61年後の香調

儚方ノ堂

文字の大きさ
上 下
3 / 39
一章

キクゴロウ視点

しおりを挟む
 私は誰にも告げず、彼らの元を訪れていた。
 ここは庵の関係者でも、ごく限られた一部の者達しか知らない秘匿された場所。そ
 この最深部に少女は封じられ、今は眠りについている。

 そして彼は今日も変わらず彼女の側にいた。

「報告に来ました、露命ろめいさん」
「驚いた、本当に来たのか」

 彼は少女の付喪神で、幼い時から側で彼女を見守ってきた。
 彼らとの出会いは十数年前に遡る。
 そう気づかせてくれたのは彼の存在と、証言あってこそだ。
 言い換えると、彼らはあの時すでに巻き込まれていた。
 取り返しのつかない今になって知る事になるとは……。

「本当に申し訳ない仕打ちをしました。どんなに謝罪しても足らないでしょう。それを承知の上で話します。当第三茶室の主人シュウザンが此度の元凶。内々で確認を取り、言い逃れできない証拠も我々は入手しました。彼の処遇については今晩中に責任を取らせます」
「そうか……」
「ただそれはこちらのけじめ。ここからは私独断の話です」

 
 かねてより決めていた提案を打ち明ける為に、大きく深呼吸する。
 これはヨミトにも相談していない、決断だった。

「今からシュウザン暗殺のために、庵内は騒がしくなるでしょう。それを利用してお二人を逃して差し上げたい」
「いや、でもそれは」
「えぇ、分かっています。外に出るということは、術が解かれるということ。また先刻のように暴れてしまうでしょう。でも……」
「今しかないのか」
「残念ながら。でも可能な限り、お二人の気持ちを尊重したい。こんな瀬戸際に選択を迫ってしまい、申し訳ない」
「気持ちは有難いが、自由になるのは難しいだろうな。もう誰の声も届かないし、ワタシも彼女を制御することは出来ない……待て、静かに」
「どうされました?」
「誰か、こちらに来るぞ」
 
 そう告げ露命は姿を隠した。彼は基本、私以外に姿を現さないからだ。
 呼吸を整え、後方の相手の顔を確認する。
 それは此処に来られるはずのない、意外な人物であった。

 足元まである長い髪を揺らしながら、彼は持ち場を巡回する足取りで、ゆったりと真っ直ぐこちらに向かって歩いていきた。

 第二茶室の庭師である長身の男の名は――。
「……ホウゲツ? どうやって此処に、」
「まあ細かいことはいいでしょう。悪い様にはしませんよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

闇に堕つとも君を愛す

咲屋安希
キャラ文芸
 『とらわれの華は恋にひらく』の第三部、最終話です。  正体不明の敵『滅亡の魔物』に御乙神一族は追い詰められていき、とうとう半数にまで数を減らしてしまった。若き宗主、御乙神輝は生き残った者達を集め、最後の作戦を伝え準備に入る。  千早は明に、御乙神一族への恨みを捨て輝に協力してほしいと頼む。未来は莫大な力を持つ神刀・星覇の使い手である明の、心ひとつにかかっていると先代宗主・輝明も遺書に書き残していた。  けれど明は了承しない。けれど内心では、愛する母親を殺された恨みと、自分を親身になって育ててくれた御乙神一族の人々への親愛に板ばさみになり苦悩していた。  そして明は千早を突き放す。それは千早を大切に思うゆえの行動だったが、明に想いを寄せる千早は傷つく。  そんな二人の様子に気付き、輝はある決断を下す。理屈としては正しい行動だったが、輝にとっては、つらく苦しい決断だった。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

ひかるのヒミツ

世々良木夜風
キャラ文芸
ひかるは14才のお嬢様。魔法少女専門グッズ店の店長さんをやっていて、毎日、学業との両立に奮闘中! そんなひかるは実は悪の秘密結社ダーク・ライトの首領で、魔法少女と戦う宿命を持っていたりするのです! でも、魔法少女と戦うときは何故か男の人の姿に...それには過去のトラウマが関連しているらしいのですが... 魔法少女あり!悪の組織あり!勘違いあり!感動なし!の悪乗りコメディ、スタート!! 気楽に読める作品を目指してますので、ヒマなときにでもどうぞ。 途中から読んでも大丈夫なので、気になるサブタイトルから読むのもありかと思います。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

癒しのあやかしBAR~あなたのお悩み解決します~

じゅん
キャラ文芸
【第6回「ほっこり・じんわり大賞」奨励賞 受賞👑】  ある日、半妖だと判明した女子大生の毬瑠子が、父親である美貌の吸血鬼が経営するバーでアルバイトをすることになり、困っているあやかしを助ける、ハートフルな連作短編。  人として生きてきた主人公が突如、吸血鬼として生きねばならなくなって戸惑うも、あやかしたちと過ごすうちに運命を受け入れる。そして、気づかなかった親との絆も知ることに――。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

処理中です...