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1.思い出した記憶

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ガシャン!


最近特にハマっている茶葉で休憩の紅茶を楽しんでいた私が紅茶の入ったカップを落とした音だ。侍女が慌てて私に駆け寄った。

「お嬢様!お怪我は!?」

侍女はスグに飛び散った破片を拾い集めていく。
そんな声を遠くに聞きながら私は頭の中を巡る多くの貴族の生徒が周りを囲まれ断罪される私の苦い記憶に吐き気を覚えた。次々に映像が頭の中を駆ける。紅茶の跳ねたドレスを着替えるために立ち上がった私は頭の中に流れ込んできた映像を思い出し顔を歪めた。

私は前世の世界で友人がのめり込んでいた乙女ゲームの世界の悪役令嬢に生まれ変わったようだ。

まあ今までは知らなかったが。私はそれをついさっき知ったのだ。知ったというよりも思い出したという方が正しいのか。一種のフラッシュバックだ。


私は一年後の卒業式でこのゲームのヒロインのサラ・ヒーラーをいじめたことを婚約者である我が国の第二王子ライアン殿下とほかの攻略対象に国王陛下もいらっしゃる公の場で暴かれ処刑される。いじめたぐらいで処刑とはおかしな話だ。と一瞬思ったが映像の中の断罪で数多くの罪罪状読み上げられた内容の多くは身に覚えのないもの、偽りだったことを思い出した。

理不尽すぎる。

そしてもっと理不尽なのは何故か卒業式のはずだった断罪イベントが王家主催のガーデンパーティーで始まったことだ。あと一年の猶予は何処に行ったのか。私は前世の記憶を得たその日から断罪イベントまでの1年間のうちに私の冤罪を嘘であると証明するために色々な計画を練っていた。

リズ殿下の腕を抱き、婚約者の私を差し置いてその隣に居座る図太さに感服した。ガーデンパーティーが終盤に差し掛かりリズ殿下とほかの攻略者が中央に進み出て私を指さして私がどれだけサラに対し非道ないじめを行ったか私の悪女っぷりを語った。

体が使って既婚者を誘惑して不貞を働いたやら、人を雇って暴漢にサラを襲わせようとしただの、国の金を横領して贅沢をして国を傾けようと画策しているだの。

おそらく横領している人間がいたのは本当だろう。その罪を私に着せただけのことだ。その他にもまだ私の罪は続くようだ。

私はそれを聞きながら一ヶ月の猶予が突然無くなったことにひどく驚いた。そして同時に狼狽えた。

前世の記憶がフラッシュバックしてから自分が死なない方法を考えていた。実際サラに婚約者のいる男性に馴れ馴れしくするなと面と向かって文句を言った。だが、体に傷をつけたりはしていない。そんなことは自分の立場を鑑みて出来るわけがなかった。家の名前はそんなに軽いものじゃない。

それにいくら公爵の爵位を賜るの家だからといって、一介の令嬢が好き勝手に国の金に手をつけられるわけがない。令嬢一人で傾くような国はとうの昔にそのような事が起こり国は滅びているだろうに。

私がしたこと以外の濡れ衣が私の罪でないと証明できたなら、もし刑罰が下ったとしても命だけは助かるだろう。例え貴族社会で生きていくことが不可能になっても命さえあればと思った。家の恥だと家を追い出されたら適当に好きなことをやって暮らそうと思った。貴族として教養で充分食べていけるだろうとも思っていた。

そんなことを考えているうちに私の罪の告白は終わったようだ。
リズ殿下は私を指さして言った。

「ベアトリーチェ!お前とは婚約破棄だ。今日、私はサラとの婚約を宣言する!これだけの罪を犯したんだ。お前は処刑される。あの罪人を捕らえろ!」



そして王宮近衛騎士団に命じた。王国の気高い忠実なる騎士達は、私の目の前に壁を作りジリジリと私を置いつてめる。

私の目の前に攻略対象の一人王宮近衛騎士団長の息子であるカイルが踊り出た。彼はニヤリと自信に満ちた笑みを浮かべた。これから。私はまた一歩下がった。





この国は他国との貿易が盛んで栄えている国だ。国の西側に海を隔てて国がある。その国と密な貿易によって国内で一番栄えているのは西部だ。王城は貿易が盛んな港の近くにおかれている。

城の西側は海だ。平時であればそこから見下ろす海がひどく美しい場所だ。それが仇になった。私の周りを囲んで威圧してくる王族のための近衛兵達に追い詰められた。下は海だ。私はとうとう逃げ場を失った。風の音がやけに大きく聞こえる。

一瞬強い風が吹いた。私の体はふわりと煽られそのまま身体が傾いた。

私は浮遊感に包まれる。
私は自分の体が落下していることを肌を撫でる風で感じながら、しばらくして海に叩きつけられたのだ。

体に強い衝撃が襲う。きっと一瞬の出来事だったのだろう。しかし、やけにゆっくりに感じた。
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