい人に、会わせてあげるよ」

 
 私は気がつくと、何者かに手を引かれ、歩いていた。
 見知らぬ場所だった。だと感じた。
 それでも、僅かな可能性に望みをかけてしまった。
 思い出したら心が壊れてしまうほど、何と引き換えにしてでも、会いたい人。
 ――そんな私の弱さにつけ込まれて、結果利用された。
 
「この先に小さなお堂があって、その中でキミを待っているよ。扉を開けてごらん」

 そんな風にそそのかされて、私は無我夢中で固く閉された扉を開けてしまった。
 扉の先にいたのは……居鶴じゃなかった。
 そもそも


 それは蛇のように細長く蟠を巻いた植物で、全身に無数の目が生えた化け物だった。
 その醜悪な見た目に吐き気と恐怖を覚え、体の自由を奪われた。
 見てはいけない、逃げなくてはいけない。そう脳が警鐘を鳴らす。
 けれど、どうすることも出来なかった。
 たとえ化物がこちらに向かって来ても、手足が一歩も前に出なかった。……いや、動かす意思を放棄した。

 だって死ねば、居鶴に会えると気づいてしまったから。
 でも私はこの時死ななかった。こんな私を引っ張り上げた人がいたからだ。
 それからの事はとても曖昧で、はっきりとは覚えてない。
 誰かがずっと私を庇ってる……そんな光景を遠くで見ていた気がした。

 
 次に目を開くと、馴染み深い風景が視界に入った。
 いつの間にか自室に戻っていたのだ。心底安堵した。
 それまでのことが全て悪夢だったらいいのに、と期待した。

 しかしそうはいかなかった。
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